【猫小説】スミオ 5:ニンゲンのお父さん
僕が、新しい家に行く前のこと。最初に僕を見つけてくれたお母さんと、
お姉ちゃんが、僕を今の家に連れて行った。
「顔見せ」というやつ。
新しい家には、三匹の猫がいるから、
僕が行ったら四匹になるっていうことで、
今のお母さんは、最初は、少し「迷い」があったらしい。
だけど、新しいお母さんは、
実は、尻尾の長いオスの黒猫と暮らしたい、っていう夢があったんだって。
そこに、ドンピシャのタイミングで、
僕という存在が、浮上してきたってわけ。
僕を見つけてくれたお母さんの家は、マンションで、
ペット可だったんだけど、
二匹までしか飼ってはいけません、という決まりがあった。
その家にはすでに二匹、おじさん猫がいたから、
それで僕は、最初の家にはいられないってことになったんだ。
最初のお母さんと、
新しい今のお母さんは、ずっと昔から仲の良い友達同士だった。
僕のことを聞いた今のお母さんは、運命を感じちゃったみたい。
だけど迷いもあった。そこでお父さんの登場となる。
その、顔見せの時に、お父さんが帰ってきた。
にこにこしながら、しばらく僕を見ていたお父さんが言った。
「この子、うちに来るんでしょ?」
「いいの?」
お母さんの顔が輝いた。
「いいじゃない。かわいいじゃん。来たらいいよ」
こういうの、ニンゲンは「鶴の一声」って言うらしい。
お父さんの一言で、僕の居場所が決定したんだ。
お父さんは、無口だった。仕事第一の人だった。
お母さんは、
昔の関白おやじだ、自分勝手だ、って怒ってることが多かった。
でも、僕たち猫には、優しい人だったんだよ。
おしゃべりはしないけど、黙ってみんなをなでてくれてた。
秋にシャ太郎くんがいなくなって、冬になって年が明けて、寒い日の朝。
お父さんは家で亡くなった。
僕は知らなかったんだけど、お父さんも癌だったんだ。
亡くなる二日前まで仕事に行っていて、
本当だったら、もう電車に乗って出かけるなんてできないはずなのに、
なんて人だろう、武士みたいだよね、って、
お母さんが友だちと話しているのを聞いた。
まおさんは、よくお父さんの膝に座っていたので、
ものすごく落ち込んでしまった。
「また、大事な家族がいなくなっちゃった」
僕が言うと、きなちゃんが
「お父さんも、シャ太郎くんも、しばらく前から病気だったこと、
わかってたけど、わかってたからって、
悲しくないなんてことはないわよね。
わたしたち、その分、健康でいなきゃいけないんだよ。
頑張ろうね、スミちゃん」
と、元気を振り絞るように言った。
いよいよ僕は、みんなを守れるオトコにならねばならない。
お父さん、シャ太郎くん、見ててね。
僕は決意を新たにして、上を向いてすっくと立ちあがった。
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