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【第2回】著作物とは【著作権法をはじめからていねいに】

さて、2回目です。今回は著作権の源である「著作物」についてです。
1回目と同様に、法律の条文からスタートしましょう。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 著作者 著作物を創作する者をいう。

著作権法第2条1項1号、2号

著作権は、著作物を創作した著作者に帰属します。著作物にあたるものを作らなければ発生しないので、そもそも著作物ってなんぞやと知ることがポイントになります。


1 著作物の定義(まとめ)

さて、上述した太字部分が著作物の定義になりますが、この要件を細かく分解してみましょう。

①:対象が「表現」であること
②:①が「思想または感情」を表現したものであること
③:①に「創作性」があること
④:①が「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」こと
となってきます。

そこ、「思想を表現」ってのを、怪しいとか思わない。

2 ①「表現」であること

この要件は、「表現」でないといけませんというものですが、これ、抽象的なアイデアだったり、テーマといったものは含まないということがポイントです。

例えば、SNS上でアニメキャラを描きました=アニメキャラの複製で著作権侵害だ!にはならないのです。それこそ、アニメのワンシーンであったり、具体的なものを複製することが必要となってきます(この件で参考になるのが、ポパイネクタイ事件判決(最判平成9年7月17日)です)。

一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということはできないからである。

ポパイネクタイ事件判決(最判平成9年7月17日)

そのほか、抽象的なアイデアも具体的な表現ではありません。裁判においても、具体的な表現を比較検討することになりますので、表現に表れてこないものを保護するということは著作権の目的ではないのです。
(アイデアを保護するのは、特許などになります。)

もちろん抽象的なアイデアなのか、具体的な表現なのかという事は線引きが非常に難しいです。アイディア・表現二分論といいますが、簡単に二分できるものではないですし、それこそ裁判ではバチバチの争いになります。

3 ②①が「思想又は感情」を表現したものであること

次の要件である「思想または感情」、これが意味するのは、事実そのものなどは含まれないということです。

例えば、○○さんが令和6年何月何日に亡くなった。こういったイベントを開催した。そういった報道されることはありますよね。

著作権法には、こういうことが起きた、という事実の伝達に過ぎないものは著作物に当たらないと規定されています。

2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。

著作権法第10条2項

この事実報道について著作権を認めるならば、これを複製することは権利侵害となりますが、それは文化の発展に資するものでもありません。そういった観点から著作権という独占権を与えないとしていると言えます。

「額の汗は保護に値しない」という法格言もあるのですが、汗水たらして事実を見つけてもそのことだけで著作権が生じるというものではないのです。

で、この話、言葉を変えれば、伝達にとどまらない報道は保護しうるわけです。そこに創意工夫がある表現は、文化の発展に資するという価値判断なんですね。

※ちなみに「著作権法をはじめからていねいに」においては、わかりやすさを重視する投稿をと考え、法の目的に引き付けて解説をする形にしています。そういった説明はこじつけだ!とか学者の先生からすると突っ込みを受けるところもあるやもしれませんが、ご容赦いただければ幸いです。

4 ③①に「創作性」があること

さて、次に出てきたのが創作性という言葉です。
「文化の発展」という目的からするとピカソ、モネなどといった芸術的価値の高い作品に著作権を認め、画家でもない一般人が書いた落書きは保護に値しないのか?

それこそ、いろいろなものがあるからこそ、多様な表現があり、それによって文化が発展していくといえますよね。
なので、創作性は、芸術的かだとかうまい下手で区別しないということができます。
ここは特許などと異なってきます。

(特許の要件)
第二十九条
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

特許法第29条2項

(意匠登録の要件)
第三条
2 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られ、頒布された刊行物に記載され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた形状等又は画像に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、同項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。

意匠法第3条2項

特許は、その分野の人が容易に発明できないこと(進歩性)が登録要件として必要ですし、意匠は、容易に意匠の創作をすることができないこと(創作非容易性)が登録要件となっています。
ある程度、レベルの高いものであることが必要になるのですが、この点は産業の発展という法律の目的からも考える要件ですね。

5 ④①が「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」こと

この要件が問題になることはまずありません。じゃあ、何であるんだって。

コンメンタールによれば、「著作権法の守備範囲はあくまでも文化の範疇にとどまるべきであるという価値判断の現れ」「産業の発展を目的とする工業所有権との境界を抽象的に表現しているものである」「発明などの工業所有権の保護の対象である技術の範囲に属するものを除く点」に意味があるとのこと(著作権法コンメンタール〈1〉勁草書房)。

過去、選挙の当落予想表の著作物性が争われた事件において指摘がありましたが、まぁ、こういった文言があるくらいにとどめておいてもらってもよいかなと思います。

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そんなわけで今回は著作権について触れました。著作物、簡単そうで、意外と当該物に「創作性があるか」を考えますと難しくなってくるところです。

次回第3回ですが、著作物であればそれを創作した人が著作者となり、著作権を有することになってきます。ただ、著作権者について必ずそうなるわけではないのがまた小難しいところ。

そういったところで、「著作権者」「著作者」について触れていきたいと思います。

次回もよろしくお願いします!


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