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買い物困難地域にできたピカピカのローソン
全国にあるローソンのオーナー・クルーに、マチの魅力とご自身との関わりをインタビューする企画「#マチのほっとステーションをつくるひと」。
今回は、北海道勇払郡厚真町のローソン上厚真店の運営会社sonrakuの井筒耕平社長と、藤田千愛店長にインタビュー。スーパー閉店後の跡地という、経営として不安を感じる場所に、敢えて出店をしたその本心とは。都会から厚真町に移住し、マチおこしにも奮闘する二人の想いを伺いました。
地域創生の企業理念が、ローソンにつながった
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本日は、よろしくお願いします。まず来店した最初の感想として、すごく綺麗なお店だなと思ったのですが、いつ頃オープンされたお店なのですか?
井筒社長:2024年の4月オープンなので、開店して半年ちょっとのお店で、まだまだ新しいお店になります。
オーナーはもともとこのあたりのご出身ですか?
井筒社長:出身は愛知県です。その後、札幌の大学に進学したのですが、就職のタイミングで静岡に行き、その後、岡山で独立して、と紆余曲折を経て、この厚真に辿り着きました。
岡山での独立がコンビニエンスストアの始まりですか?
井筒社長:岡山ではゲストハウスの運営をしていました。独立してはじめた会社名が「株式会社sonraku」という名前で、漢字で書くと「村」に「楽」って書くんです。
日本のローカルを、落ちる(村"落”)ではなくて、楽しい場所にしていこうというコンセプトを掲げている会社なんですね。地域にある資源を有効的に活用するご提案をして、その実装までやっていこうと。岡山は土地や建物もあり、観光資源もあるのに、泊まれる場所が一切なくて、そこでゲストハウスをやろうということで。
その後、なぜ北海道に?
井筒社長:コロナの影響でゲストハウスの運営が難しくなった時期というのもあり、次に何をしようとなった時に、大学時代を過ごした北海道が好きだったんですよね。sonrakuでは、食の他に、エネルギーの取り組みをしていて、北海道は森林資源が豊富にあることと熱需要が大きくて、バイオマスエネルギーを生かせるんじゃないかと。それならいっそ北海道に移住しようと。それが2021年ですね。
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お店のオープンが2024年ということは、ローソンを始めるために、北海道にいらした訳ではなかったんですね。
井筒社長:はい。最初の3年くらいはバイオマスエネルギーの発電所の準備に注力していて。エネルギーの領域って役場と連携しながらお仕事していくことも多いのですが、ある時、ここの場所でお店を運営する事業者をプロポーザルで募集しているという話を聞いて。sonrakuは「食とエネルギーの自立を通じて、持続可能なまちづくりを行う会社」というテーマを掲げているので、これはぜひ参加したいなと思い、手を挙げさせていただきました。その提案が採択されて、今に至るということですね。
なるほど。なぜここにローソンができることになったのですか?
井筒社長:もともと、この場所には農協さんが運営するスーパーがあったのですが、それが23年の4月頃に閉店してしまったんですね。そうしたら、マチの人たちから役場に「なんとか買い物できる場所を作って欲しい」とたくさん意見があり、色々な会社さんとやりとりして、ローソンを作ろうというところまでは進んで、そこにオーナー会社として加わった形です。
それまでは、ローソン、コンビニエンスストアや小売店の運営に関わった経験はありましたか?
井筒社長:全く。いや、大学時代に、実はローソンでアルバイトはしていたんですけどね(笑)。でも、随分と昔の話だし、アルバイトとオーナーではまったく違うと思うので、本当に初心者でした。
不安とかはなかったんですか?
井筒社長:いやもう、不安だらけでしたね。でも、その中でも安心して始められると思ったのはローソンという看板があったことかもしれないです。例えば、この場所が「井筒商店」や「スーパーsonraku」だったら、お客様もどういうお店か不安で近づいてくれなかったかもしれないですし、看板の力って大きいなと。他にも、最初のオープン前の研修があって、そこでどれくらいの売上があれば、お店として運営できるかということを学ぶんですが、店長の藤田とそれに参加して「これならいけるかもしれない」と思い、一念発起したのを覚えています。それまでは、売上がなければ省人化、短時間営業、なんてことも考えたんですが、ちゃんと取り組めば取り組んだだけ、お客様に支持してもらえるんだなって。
覚悟を決めた訳ですね。藤田さんはこのお店のオープニングスタッフになるのですか?
藤田店長:そうです。それまでは札幌で飲食店に勤務していたのですが、オーナーに誘われてこの会社に入ることになりました。
では、札幌から通いですか?
藤田店長:いえ、入社を機にこちらに引っ越してきました。私は地域おこし協力隊としても活動していて。総務省の仕組みなんですが。簡単に言うと都会からこういった地方に移り住んで、地域を盛り上げていく人を応援してくれる制度になっているんですね。なので、そういった支援も受けながら、この町を盛り上げていきたいなと。
マチの期待感を感じたオープン初日と現在
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オープンした後の、お店の様子はどんな印象でしたか?
井筒社長:オープン前から町の中でいい意味での噂がすごくて(笑)。「ローソンができるらしい」って期待感を感じていました。でも、「無人らしいよ」っていう噂も少しあって「無人なんだ、残念」みたいな。だから、オープン前に、お子さんの集まりとか、そういった会に社員で参加して、無人ではないことをちゃんと説明してぜひ来てくださいと。それはもう大歓迎でっていう感じですごかったです。
藤田店長:こどもたちは素直で、近くに自転車でアイスを買に行けるお店がないから嬉しいって(笑)。あと、とにかく、からあげクン。からあげクンが大人気でしたね。
オープン前からそんな状態に(笑)。
藤田店長:でも何より、コンビニができるという期待感を一番に感じましたね。先程、社長も「無人なんだ、残念」という声があったという話がありましたが、コミュニケーションのあるお店が求められているんだなというのをひしひしと感じました。
実際にお店をオープンして実感するのが、本当にお客様との会話が多いんですよね。小さい会話かもしれませんが、そのコミュニケーションがあるから、お店に来ていただけているなっていうお客様も多いなと日々感じています。
井筒社長:前のお店はスーパーだったんですが、やっぱりお客様との距離が近くて、コミュニケーションも生まれやすいのがコンビニの特長なんだと思います。お客様がどんな方なのかも、間近で見て、お話しして初めて分かることがたくさんありますし。
お店はどんなお客様が多いのですか?
藤田店長:ご家族連れも多いんですが、意外だったのは若い単身の男性が多くお住まいだったことですね。いつもお弁当とかを買ってくださるのは、このあたりで働いている単身男性なんですよ。みなさん身体つきがすごくて、とにかくいっぱい食べられるんです。なので、店内調理の「まちかど厨房」にも力を入れていて。
このあたりはお店も少ないし、単身の方だと調理が面倒って方も多いので、朝昼夕とローソンで済まされる方もいるんですよね。なので、普通のお弁当だけに加えて、厨房にも力を入れれば、選べる選択肢が倍ぐらいになるので、毎日飽きずに食べてもらえるかなって。
お客様から直接要望されることも多いんですか?
藤田店長:単身の男性の方はあまり仰られないですね。でも、お買い物の傾向を見て、なんとなくこうだろうなって考えながら仕入れています。そんなに広くないお店ですが、やっぱり少しでも品揃えの幅が多い方が、来て選ぶ楽しみもあるだろうなって。
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その中でも、これは売れ筋商品だっていう商品はありますか?
井筒社長・藤田店長:あづまのジンギスカンですね(笑)。
井筒社長:お店をオープンする前に、マチのものをいくつか仕入れようって決めていて、その中でも最初に挙がった商品が、あづまの冷凍ジンギスカンだったんですね。
子どもたちの「アイスが買えて嬉しいという」のと通じるのですが、冷凍の商品って近くで買わないと溶けちゃうんですよね。温かい商品もですが、冷凍の商品も実は一番近くで買いたいニーズがあるんだなって。
藤田店長:すごく広いお庭のある家に住まれている方が多くて。春先から秋にかけて、ちょっと天気が良くて暖かい日になると「よし、今日は庭でお肉を焼こう!」みたいになるんですよね(笑)。そんな時に、近くのローソンですぐにお肉が買えるって便利みたいで。
お客様と一緒にお店をつくり、地方のモデルケースになりたい
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オープンしてすぐなのに、お客様のニーズばっちりというのがすごいですね。
井筒社長:ジンギスカンは偶然です。お客様がどういったものを購入されたいかは、すごく気にして仕入れするようにはしていますが、お客様の方から要望を言ってくださることも多くて。
やっぱり、このローソンがなくなると困るお客様は多いのかなと想像していて、お店を残したいという思いが伝わります。でも、私たちも売上がないとお店は続けていけない。そういうことも分かってくださっていて、欲しい商品を伝えて、積極的にお店を利用しようとしてくださっていることを感じています。
私たちも、そんなお客様の期待に応えられるお店になったらなと。
マチの人たちと一緒につくるローソン、という感じですね。
藤田店長:地域住民みんなでつくるお店というのは、最初からテーマに掲げてお店をオープンしました。お店の前に、ウッドデッキがあると思うのですが、あれも、地域の住民のみなさんの憩いの場になればいいなと思って、学童の子どもたちと一緒に釘を打って作りました。ちょっと曲がってしまった釘もあるんですが、それも地域の子どもたちが一生懸命に手伝ってくれた跡なので、やり直さずそのまま。
やっぱり「使わないとなくなってしまう」という義務感だけでお店に来ていただくのにも限界はあるので、そうやって地域の方に愛着を持っていただけるお店になったらいいなと思って。
井筒社長:お店の横にも、2卓程度ですが、マチのコミュニティスペースを作っているんですよね。イートインの機能だけでなく、子どもたちがカードゲームをしたり、地域のコミュニティのちょっとした喋り場に使ったりという形でも活用いただいています。集まる場所がないっていうお話しを開店前から聞いていて、そういう場所をちょっと用意できたらいいなと思って。お仕事終わりの農家さんが集会してたりもします。
やっぱり役場とか、会議室ではなくて、日常の生活の中で、ちょっと集まろうって言って気軽に立ち寄れる場所は必要なんだなと思います。
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なるほど。地域の方とのコミュニティがしっかりと築かれている感じですね。
井筒社長:この地域の方は、本当にコミュニティが強くて、大勢でご来店されることも多いんですよね。例えば部活の大会や、冠婚葬祭、農業の合間とか、そういったタイミングで、地域の皆さんでお買い物に来てくださることが多くて。そんな時は同じような商品が一気に売れるので、品切れにならないように、とにかく商品の品揃えだけは気をつけています。お店の売上としても、そういったお客様に来ていただけると嬉しいですし、地域のコミュニティの支えになれるのであれば、なお嬉しいなと。
藤田店長:たくさんお買い物されるお客様とは、レジを通している間にコミュニケーションも弾んで、より一層、近い距離でお店を感じてもらえますし、そうなればもっともっと来てくれると思うので。
今後、目指していきたいことはありますか?
井筒社長:都会では当たり前の「買いたい時に、すぐそばにコンビニがある」というのが、地方では当たり前になっていないんですよね。こういった地域で、その当たり前を築くには、お店を開店するだけで満足せず、持続可能なお店としてマチの人たちと一緒にお店をつくりあげていくことがすごく重要だと思います。その過程も含めて、地域共生コンビニという取り組みを拡げていくための一つのモデルケースに、この上厚真のお店がなれるように頑張りたいと思っています。
井筒社長、藤田店長、ありがとうございました。
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