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【猫小説】スミオ 2:馴れてゆく僕


さて。
ご挨拶も済んだことだし、これからは、普通に話すことにするね。

僕は、新しい家に引っ越しをした。
僕が生まれてから八か月が過ぎた、春の日のことだった。
初めてのこの家は安全な場所だろう、ということは
感じ取っていたけれど、
一応最初は念のため、警戒や確認をしなくてはならない。
本能というものが「そうしろ」と言った。

なので、机の下に潜んだり、家具の隙間に嵌まり込んだりして、
様子を窺うことにした。

この家で暮らすニンゲンの家族は、お父さんとお母さん、オトナのお姉ちゃん。
あとは、離れて暮らしているオトナのお兄ちゃん。
話し声がする。
「スミちゃん、やっぱり隠れてるね」
「みんな最初はね」
「そうそう、隠れるよね、早く馴れるといいね」

「スミちゃん、出てきていいからねー。
ここはもう、スミちゃんのおうちなんだからねー」
新しいお母さんが、何度も言っているのが聞こえる。

僕に声はかけるけれど、
無理矢理引きずり出して、触ろうとする、なんてことは全くなく、
ただ、放っておいてくれたのは有難かった。
いいね、うん、わかってるじゃん。

誰もいない時に、ごはんや、トイレを済ませて、部屋を練り歩いた。
あちこちの匂いを嗅いで、辺りを見回していたら、良い場所を発見した。

高いところ、いいんじゃない?

僕はエイヤッとジャンプして、冷蔵庫の上に飛び乗った。
僕の筋力の見せどころ。
まあ、実際はね、誰もいないし、誰も見ていない時だったんだけどね。

高いところは、部屋中が見渡せて、すこぶる快適だった。

お母さんが帰ってきて、僕を見つけた。
「スミちゃん、そんなところに登ったの? すごい!」
僕は得意になって、見得を切る態度をして見せた。
お母さんが言った。
「スミちゃんは、すごく睥睨しているね」
睥睨。そうか。僕は「へいげい」だ。

そろそろ、みんながいる時も、下に降りて練り歩いてもいいかな、と思った。


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