【短編猫小説】スミオ 2:馴れてゆく僕
さて。
ご挨拶も済んだから、これからは、普通に話すことにするね。
僕は、新しい家に引っ越しをした。
初めてのこの家が、安心な場所だろう、ということは
感じ取っていたけれど、
一応最初は念のため、警戒や確認をしなくてはならない。
本能というものがそうしろ、と、言った。
なので、家具の隙間に嵌まり込んだり、
机の下に潜んだりして、様子を窺うことにした。
ニンゲンの家族は、お父さんとお母さん、オトナのお姉ちゃん。
話し声がする。
「スミちゃん、隠れてるね」
「みんな最初はね」
「そうそう、隠れるよね、早く馴れるといいね」
「スミちゃん、出てきていいからねー、ここはスミちゃんのおうちなんだからねー」
新しいお母さんが、何度も言っているのが聞こえる。
僕に声はかけるけれど、
無理矢理引きずり出して、触ろうとする、なんてことは全くなく、
ただ、放っておいてくれたのは有難かった。
うん、わかってるじゃん。
ごはんや、トイレは、
誰もいない時に出て行って済ませるようにして、部屋を練り歩いた。
あちこちの匂いを嗅いだりしているうち、良い場所を発見した。
高いところ、いいんじゃない?
僕はエイヤッとジャンプして冷蔵庫の上に飛び乗った。
僕の筋力の見せどころ。
まあ、実際はね、誰もいない、見ていない時だったんだけどね。
高いところは、部屋中が見渡せて、すこぶる快適だった。
お母さんが帰ってきて、僕を見つけた。
「スミちゃん、そんなところに登ったの?すごい!」
僕は得意になって、見得を切る態度をした。
お母さんが言った。
「スミちゃんは、すごく睥睨しているね」
睥睨。そうだ。僕はへいげいだ。
そろそろ、みんながいる時も、練り歩いてもいいかな、と思った。
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