自転車の交通事故|携帯電話を使っていたときの責任
携帯電話の使用に関する規制
道交法70条は、自転車の運転者は、「当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」とし(安全運転義務)、さらに、同法71条は、車両等の運転者の遵守事項を明示しています。
これらの規制に違反する場合には、罰則の適用がありますので、具体的に検討していきます。
自転車運転者が遵守しなければいけないこと
道交法71条の遵守事項のうち、以下の事項は自転車運転者も適用があると考えられています。
ぬかるみ又は水たまりを通行するときは、泥よけ器を付け、又は徐行する等して、泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること(5万円以下の罰金。道交120条1項9号)。
身体障害者用の車いすが通行しているとき、目が見えない者が14条1項の規定に基づく政令で定めるつえを携え、若しくは同項の規定に基づく政令で定める盲導犬を連れて通行しているとき、耳が聞こえない者若しくは同条2項の規定に基づく政令で定める程度の身体の障害のある者が同項の規定に基づく政令で定めるつえを携えて通行しているとき、又は監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行又は歩行を妨げないようにすること(3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金。同119条1項9号の2)。
前号に掲げるもののほか、高齢の歩行者、身体の障害のある歩行者その他の歩行者でその通行に支障のあるものが通行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行を妨げないようにすること。
児童、幼児等の乗降のため、政令で定めるところにより停車している通学通園バス(専ら小学校、幼稚園等に通う児童、幼児等を運送するために使用する自動車で政令で定めるものをいう。)の側方を通過するときは、徐行して安全を確認すること(3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金。同119条1項9号の2)。
道路の左側部分に設けられた安全地帯の側方を通過する場合において、当該安全地帯に歩行者がいるときは、徐行すること(3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金。同120条1項9号の2)。
乗降回のドアを閉じ、貨物の積載を確実に行う等当該車両等に乗車している者の転落又は積載している物の転落若しくは飛散を防ぐため必要な措置を講ずること(5万円以下の罰金。同120条1項9号)。
車両等に積載している物が道路に転落し、又は飛散したときは、速やかに転落し、又は飛散した物を除去する等道路における危険を防止するため必要な措置を講ずること(5万円以下の罰金。同120条1項9号)。
安全を確認しないで、 ドアを開き、又は車両等から降りないようにし、及びその車両等に乗車している他の者がこれらの行為により交通の危険を生じさせないようにするため必要な措置を講ずること(5万円以下の罰金。同120条1項9号)。
車両等を離れるときは、その原動機を止め、完全にブレーキをかける等当該車両等が停止の状態を保つため必要な措置を講ずること(5万円以下の罰金。同120条1項9号)。
前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項(5万円以下の罰金。同120条1項9号)。
公安委員会が定める規則
この10.を受けて、都道府県の公安委員会が定めた規則によって禁止されている事項がある場合で、これに違反したときは、道交法71条6号違反となり、同法120条1項9号により、5万円以下の罰金を科されることがあります。
例えば、東京都道路交通規則には次のような規定が置かれています。
(1) 前方にある車両が歩行者を横断させるため停止しているときは、その後方にある車両は、一時停止し、又は徐行して、その歩行者を安全に横断させること。
(3) 傘を差し、物を担ぎ、物を持つ等視野を妨げ、又は安定を失うおそれのある方法で、大型自動二輪車、普通自動二輪車、原動機付自転車又は自転車を運転しないこと。
(4) 自転車を運転するときは、携帯電話用装置を手で保持して通話し、又は画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと。
(5) 高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと。ただし、難聴者が補聴器を使用する場合又は公共目的を遂行する者が当該目的のための指令を受信する場合にイヤホーン等を使用するときは、この限りでない。
(9) 警音器の整備されていない自転車を運転しないこと。
(10) またがり式の乗車装置に人を乗車させる場合は、前向きにまたがらせること。
(11) どろ土の路外から舗装された道路に入る場合は、車両に付着したどろ土を路面に落とさないための確認をし、かつ、その措置をとること。
都道府県の規則による規制を受けること
携帯電話で通話することは、東京都の場合であれば、東京都道路交通規則8条(4)で禁止されていますので、道交法71条6号違反として罰金の適用も含めて、違反行為ということになります。
また、仮に規定がない道府県であったとしても、道交法70条の安全運転義務違反になる可能性もあります。
自動車運転中に携帯電話を使っていたときの責任
規制に違反したときの責任
規制に違反して携帯電話を使用して運転した場合、事故を起こさなくても違反行為となります。
罰金等により処罰を受ける可能性があるので注意が必要です。
特に、2023年12月には、「良好な自転車交通秩序を実現させるための方策に関する中間報告書」が出され、以下の方針が示されました。
中間報告では、同時に、違反切符が出されるのは限定的な場合とされていますが、違反行為であることは事実であり、携帯電話を使用した運転行為を許容するものではありません。
事故を起こしたときの責任
携帯電話を使用して運転中に事故を起こした場合も、まずは道交法違反行為として処罰の可能性があります。
加えて、民事上の責任(賠償責任)を負う可能性もあります。
自転車が交通事故を起こしたとき、責任を負うべき「過失」が認められるかは、公法上の義務(道交法上の義務)の内容を参照して判断されるのが実務です。道交法違反行為によって事故を発生させた場合、自転車が民事上の賠償責任を負うこととなる可能性は高いと言わなければなりません。
事故の被害に遭ったときの影響
自転車が交通事故の被害にあったときにも、携帯電話使用による影響が生じえます。
具体的には、事故発生に対して被害者(自転車運転者)も責任があったとして、過失相殺により賠償額が減額される可能性があるのです。
過失相殺について検討する際に実務で必ず参照される書籍においても、
として、被害者側に5%から10%程度の過失相殺がなされる可能性を示しています。
まとめ
携帯電話を使いながら自転車を運転することは、道交法に違反する行為となる可能性が高いです。
近い将来、自転車にも交通違反切符(反則金)制度が導入される見通しです。
刑事上、民事上の責任を負う可能性があるほか、被害者の場合は賠償額が減額されてしまう可能性もあります。
弁護士法人オリオン法律事務所は、複数拠点に事務所を設け、交通事故被害者の方から多くの相談をいただいております。
どうぞお気軽にご相談ください。