令和7年度(2025年度) 名古屋大学法学部 第3年次編入学試験問題 英語 問題Ⅱ 訳例
はじめに
本記事の内容は、令和7年度(2025年度) 名古屋大学法学部 第3年次編入学試験問題 英語 問題Ⅱの訳例である。問題文や課題文は掲載していないので、各自手に入れてほしい。
先日行われたばかりの試験であり、英語は問題が2つあるが、多くの受験生は問題Ⅱの手応えがあまりなかったそうである。本記事の執筆者は政治学を専門としていることもあるので、早速今年の名古屋大学の試験問題に挑戦してみたいと思う。
出典は、Leigh K. Jenco; Murad Idris; Megan C. Thomas, "The Oxford Handbook of Comparative Political Theory," Oxford University Press, 2019, pp. 621-622. である。
この書籍はオックスフォード大学出版の入門書・教科書的なものであり、題材は「比較政治理論 Comparative Political Theory」に関するものであった。「比較政治理論」(あるいは「比較政治思想」といってもいい)とはどのようなことをしているのか。大雑把に要約するならば、これまでの西洋中心的な政治理論の語りを改め、他の地域の語りを取り入れることで、政治理論の脱西欧中心主義を目指すというものである。この手の議論は、哲学の領域でも近年よくされているので、幅広いジャンルの本を読んでいる受験生であれば読みやすかったと思う。法律学を中心に試験対策を進めてきた受験生にしてみれば、あまり馴染みのないテーマであったかもしれないが、一応教科書的な文献であり、名古屋大学法学部はこのレベルの英語文献はしっかり読める力をつけておいてほしいと考えていると予想できる。
今年受験された方は訳例を見て、自分の解釈と照らし合わせてもらって、手応えとのズレを確認してもらえればと思う。また、来年度以降受験を検討されている方は、今年の問題に挑戦し、訳例を見てもらい、受験本番までに到達しておかなければならない到達点を早めに掴んでほしい。
ちなみに、名古屋大学法学部では、「比較政治思想」という講義が開講されている。公開されているシラバスにこの分野がどういうものであるか書かれているので、まずはこちらを読んでもらうといいかもしれない。
そして、法学研究科での講義のシラバスを見てみると、今回出題された書籍が教科書・テキストとして挙げられています。
https://syllabus.adm.nagoya-u.ac.jp/data/2021/23_2021_Y014302302950.html
訳例の前に
本課題文は、「ポストコロニアリズム」や「ロールズ」をはじめとする政治理論・政治思想のことを少し学んだことがあれば、読みやすかったと思う。専門用語として訳すのが特に難しかったと思われるのは、incommensurabilityという単語である。こちらはロールズ関連の著作を読んでいると度々目にするのであるが、「共約不可能性」「通約不可能性」と訳すことが、業界では一般的になっている。
訳例
比較政治理論(CPT)は、従来はヨーロッパ中心主義的なこの学問分野において、西洋以外の声やテキストを含めることで、政治理論の視野を広げ、「真にグローバルな性格を持つもの」とし、「単に西洋的な問題ではなく、人間的な問題についてのものにする」ことを目指している。本章では、政治理論の脱中心化を目指すこれらの努力は歓迎すべきものではあるが、この称賛に値する目的を追求する手段が、その達成を損なっていると論じる。政治理論は、長年続く実践や伝統ではなく、むしろ近代の、そしてヨーロッパの創造物である。多くの人々が指摘しているように、プラトンからロールズまでの「思想家」が共通の企てに従事しているという系譜は、後から作られた作り話である。そして、「政治理論」と呼ばれる活動や実践が、「西洋」において何世紀にもわたって、あるいは何千年にもわたって培われてきたという考えが役に立たない、誤解を招くフィクションであるならば、それを西洋以外にも拡張することは、さらに二重にそうである。それは、現代の西洋のカテゴリーを、適合しない思想家やテキスト、思索や執筆の様式に押し付け、それらの伝統に対する理解を歪めることになる。
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