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【猫小説】スミオ 12:僕と、お母さん

お姉ちゃんは、結婚に向けて、準備やらなにやらで、忙しくしていて、家にいないことが多くなった。

僕は、お母さんの話を聞くことが増えた。

ある日、お母さんが言った。
「みんな、いなくなっちゃったけど、
スミちゃんがいてくれてほんとに良かったよ、ありがとうね。
一緒に暮らしてた動物とお別れするとね、それが、すっごく悲しかったから、もう二度とそんな思いはしたくない、だから二度と動物とは暮らさない、っていう人がいるんだけど、うちは、いつも誰かがいてくれたでしょ? わたしは、それでとっても救われたんだ」

僕は、黙って聞いていた。

お母さんは、続けて言った。
「一匹一匹が、みんな唯一無二の存在で、お別れしてもそれは変らない。
いつもそこに存在があって、いつも逢いたいし、寂しいよ。
だけどもう逢えないじゃない? 
そんな時、もし、ほかに誰もいなかったら、って想像すると、
もっともっと寂しくて、きっと耐えられなかったと思うんだ」

その言葉を聞いた時、僕は、シャ太郎くんたちが僕に託したのは、こういうことだったんだな、ってわかったんだ。

「でもね、わたしの年齢を考えたら、一緒に暮らす猫は、もうスミちゃんが最後かな、って思うよ」

お母さんは、ちょっと寂しそうに笑った。

また、別のある日のこと。

ニンゲンは猫の下僕、っていう人がいるんだけど、わたしはそうは思ってないんだ、とお母さんは話し始めた。
「それとかね、犬や猫を赤ちゃんみたいに扱って、
ナニナニちゃん、ママでちゅよ~、とか言うのも違うと思ってるんだ。
わたしは、スミちゃんのお母さん、てことになってるけど、
それは、便宜上、衣食住のお世話をしてるからっていう意味だよ。
わたしとスミちゃんは、対等な関係なの。どっちが上とか下とかじゃないの。親子でもないの。素のままでいられる、すごく居心地がいい大事な関係ってことだよ」

僕自身も、お母さん、て呼んでいるけど、そういう「お母さん」じゃないんだよ、って思ってた。お母さんの説明を聞いて、そう! これこれ! って思ったよ。

やっぱり、お母さん、わかってるじゃん。

僕は嬉しくなって、その日は、お母さんの胸の上に乗っかって寝た。
重いよスミちゃん、と言いながら、お母さんも嬉しがっていた。

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