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【第3ー2回】動画の著作者と著作権者って特別なのか!?(映画の著作物)【著作権法をはじめからていねいに】

さて、前回の予告通り、映画の著作物です。
映画というのは、それこそ多くの関係者がかかわってきますので、共同著作物以上に権利関係が錯綜します。映画のクレジットを見ていただければわかりますが、山ほど関係者がいます。関係者が多くいるのであれば、整理しておかないと大変なことになります。
今回は、そんな映画の著作物について。


1 映画の著作物=動画の著作物

まず、著作権法上は映画の著作物と規定されていますが、そのままだといわゆる映画のみなのか?となり、わかりにくいかもしれません。実際の所、映画に限らずYouTubeもゲームなども含まれますので、動画の著作物と言い換えてもらったほうが良いと思います。以降では、映画の著作物を動画の著作物としていきましょう。

2 動画の著作物について、著作者の整理(①職務著作)

まず、考えておくことは、①職務著作になるかどうかです。

例えば、自社の宣伝広告動画を作るなんてことが考えられます。この場合、当該動画を職務として創作することになります。職務著作となれば、当該法人に著作(財産)権も著作者人格権も帰属しますから、著作権の帰属についてあれこれ悩む必要がなくなります。

職務著作の詳細については、第3回を参照してください。

職務著作が成立するならば、後の話は特に検討不要となりますので、最後まで飛んでもらってもいいくらいです。

3 動画の著作物について、著作者の整理(②ー1:全体的形成寄与者)

さて、職務著作にならない場合、著作者はどうなるのか。冒頭にあるように、動画の著作物は山ほど関係者がいるわけで、監督・カメラマンなど撮影に限っても人数が多いことこの上なく、創作者を絞るのが難しいわけです。

これについて、著作権法は「その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」としています(著作権法16条)。

この全体的形成に創作的に寄与したとは、「一貫したイメージをもって映画制作の全体に参加している者」とされています。条文の制作・監督といった言葉からすれば、プロデューサーや監督となりそうですが、そういった肩書に限定されるものではなく、その者の具体的な関与の有無・範囲・程度に照らして判断することになります。

このあたりの裁判例としては、宇宙戦艦ヤマト事件(東京地裁平成14年3月25日判決)、超時空要塞マクロス事件(東京地裁平成15年1月20日判決、東京高裁平成15年9月25日判決)、グッバイキャロル事件(東京地裁平成18年9月13日判決)、霊言DVD事件(東京地裁平成24年9月28日判決)などがあります。

なお、映画の著作物において、翻案された著作物、複製された著作物の著作者は除外されています(例えば、原作小説の著作者)。これらも部分的には全体的形成に創作的に寄与しているといえますが、映画とは別に二次的著作物としての権利を有するなどがあるので除外されています(ちなみに、これらの権利者をクラシカルオーサーと呼び、全体的形成に寄与した者をモダンオーサーと呼んでいます。)

4 動画の著作物について、著作権の帰属先(②ー2映画製作者)

3のとおり、動画の著作物について著作者が全体的形成に創作的に寄与した者になるわけですが、当該「著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束している」場合、著作権は当該映画製作者に帰属すると規定されています(著作権法29条1項)。

映画の著作物(第十五条第一項、次項又は第三項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。

著作権法29条1項

一見するとわかりにくい話ですが、16条によって動画の著作物について著作者が決まり、その人間に著作(財産)権と著作者人格権が帰属します。そのうえで、著作(財産)権は、映画製作者に帰属と処理する規定です。

ここでいう「映画製作者」は「製作に発意と責任を有する者」と規定されています(著作権法2条1項10号)。

この映画製作者に著作権を帰属させる意図ですが、映画製作者が投下資本を回収しやすくするなどといったことが言われています。

このことに関連し、よく、衣がつくと、つかないで書き分けているといわれますが、ここでいう製作者は創作意思だけでなく、権利義務の主体となり権利を有する一方でリスクも負うものとされています。

そういったリスクを負うからこそ、投下資本を回収しやすくするための権利集中を認めるというイメージで考えてもらうとよいと思います。

このあたりの裁判例としては、前述した超時空要塞マクロス事件のほか、山口組五代目組長継承式ビデオ放映事件(大阪地裁平成5年3月23日判決)、角川映画事件(東京地裁平成15年4月23日判決)、宇宙戦艦ヤマトパチンコゲーム事件(東京地裁平成18年12月27日判決)、ケーズデンキテレビCM原版事件(東京地裁平成23年12月14日判決、知財高裁平成24年10月25日判決)、自作映画「すたあ」事件(東京地裁平成30年3月19日判決)などがあります。

5 最後に

映画の著作物については、複数人がかかわることからその整理を意図して、著作者を定めるなどをしているわけです。一方、権利を得ることがない各スタッフについてはクラシカルオーサーを除き、法的な権利保護は規定されていません。その分は契約によって相応の対価を定めるということが重要になります。

それこそ、映画制作にあたってフリーランスが関与することは非常に多いところですし、自身の作業とその対価といったものについてきちんと定めることが何よりも重要です。著作権法の話をしておく本稿ですが、著作権法にのみ頼る必要なく、それこそ昨年施行されたフリーランス新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)なども参照しながら対応いただきたいところです。

さて、少し延長しましたが、著作物・著作権者まで進みましたので、いよいよ個別の権利に入りたいと思います。

最初は、著作権(CopyRight)の根本である複製権からスタートしましょう。複製とは何か、どう複製であると判断するかといったところについて触れていきたいと思います。

それでは次回。


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