ダイエットやりすぎで脳がバグった時の話
今から3年ほど前、私はダイエットのしすぎで体重が35キロになった。そして、脳みそがバグった。
大学4年生の時コロナ禍でダイエットを始めてのめり込み、過度な食事制限をして、2年ほどで体重37キロくらいまで落とした。
その2年の間に大学を卒業し、新卒で入った会社が合わずに辞め転職したのだが、新しい会社に勤め出して1週間ほど経ったある日、突然食べ物の味を全く感じられなくなった。味覚だけではなく、全身の感覚がめちゃくちゃ遠くなり、まるで全身が分厚いゴムで覆われたかのような感覚に陥った。最初はコロナにかかったのかな?と思ったが、風邪っぽいとか熱っぽいという感じはなく、コロナではないようだった。
体に起こった異変はこれだけではない。私は鏡に映る自分を見て、「これは自分である」と認識できなくなっていることに気づいた。
なんとも説明が難しいのだが、「顔が認識できない・自分の顔が誰だかわからない」というのとはちょっと違う。鏡に映る自分のことを、他人として、客観的に「〇〇さん」と認識することはできるのだ。ただ、その鏡に映る自分が「自分自身である」という感覚がまるでないのである。
全身の感覚も遠いし、鏡を見ても第三者が写っているような感じで、「第三者を操縦しています」という感覚であった。
また、食事をさらに減らすなどしたわけではないのに、転職先に入る前数ヶ月間37キロ程度を保っていた体重が、入社後数日か1,2週間程度のうちにさらに2キロ落ちて、過去最低の35キロになった。
転職先で特別嫌なことがあったとか、ストレスに思っていたことなどはなかったため、なぜ突然こんなことになったのかは正直今でもわからない。突然の環境の変化や、新しい仕事で覚えなければいけないことがたくさんあったこと、職業柄常にスーパーマルチタスク状態であったこと、一日中座りっぱなしで人と話さずパソコンに向かう事務仕事の初体験だったこと…恐らくこれらに栄養失調状態の脳みそが耐えられず、ショートしたのだろう、と推測する。
「自分、なんか頭おかしくなっちゃったな」と、人ごとのように思った。
不思議なことに、こんな状況でも仕事は普通ににこなせた。人との会話も普通にできたし、栄養失調で多少攻撃的になっていた気はするが、傍目から見て目立つほど頭のおかしいやつという風には映っていなかったと思う。ガリガリのフラフラだったが、大きな病気したり休んだりすることもなく仕事に行った。
けれど、「自分自身」は1ヶ月経っても2ヶ月経っても認識できないままだった。
「自分の心が脳みそに乗っ取られる」という感覚であったし、「人間って、所詮脳の伝達物質に操られている物体なんだな」と思うようになり、周りを歩いている人間も全員生きた人間ではないマネキンのように感じるようになっていた。脳みそがいよいよ変になってきていた。
ガリガリゆえに体力もなく、常に異常なほど動悸がして脈が飛ぶ感覚があり、特別動いたりしていなくてもずっと息がありえないくらい苦しかった。正常に呼吸をすることができず、まるで水中にいるかのような感覚だったのを覚えている。
週に一回程度、「自分の体である」という感覚が不意に戻ってくる瞬間があったのだが、その時には「このまま頭がおかしくなって死ぬんじゃないか」とひどく恐ろしくなり、いい歳こいてワンワン泣いた。
摂食障害の恐ろしいところだが、こんな状態になっても今の食事や体重を増やそうとは思えなかった。というか、自分では「ちゃんと食べているのに元に戻らない」と思っていた。
当時の私を摂食障害の中でカテゴライズするのであれば拒食症になるが、「何も食べられない」わけではなかった。朝はオートミールと納豆、昼には魚と米120g、夜はサラダとサラダチキン、という風に、決めたものは毎日食べていた。圧倒的にカロリーは不足していたし、以前一日一食も米を食わない、豆腐素麺だけみたいな生活をしていた時期もあったので、全然食べていると思っていたのである。
当時の自分が健常な人と決定的に違ったのは、食べ物のグラム数やカロリー、食べると決めた決めた食べ物の予定が寸分たりとも狂わせられないこと、そして少しでも狂うと不安で不安で不安でありえないくらい取り乱すというところであった。一重に「摂食障害」「拒食症」といっても、必ずしも1ミリも食べられないのだけが症状ではないのである。
話が逸れたが、転職してから数ヶ月は食事の量も変えることが出来ず、体重も増えずで生活していた。
しかし、年度が変わり受けた健康診断の血液検査の数値がひっちゃかめっちゃかで、BとかCがいっぱいついており、肝臓の数値に至ってはE判定(要精密検査)がつけられていて、「このままでは死ぬんだ」と自覚させられた。
ここまできて初めて摂食障害を治すために自力で色々調べ始めた。
摂食障害のカウンセラーをされている方のYouTubeを見て、人間が1日に必要なカロリー量や、食べても全部が脂肪になるわけではないこと、ガリガリに痩せていることのリスクなどを脳に叩き込んだ。痩せすぎで変になっちゃっている脳みそに「正しい知識を教え込む」という感じだった。「この量を食わないと死ぬんだ」と自分に言い聞かせ、1日に必要なカロリー量を毎日必ず食べるようにした。
依然として自分が自分じゃない感覚があったため、この間ずっと「他人の体を育てています」という感じであった。栄養失調でろくろく働かなくなっている脳みそでもって必死に食事と回復のことを考え続けて食べ続ける間、もっと気が狂いそうになる時もあったが、「自分の体だ」という感覚が乏しかったことが幸いし、なんと拒食症克服を決意してから半年程度で完全に克服することができた。
体重が健康的な数値に戻ってきた頃には、気がついたら「自分が他人のように感じる」感覚も無くなっていた。
もうほとんど治っている段階の時に一度だけ、YouTubeで動画を発信されているカウンセラーの方のオンラインカウンセリングを受けてみたことがあるのだが、自力で摂食障害をここまで回復させられる人はあまりいないと言われ、シンプルにうれしかった。けれど、回復中の時はまだ脳と体が自分自身のものである感覚が乏しかったので、「自分がめっちゃ努力しました!」という感覚は正直ないのである…。
今でも一度ガリ痩せした後遺症で身体的に虚弱になってしまった部分はあるものの、摂食障害自体はもう再発もなく完治している。摂食障害拒食症真っ只中の時は、もう脳みそがダイエットと食事のことしか考えられず、一日中動き回らずにいられない等脳みそがダイエットに支配されている感覚であったため、それが完全に無くなっていることで「もう完治している」と自信を持って言える。
また、たまに「ちょっと太ったかな」と思うことがあっても、この「自分が自分じゃなくなる感覚」の恐ろしさを思い出すと、もう一度食事制限をしようとはまっっったく思わない。
摂食障害になった人のエピソードは、自分が回復する過程でもたくさんネットで見たが、私のような脳みそのバグり方をした人の話は見つからなかった。
自分を他人のように感じる精神疾患で、統合失調症の一種として「離人症」というものがあるとネットで見て知ったが、それだったのだろうか…。詳しい人がいたら、教えてください。
長くなっちゃったので、このあたりで今回のnoteは終わりにします。
摂食障害の時の症状や、回復までの過程は、気力があればまた書きたいです。