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【猫小説】スミオ 7:お母さんの後悔
あと、もう少し、きなちゃんのことを話したい。
前に、きなちゃんは、怒られるようなことは一度もなかったと言ったでしょう?
そのことなんだけど。
僕がまた、血気盛んモードに入っていたある日。
僕は、まおさんにちょっかいを出していた。
まおさんは、テーブルの下に逃げ込んで、僕に向かってぎゃあぎゃあと叫んでいた。
それでもちょっかいを止められない僕は、
まおさんとの距離を少しずつ詰めながら、にじり寄って飛びかかる機会をうかがっていた。
すると、あろうことか、そこにきなちゃんもやってきて、僕の前に歩み出て、まおさんに、詰め寄って行ったんだ。
その時はそう見えた。
「あ! どうしてきなちゃんまで、そういうことするの!
きなちゃんがこの家に来た時から、まおちゃん、ずっと優しくしてくれてたでしょ! それはいじめだよ!」
お母さんが、きなちゃんに対して、初めて声を荒げた。
きなちゃんは、みるみるしょんぼり小さくなっちゃって、
僕もちょっかいどころではなくなってしまった。
「違うのに……。わたし、まおさんにスミちゃんのこと、説明して、なんとか仲良くなってもらえたらと思って……」
きなちゃんは、ぽろぽろと涙をこぼした。
「ちょっと! スミちゃんもいい加減にしなさいよ! まおちゃんが、
かわいそうだよ!」
僕も怒られた。それは当然だよ。悪いのは僕なんだから。
「お母さん、違うんだよ、きなちゃんは、僕たちの仲を取り持とうとしてくれていたんだよ」
一生懸命に訴えたけど、お母さんは、激烈に怒りまくっていて、
僕の声は届かなかった。
「わしのことで、怒られてしまってすまなかった。ほんとにごめんよ、
きなちゃん」
まおさんが申し訳なさそうに言った。
「うん。いいの。大丈夫よ」
きなちゃんは、涙を振り払ってにっこりしたけど、気丈にふるまう姿が、
かえってとても痛々しく見えた。
誤解が解けないまま、月日が流れて、
きなちゃんは病気になって、いなくなってしまった。
きなちゃんが亡くなって、一週間後のことだ。
お母さんの友達の、アニマルコミュニケーターさんが、きなちゃんがいなくなる時に、お母さんやお姉ちゃんに遺した言葉を聞き取って、
お母さんに教えてくれた。
アニマルコミュニケーターさん、ていうのは、僕たちの言いたいことや、気持ちを感じ取って、ニンゲンの言葉に変えて伝えてくれるという、すごく頼りになる人だ。
それは、お姉ちゃんへのきなちゃんの想いがいっぱい詰まったメッセージと、あの日の出来事の話だった。
お母さんは、そこで初めて本当のことを知った。
「きなちゃん、ごめんね。あの時、あんなふうに怒ってごめんね。きなちゃんはそんなことしないって、わかってたはずなのに」
お母さんは、泣きながら、きなちゃんに謝り続けた。
その時―。
きなちゃんの声が聞こえてきたんだよ。
「お母さん、もういいのよ、わたし、怒ってないよ。お母さんの気持ち、わかったからね。だからもう泣かないで」
その声は、お母さんにも届いたらしかった。
お母さんは、もう一度
「ほんとにごめんね」
と、小さい声で言って、涙だらけの顔を拭いた。
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