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【猫小説】スミオ 3:猫の家族


実はね、新しい家には、先住の猫もいたんだ。
先住猫は、三匹。
最初は、僕を遠巻きに眺めているだけで、
いや、眺めているっていうか、見守ってるって感じかな。
僕をいじめる、なんてことはなかった。
僕が隠れて、警戒確認をしている時も、
こっそりごはんを食べたりトイレを使う時も、
構わないようにしてくれていた。

おかあさんが、みんなに僕を紹介した。
「スミオだよ。みんな仲良くね。
みんなよりだいぶ年下だから、いろいろ、教えてあげてね」

まおさんは、ヒト年齢で言うと、もうすぐ七十歳。
見た目は若々しかったけど、実年齢は高齢者。
白と淡いグレーの毛色で、ブルーの眼をしていた。

シャ太郎くんは、ヒト年齢で言うと五十代。
身体の大きな、イケメンのイケオジ茶猫。

そして、きな、と呼ばれているきなこちゃん。
ヒト年齢だと三十代半ば。
いわゆるアラフォーだけど、可愛くて、しっかり者で、フトコロが深そう。
アメショのレッドタビー。

かくして、この家には、僕を入れて、猫が四匹暮らすこととなった。

馴れてきた僕は、遊びたくてうずうずしてきた。
部屋中を駆け回ったり、高いところに飛び乗ったり、
面白そうなものを見つけると、飛びかかって遊んだ。

「スミちゃんは、血気盛んだね」
お母さんが笑っている。

僕は、そのうち、ひとりで遊んでいるのがつまらなくなってきた。

「まおさん、おはよう」
近くに行くと、まおさんは怒った顔をしてそっぽを向いた。

「ねえ、遊んでよ」
「いや、もうチビの相手なんかできないよ。
わしのそばには近寄らないでくれ」
「ふうん、けち」

僕はムカついて、まおさんにじゃれかかっていった。
まおさんは発狂して騒いで逃げた。
なんだか面白くなってしまって、僕は追い回した。

「ちょっと! やめなさいよ、まおさん、嫌がってるじゃない!」
きなちゃんが言った。
「だって僕、遊びたいんだもん」
「だったら、わたしが相手してあげるわよ、おいで」

「チビっていうのは、マジで疲れを知らないからなあ。
きなが相手してやるっていうのも無理あるんじゃないか?」
シャ太郎くんが寄ってきて言った。
「あー、そうねえ、確かに。年齢差あるもんね」
「ま、とにかく、まおさんのことはそっとしておいてあげてよ。
ここでは、みんな穏やかに暮らしてるからさ、あんまり暴れんなよ。
一年もすれば、お前も少し落ち着くと思うよ。
ちょっとは遊んでやるからさ、それで我慢しろよ」

そんなこと言われたってさ。僕はたくさん遊びたいよ。
今、遊びたいよ。遊びたいだけだよ。
みんなだって、若いときがあったんじゃないの?
ねえ、わかるでしょう?

以来、シャ太郎くんと、きなちゃんは、たまに一緒に遊んでくれた。
お母さんや、お姉ちゃんも、おもちゃをフリフリして遊んでくれた。
でも、お母さんはすぐ疲れちゃうし、
お姉ちゃんは忙しいから、遊びの時間は少しだった。
そんなんじゃ遊び足りない僕は、むずむずと不満だった。

まおさんは、めっぽう神経質だった。
近寄ると大騒ぎするのが面白くて、僕はわざと脅かす遊びをして、
そのたびにみんなに止められた。お母さんにも怒られた。
だけど。
僕の中の何かが沸き起こってくると、制御できなくなっちゃうんだ。
僕はまおさんに、ちょっかいを出し続けた。
今になると、悪いことしたなって思う。
まおさん、高齢者だったのに。もっといたわるべきだったよ。
だけどさ、これって、ティーンエイジャーの性でもあるんだよね。
その時はやめられなかったんだよ。ごめんなさい。

夜は、お母さんが寝ているベッドの上で、
シャ太郎くんときなちゃんとくっついて眠った。
お母さんは、足が伸ばせないとか、寝返りが打てないとか言いながらも、
嬉しそうだった。

まおさんだけは、ひとりで眠れる場所に隠れるようにして眠っていて、
お母さんは、そのことは気にしていた。
これもまた「今となっては」なんだけどね、
僕がまおさんの寝ていた場所をとっちゃったんだなって、
申し訳ない気持ちになるんだ。

ともあれ、僕が「血気盛んモード」に入らない限りは、
平穏な毎日が過ぎて行った。

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