司法試験「租税法」では何が聞かれているのか

司法試験「租税法」って結局のところ,何が聞かれるどんな試験なんでしょうか。
出題範囲,出題の形式等のイメージを掴んで,租税法へのモヤモヤを解消しましょう〜!
(この記事のポイント)
 1.「所得税法・法人税法・国税通則法」が出題範囲だが,所得税法がマスト
 2.出題にはパターンがある


今日は,司法試験「租税法」の特徴について。

出題範囲

出題範囲は,所得税法法人税法国税通則法の三つということになっています。
ここで強調したいのは,3つが均等に出題されるわけではないという点です。
この点について,司法試験考査委員がどのように述べているかを見てみましょう。

3 今後の出題について 
 本年は,第2問設問1(3)(4)が国税通則法に関する問題,第2問設問1(1)(2)と設問2が法人税法に関する問題,その余が所得税法に関する問題であった。範囲としては,今後も所得税法からの出題を中心としつつも,法人税法や国税通則法の基本的事項からの出題が望ましいと考えられる。
 内容としては,所得税法,法人税法,国税通則法に関する基本概念や制度に関する基本的な知識の有無及び程度,更にこれらの知識を利用して条文の文言を解釈し,当該条文を具体的な事実関係に適用して結論を導くことのできる能力を試す問題が望ましいと考えられる。

出典:令和3年司法試験の採点実感(租税法)

ここからわかるのは,①所得税法が「中心」であること,②法人税法や国税通則法は「基本的事項」から出題されるということです。
つまり,所得税法の理解が何よりもマストであり,これに関連する形で法人税法や国税通則法の理解が問われることになるのです(注)。
勉強の出発点は所得税法ということになります。
実際の出題の比重を見ても,所得税法ができないと話にならないという面があります。

(注)法人税法も法人の所得を課税対象としますから,所得税の知識が重要です。所得税法との共通点・相違点を抑えながら勉強すると効率がいいです。

出題形式

さて,問題は出題形式です。
どのような問われ方をしているのか,実際の設問文を見てみることにしましょう。

⑴所得税法編
 所得税法に関する出題の例として,直近の令和3年第1問を見てみます。

1 平成18年3月1日に,Aが本件土地をBに引き渡したことは,財産分与の額として適正なものであったとする。このとき,
 (1) 上記の財産分与に関して,Aの所得税の課税関係はどうなるか。
 (2) 平成20年3月1日に,Bが本件土地をCに譲渡したことに関して,Bの所得税の課税関係はどうなるか。
2 Cの平成26年分の所得税の計算上,Cが生花の専門学校に支払った学費は,CのQ鍼灸院に係る事業所得における必要経費に該当するか。また,Cの平成27年分の所得税の計算上,同年中にCがはり師及びきゅう師の国家資格取得のための専門学校に支払った学費は,CのQ鍼灸院 に係る事業所得における必要経費に該当するか。
3 所得税法上は,令和2年分の本件建物の居住用の部屋の賃料収入は,誰に帰属するか。

もう一つ見てみましょう。平成28年第1問です。

1⑴ 本件出願報償金は,所得税法上,いかなる所得に分類されるか,異なる見解にも言及しつつ自説を述べなさい。(以下省略)
⑵  本件和解金は,所得税法上,いつの年分のいかなる所得に分類されるか,自説を述べなさい。

ここで示した問題は,次の5つのパターンに整理できます。
    1.「課税関係はどうなるか」
 2.「誰に帰属するか」
 3.「いつの年分の所得に分類されるか」
 4.「いかなる所得に分類されるか」
 5.「必要経費に該当するか」

実は,所得税法に関する出題は概ねこの5パターンです。
そして,2から4は,要するに5W1Hのうち
 2→Who(誰の?),3→when(いつの?),4→what(どんな所得?)
を聞く問題です。
1は,2から4をまとめて(=誰の,いつの,どんな所得?)聞いているんです(注)。
5は租税法上の概念(「必要経費」)に該当するかを聞いている問題です。

結局のところ,「⑴誰の,⑵いつの,⑶どんな所得として,⑷どんな課税がされるのか」について,手を替え品を替え,聞いてきているだけだということです。
租税法の学習とは,4つのポイントそれぞれについての判断基準のインプットと当てはめのトレーニングをしていくことにほかなりません。
しかもありがたいことに,そのほとんどが法律に書いてあるのです(租税法律主義)!!!
というわけで,所得税法の問題とは,条文を出発点に,当てはめれば解けるものですし,丁寧に法的三段論法をすれば上位に浮くことができるのです。

(注)正確に言えば,「課税関係」とは,①誰のいつのどんな所得として課税されるのか(あるいは課税されないのか),②課税されるとしてどのような課税がされるのかの2点を問う出題であると思われます。本文の記述は,このうち①が2〜4のパターンに対応していることを強調する趣旨です。

⑵ 法人税法編
今後書く記事でも繰り返しますが,法人税法の出題範囲は「22条とその特則の理解」が中心です。
ざっくりというと,法人税法22条は,
  (所得)=(益金)ー(損金)
という計算式を定めた条文です。
なので,聞かれることは
  1.これは益金になりますか
  2.これは損金になりますか
  3.これはいつの益金/損金になりますか

の3種類が中心になります。

⑶ まとめ
ここまでみてきたように,租税法の出題形式にはパターンがあり,難問奇問が出題されることはあまりありません。
試験委員が投げてくるボールの種類は決まっていますから,それを一つ一つ打ち返せるように勉強していけばいいのです。
租税法は、特別に必要なテクニックがあるわけでもなく、基本7法と同様の向き合い方で全く問題なく対応可能な科目なのです。

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