ステーブルコイン規制関連パブコメ案(2022/12/26公表)のポイント
先日公表された下記のパブコメ案のうち、ステーブルコイン規制関連の部分について、ポイントを簡単にまとめてみたいと思います(*1)(*2)。
(*1) 必ずしも網羅的ではありませんので、その点はご了承ください。
(*2) 為替取引分析業と高額電子移転可能型前払式支払手段に関する改正については本記事では割愛させていただきます。
1.パブコメ案の位置づけ
今回のパブコメ案(以下「本パブコメ案」といいます。)は、2022年資金決済法等改正(以下「改正法」といいます。)の下記事項のうち、①と②に関する政省令やガイドラインを整備するものです。
なお、③については、本パブコメ案に先立って政省令とガイドラインの案が公表されています(パブコメ期間は既に終了)。
本改正の概要については、こちらの過去記事をご参照いただければと思います。また、本改正に関する新旧対照表については、新日本法規さんが横書きのものを作成してくださっていますので、こちらもご参照ください。
本改正の施行日は、公布日(2022年6月10日)から1年以内で政令で定める日とされています。この「政令」は現時点では未定ですが、本パブコメ案の公表タイミングから考えると、おそらく、施行日は2023年4月~5月頃になるのではないかと思われます。
なお、パブコメの募集期間は、2023年1月31日(火)までです。意見・コメントがある場合は、期限までにこちらから提出しましょう。
2.電子決済手段の定義・要件
本改正では、いわゆるデジタルマネー類似型のステーブルコインに相当するものとして「電子決済手段」という概念が新設されました。
「電子決済手段」の定義規定は以下のとおりです。内閣府令への委任事項がいくつか見られますが、本パブコメ案で公表された「電子決済手段等 取引業者に関する内閣府令(案)」(以下「電子決済手段府令」といいます。)では、これらの委任事項が具体化されています。
(1)1号電子決済手段
1号電子決済手段については、前回記事で述べたとおり、電子決済手段から「除外されるもの」と「除外されないもの」という両方向の委任事項が定められています。
まず、前半の「内閣府令で定めるもの」(1号電子決済手段から除外されるもの)について、電子決済手段府令では以下のように具体化されています。いわゆる「無償ポイント」を想定したものと思われます。
他方、後半の「内閣府令で定めるもの」(1号電子決済手段から除外されないもの)について、電子決済手段府令では以下のように具体化されています。ただし、これには2年間の経過措置が用意されている(施行後2年間は「内閣府令で定めるもの」がない状態になる)点に留意が必要です。
ちょっと読みにくいですが、要するに、下記の①~③「以外の」前払式支払手段については、電子決済手段から除外されない(他の要件を満たせば1号電子決済手段に該当しうる)ということになります。
上記の①~③に共通点を見出すとすれば、前払式支払手段の移転に「発行者の何らかの関与を要する」という点でしょうか。ということは、「1号電子決済手段から除外されないもの」として想定されている前払式支払手段を一言でいうならば、「発行者の関与を要することなく不特定者間で譲渡・流通が可能な前払式支払手段」ということになります。これはまさに、本改正のベースとなったWG報告の以下の記載を内閣府令に落とし込んだ結果といえるでしょう。
これを踏まえて、本パブコメ案で公表された「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 17 電子決済手段等取引業者関係)(案)」(以下「電子決済手段ガイドライン」といいます。)のⅠ-1-1では以下のように注記されています。
上記③の「移転を完了するためにその都度当該前払式支払手段を発行する者の承諾その他の関与を要するもの」については、具体的にどのような/どの程度の関与が求められるかなど、パブコメで質問が出そうですね。
なお、本パブコメ案で公表された前払式支払手段府令の改正案では、電子決済手段に該当する前払式支払手段は発行できない旨の規定が見られます。加えて、電子決済手段ガイドラインⅠ-1-2-3(1)④の注記には、仲介者(電子決済手段等取引業者)においても、電子決済手段に該当する前払式支払手段を取り扱うことは不適切である旨の記載があります。これはおそらく、前払式支払手段は原則として払戻しが禁止されるため(資金決済法20条5項)、利用者の償還請求権の確保を前提とする電子決済手段とは政策的に相容れないためと思われます。
したがって、電子決済手段に該当する前払式支払手段は、概念としてはあり得るもの、(上記経過措置の終了後は)実際には発行・流通させることはできないということになるかと思います。
また、1号電子決済手段の要件のうち「不特定者を相手方として購入・売却できること」については、電子決済手段ガイドラインⅠ-1-1に以下のような注記が設けられています。この記載を踏まえると、1号電子決済手段として想定されているのは基本的にはパーミッション"レス"型のステーブルコインであり、パーミッション"ド"型のステーブルコインは1号電子決済手段には原則該当しない(もちろん仕様次第ですが)ということになりそうです。
(2)3号電子決済手段
3号電子決済手段(特定信託受益権)については、改正資金決済法2条9項の「その他内閣府令で定める要件」として、以下の要件が定められています(電子決済手段府令3条1号・2号)。
なお、本改正では、一定の要件を満たした特定信託受益権は金商法上の「有価証券」から除く旨の手当がなされています。詳細は割愛しますが、この「政令で定めるもの」が、本パブコメ案で公表された金商法施行令(改正案)1条の2(76頁)で具体化されています。
(3)4号電子決済手段
4号電子決済手段について、電子決済手段府令では以下のように規定されています。
この「金融庁長官が定めるもの」は本パブコメ案では公表されていないため、4号電子決済手段に該当するものは現時点では存在しない(※本改正の施行日までに指定される可能性はあります)ということになります。
前回記事では、他の条文の書きぶりから、4号電子決済手段は「通貨建資産に該当しないステーブルコイン」(発行可能総数の調整等の一定の仕組みにより法定通貨とのペッグを担保するもの?)を想定しているのではないかと述べましたが、今後どのようなものが指定されるのか気になるところです。
なお、本改正では、電子決済手段等取引業者が投資性が強い一定の電子決済手段を取扱う際には、金商法の規定の一部が準用されることとされています(改正資金決済法62条の17)。今回の電子決済手段府令では、この「投資性が強い一定の電子決済手段」として4号電子決済手段が挙げられています。
このことからも、4号電子決済手段は「通貨建資産に該当しないステーブルコイン」を想定しているといえるでしょう。
3.電子決済手段等取引業の参入規制
本改正では、「電子決済手段」の発行者(銀行・資金移動業者など)と利用者の間に立って種々のサービスを提供する仲介者(電子決済手段等取引業/電子決済等取扱業)について、登録制が導入されました(改正資金決済法62条の3、改正銀行法52条の60の3(*3)(*4))。
(*3) 以下では、基本的に改正資金決済法が定める「電子決済手段等取引業」を念頭に解説し、改正銀行法等が定める「電子決済等取扱業」については本稿では割愛させていただきます。
(*4) なお、銀行以外の預金取扱金融機関について、本改正では、信用金庫や信用組合については改正銀行法と同等の仲介者規制が新設されているものの、それ以外の預金取扱金融機関(労働金庫・農業協同組合など)については仲介者規制が設けられていないように見受けられます。なぜそうなっているのかはよく分かりません。。
登録手続・登録拒否事由等の詳細は割愛しますが、基本的には暗号資産交換業と類似した内容になっています(改正資金決済法62条の4~62条の7、電子決済手段府令7条~14条参照)。たとえば、求められる財産的基盤についても、暗号資産交換業と同内容になっています。
なお、前回記事でも述べたとおり、電子決済手段の発行者(未達債務構成の場合は資金移動業者)が仲介者を兼ねる場合には、登録不要で電子決済手段等取引業を行うことができるとされています(改正資金決済法62条の8第1項)。ただ、この場合も届出は必要で(同3項)、「電子決済手段等取引業者」に適用される行為規制が一部準用されることになります(同2項)。
4.電子決済手段等取引業の行為規制
前記の登録を受けた「電子決済手段等取引業者」について、以下のような各種の行為規制が設けられています。
これらの行為規制の内容が今回の電子決済手段府令で具体化されていますので、重要と思われる点に絞って解説していきます。
(1)電子決済手段の内容に関する説明
改正資金決済法62条の12に基づき、電子決済手段等取引業者が利用者に説明すべき電子決済手段の内容として、以下が定められています(電子決済手段府令28条2項)。
上記⑥の「その他…参考となると認められる事項」として、電子決済手段ガイドラインⅡ-2-2-1-2(1)①の(注1)では以下のものが挙げられています。
なお、電子決済手段の発行者が利用者に上記①~⑥の事項を説明している場合は、電子決済手段等取引業者においては説明を省略することができます(電子決済手段府令28条3項)。
(2)利用者に対する情報提供
改正資金決済法62条の12に基づき、電子決済手段等取引業者が利用者に提供すべき情報として、大要以下が定められています(電子決済手段府令29条1項)。
上記⑩の「その他…参考となると認められる事項」として、電子決済手段ガイドラインⅡ-2-2-1-2(3)⑥の(注)では以下のものが挙げられています。
上記①~⑩に加え、電子決済手段等取引業者が行う業務の内容に応じた追加的な提供情報義務も規定されていますが(電子決済手段府令29条2項~4項)、紙幅の関係上、これらについては割愛させていただきます。
なお、電子決済手段の発行者が利用者に上記情報を提供している場合は、電子決済手段等取引業者においては情報提供を省略することができます(電子決済手段府令29条6項)。
(3)外国電子決済手段の取扱い
電子決済手段府令30条1項5号及び6号では、電子決済手段等取引業者が海外で発行された電子決済手段(外国電子決済手段)を取扱うための要件が規定されています。
まず、電子決済手段等取引業者が外国電子決済手段を取り扱うには、当該外国電子決済手段が次の要件を全て満たすことが求められます(電子決済手段府令30条1項5号)。
WG報告では、電子決済手段の発行者については、基本的には日本国内における拠点や資産保全等を求めるとされており、これが海外発行のステーブルコインを日本で取り扱う際の大きなハードルになると指摘されていました。しかし、上記ロでは、日本国内における資産保全までは必須としていないように見受けられます。
次に、上記要件を満たす外国電子決済手段を電子決済手段等取引業者が取り扱うに際しては、次の措置を講じなければならないとされています(電子決済手段府令30条1項6号)。
上記イについて、利用者の償還請求権の確保という観点からは、発行者自らに償還させるのが基本になります。しかし、外国電子決済手段の発行者が自ら日本国内の利用者に外国電子決済手段の発行・償還を行う場合は、銀行業や資金移動業のライセンスが必要になります(電子決済手段ガイドラインⅠ-1-2-3(2)③(注2)参照)。これは海外の発行者にとって極めてハードルが高いものです。
一方、利用者としては、発行者から償還を受けることができなくとも、仲介者(電子決済手段等取引業者)が額面で買い取ることを保証してくれるのであれば、発行者から償還を受けるのと実質的には同じといえます。そこで、上記イでは、そのような買取りの保証を電子決済手段等取引業者に義務付けているわけです。
上記ロについては、電子決済手段ガイドラインⅠ-1-2-3(2)②ロにおいて、以下のように具体化されています。
(4)電子決済手段信用取引に関する特則
電子決済手段信用取引(電子決済手段等取引業の利用者に信用を供与して行う電子決済手段の交換等。電子決済手段府令1条2項5号)については、追加的な情報提供義務や、保証金規制、ロスカット・ルール等が規定されています(電子決済手段府令32条)。
なお、レバレッジ倍率の上限については、暗号資産の信用取引と同様、個人顧客については2倍、法人顧客については金融庁長官が定める方法で算出した電子決済手段リスク想定比率又は2倍とされています(同条5項1号・2号)。
(5)金銭等の預託禁止の適用除外
前回記事で述べたとおり、電子決済手段等取引業の業務範囲には、暗号資産交換業のような「利用者の金銭の管理」が含まれておらず、利用者から金銭の預託を受けることは原則として禁止されています(改正資金決済法62条の13)。もっとも、「ただし、利用者の保護に欠けるおそれが少ない場合として内閣府令で定める場合は、この限りではない。」として一定の例外を許容する建付になっていました。
この「内閣府令で定める場合」が、今回の電子決済手段府令33条で具体化されています。
まず、第1号は、電子決済手段の交換等(電子決済手段の売買・交換又はその媒介・取次・代理。改正資金決済法2条10項1号・2号)については、利用者の金銭が信託保全されていれば、金銭預託を受けてもよいということのようです。なお、利用者区分管理金銭信託に係る契約については、電子決済手段府令33条2項各号の要件を全て満たす必要があります。
他方、第2号は、電子決済手段に係る未達債務の増減処理(改正資金決済法2条10項4号)について金銭預託が認められる場合を定めたものです。やや趣旨が読み取りにくいですが、イ~ハについては、電子決済手段等取引業者が銀行業・信託業・資金移動業を併営している場合において、銀行業・信託業・資金移動業として金銭預託を受けるのであれば、それは認めてもよいということでしょうか。
そうだとすると、ここに暗号資産交換業が含まれていないのがやや疑問です。暗号資産交換業においても、暗号資産の売買等に関して「利用者の金銭の管理をすること」が認められていますが(改正資金決済法2条15項3号)、電子決済手段等取引業者が暗号資産交換業を併営している場合において、暗号資産交換業として金銭預託を受けている場合であっても、電子決済手段に係る未達債務の増減処理との関係では、かかる金銭預託は認められないということになるのでしょうか。ここはパブコメで質問が出そうなところです。
上記二についても趣旨が分かりにくいですが、金銭預託された時点から、委託元である資金移動業者に資金を移動させるまでの間がごく短期間であれば、預託に伴うリスクは限定的なので許容して差し支えないということでしょうか。
(6)利用者電子決済手段の分別管理
利用者電子決済手段の分別管理(改正資金決済法62条の14第1項)については、電子決済手段府令38条で具体化されています。
利用者電子決済手段の分別管理方法としては、信託会社等への電子決済手段の信託(利用者区分管理電子決済手段信託)によるのが原則とされます(同条1項・2項)。
もっとも、例外として、以下の要件を満たすものとして所轄の財務局長等の承認を受けた場合は、自己信託(利用者区分管理電子決済手段自己信託)によって管理することも可能とされています(同条3項~5項)。これまで、資金移動業や暗号資産交換業における利用者資産の保全方法として自己信託は基本的に認められていなかったように思われるので、今回保全方法として自己信託が認められたのはなかなか画期的なことといえるかもしれません。
また、上記のさらに例外として、「当該電子決済手段が当該利用者に帰属することが明らかであるとき」は、次のいずれかの方法により、当該電子決済手段を管理「しなければならない」とされています(電子決済手段府令38条7項)(*5)。
(*5) 「できる」であれば理解できる気がしますが、「しなければならない」となっているのはなぜでしょうか。この点を含め、電子決済手段府令38条7項についてはまだ咀嚼できていないところがありますので、後日追記・修正させていただくかもしれません。
「当該電子決済手段が当該利用者に帰属することが明らかであるとき」については、電子決済手段ガイドラインⅡ-2-2-3-2(3)④の注記において、以下の解釈が示されています。
(7)発行者等との契約締結義務
電子決済手段等取引業者は、原則として、電子決済手段の発行者等との間で賠償責任の分担等の所定事項を定めた契約を締結しなければならないとされています(改正資金決済法62条15)。
今回の電子決済手段府令40条1項では、上記の契約締結義務が例外的に免除される場合が具体化されています。
この「第三十条第一項第六号イに掲げる措置」というのは、上記(3)で述べた電子決済手段等取引業者による電子決済手段の買取りの保証のことを指しています。電子決済手段等取引業者による額面買取りが保証されているのであれば、利用者に対する償還確保の観点からは不足はないので、発行者との契約締結義務は免除してもよいということかと思います。
5.特定信託会社に関する特例(特定資金移動業)
改正法では、特定信託受益権(3号電子決済手段)を発行する信託会社(特定信託会社)(*6)は、資金移動業の登録をしなくても、特定信託受益権の発行に必要な限度での為替取引を業として営むこと(特定資金移動業)ができるとされています(改正資金決済法37条の2第1項)。
(*6) いわゆる信託銀行(兼営法1条1項の認可を受けた金融機関)は「特定信託会社」から除外されています(改正資金決済法2条27項)。これは、信託銀行はもともと銀行業として為替取引を行うことができるので(銀行法2条2項2号)、上記のような特例を認める必要がないためです。
特定資金移動業には基本的には資金移動業に関する規律が準用され(改正資金決済法37条の2第2項)(*7)、事業の開始にあたり届出が必要とされています(同3項)(*8)。
(*7) ただし、利用者資金の保全義務(資金決済法43条~48条)やいわゆる滞留規制(同法51条の2~51条の3)は準用対象から除外されています。
(*8) 特定資金移動業として行うことができるのは原則として100万円までの資金移動(=第二種資金移動業に相当する範囲)であり、100万円を超える資金移動(=第一種資金移動業に相当する範囲)については別途認可が必要とされています(改正資金決済法37条の2第2項により読み替えて適用される同法40条の2第1項、改正資金決済法施行令12条の4参照)。
また、要求払い的に特定信託受益権(3号電子決済手段)の償還を可能にするため、原則として、利用者の請求により信託契約の一部解約に応じなければならない旨の行為規制が定められています(同4項)。
上記行為規制の例外である「内閣府令で定める場合」は、本パブコメ案で公表された資金移動業府令(改正案)3条の7で具体化されています。端的にいえば、特定信託受益権権(3号電子決済手段)を発行者が額面で買い取る場合ということで、上記4.(3)や4.(7)で述べた買取保証と基本的に同じ趣旨かと思います。
6.電子決済手段に関する犯収法上の取扱い
前回記事で述べたとおり、本改正により、「電子決済手段等取引業者」は犯収法上の「特定事業者」に追加されることになりました(改正犯収法2条2項31号の2)。したがって、電子決済手段等取引業者が利用者と一定の取引(政令で規定予定)を行う際には、利用者に対する取引時確認を実施する必要があります(犯収法4条1項)。また、疑わしい取引の届出義務も課されます(犯収法8条)。
上記に加えて、「電子決済手段等取引業者」には、①コルレス契約締結時の体制等の確認義務(改正犯収法10条の2)と、②いわゆるトラベル・ルール(改正犯収法10条の3)が適用されることになります。
これらに関する政省令への委任事項は、本パブコメ案では明らかにされておらず、後日公表されるとのことです。
かなり長くなってしまいましたが、以上です。
簡単なポイント解説でしたが、今回のパブコメ案をゼロから読むのは相当しんどいと思いますので、本記事が少しでもお役に立てれば幸いです。