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家でやったからやらない

廊下側の一番後ろで彼はそう言った。

2年生の男の子だ。

いつも澄ました顔をしながら、自分はできていると思っているのだろうか。

それとも教師である私を試していたのか。

真相はわからない。

その時は漢字ドリルを指導していた時だった。

空がきを教えていた。

私の話を聞き、しっかりとやろうとする子が多数いた。

しかし、ただ1人だけやらなかった。

2年前の私であったら、なんと言えばよいかうろたえていただろう。

1年前の私であれば、見逃していただろう。

そして、今の私ならどうするか…。

こうした。

(全体で空がきをした後)

「やっていない人がいたら、やらせますからね。」

(もう一度全体で空がき)

「〇〇さん、指を出します。」

(家でやったと言われる)

「やれる力があるのにやらないのは賢くなりません。」
「家でやったからと言って学校でやらないのは違います。」

そんなことをかなり強めに言った。

諦めることもできた。その方が簡単だ。

怒鳴ることもできた。それでその子はやる。

私はどちらも選ばなかった。

その子自身が動くのを信じ、語り、待っていた。

その子は指を空に上げ書き始めた。

その後は褒めるだけだ。

「できたね!」
「さすが、〇〇さん。成長です。」

子どもたちは少しギョッとしていた。

優しい先生がこんなことを言うなんて…。

分散登校が始まって初めての対子どもとの闘いだった。

なぜ私がここまでしたか。

それには、理由がある。

1つが全体に私の方針を示すためだ。

私がどんなことに厳しく、力を入れているのかをその場で示し、子どもたちに「これをしたら先生は厳しいのだな。」と心に留めさせるためである。

もう1つが、教師の権威を示すためである。

ここで負けてしまっては他の子どもが教師をなめてかかる。甘っちょろい教師ほど子どもは離れていく。初任時代嫌と言うほど経験した。だからこそ、権威をその場で全体にその姿を見せる必要があるのだ。

2年生だから、優しくもできた。

しかし、私にはできない。

一貫した姿を見せ、子どもたちを成長させる覚悟があるからだ。

譲れない姿を見せる教師は必ず子どもたちの信頼を得る。

一貫した指導をこれからも心がけていく。


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