まちの遊園地、喫茶店
いつもドアのカーテンが閉まってる
開店しているのか分からない
あの渋い喫茶店へと足を運ぶ。
カーテンをしているせいなのか、薄暗い店内。
しかし、いつだってその薄暗さからは
想像できないような
暖かい空気感が漂っている。
昼時を過ぎていたからか、
落ち着いた店内の少し大きめのテーブルに
「そこ、座っていいよ。」
と遠くから声をかけられた。
まるで日常で染み付いた習慣かのように
コーヒーメニューをすっ飛ばしては、
定食メニューへ。
キンキンに冷えているのであろう
激しく結露した昔ながらのカリタのケトルから
たっぷりと注がれる水を受け取り、
そのまま注文する。
"カツカレー、福神漬け抜いてもらえます?"
"あら、食べれんとね?"
なんて、おばあちゃんの家で聞いたような
優しいフレーズを噛み締めて、甘えてみる。
さて今日はどの漫画で
カツカレーを待とうか。
長い営業を共にしたであろう
日焼けした漫画を一見する。
どこかノスタルジックさを感じる「ゴルゴ13」
昔は読み方すら分からなかった「頭文字D」
僕には縁がないのかな。
なんて思っていた「サラリーマン金太郎」
どれも魅力的に見えてしまう
喫茶店マジックだ。
バスケ少年だった僕が手にしたのは、
「スラムダンク」
何巻でもいいやなんて思いながら手にした
8巻。
『大人になれよ、、、三井、、』
やけに日焼けしたそのページが
心を震わせた気がした。
そんなこんなで、
漫画の世界に入り込んでいると
「お待たせしました」と目の前に
カツカレーが飛び込んできた。
今どき流行りの、
スパイスカレーなんかじゃない
本格家カレー。
辛さはほどほどに、
ほのかに余韻に甘さを感じるような味わいは
期待を簡単に超えてきた。
喫茶店の魅力はどこにあるのだろう。
きっと、こんなふうにその場所で起こる小さな出来事たちが積み重なって、少しずつ
"面白味"を出していくのだろう。
穏やかで暖かいお店の雰囲気
視覚ですら冷たさを感じる結露したケトル
信じられないほど日焼けした漫画本
そこにある美味しさは、
酸味や甘味・旨味だけに止まらず、
そんな面白味も相まった結果であろう。
コーヒーだってきっとそうだ。
深く焙煎された豆を使ったアイスコーヒー
どこの生産地なのか、なんて
もちろん伝えられずに渡される。
でも、それがいいのかもしれない。
なんだろう?なんて、わくわくして飲める。
普段カウンターの中で、
コーヒーを提供している僕でさえも、
そんな魅力の詰まった空間の前では、
クオリティなんかじゃなく、
純粋に楽しむ消費者となっていた気がする。
食後に楽しもうと思っていた
アイスコーヒーを飲みほして、
今日は少しだけ遠回りして帰ろうか。
そんな帰路は、
しがみついて離さないビターな余韻が
散歩の共だった。