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青の記録(第三章)

メンバー募集記事を見て何件かメールが来た中、なかなか良さそうなバンドがあったのでそのバンドメンバーと会う約束を取り付けた。

僕が住んでいた愛知県名古屋市から電車で1時間かからないくらい、彼らの本拠地となる駅で待ち合わせをした。

やってきたメンバーは2人。
確かボーカルとギターだったか。

マックかどこか(後からまた書くが、大体バンドの初打ち合わせはファーストフード店が多い)でそれぞれの経歴や、やりたいジャンルの曲なんかを話した。

しかし話している内になんか話が食い違っていることに気づき始めた。

彼らの言い分はこうだった。
「実はベースを探している」
「ベースを弾いてくれるなら、お前がやりたいジャンルの曲を演奏してもいい」

おいおい、全然話が違うじゃねーかと思ったが、部活ではキーボードで好きじゃないジャンルの曲を演奏している手前、自分のやりたい曲ができるかもしれないという期待に胸が熱くなった。

即断はしなかったが、彼らが「セッション用に」と用意したバンドスコアのコピーを受け取りその日は帰った。

しばらく葛藤した。

ギターではないが、ベースなら好きなジャンルができる。
ベースもギターも似たようなもんじゃねーか。
でもそもそも手元にベースが無い。

悩んだあげく、ベースを引き受けることにした。
当時、高校1年生になって間も無いので、何万円もする楽器をホイホイ買う財力も無く、結局、夏休みにバイトをして金を返すという条件で親から金を借りた。

4万円くらいのプレベを買い、ベーシストとしての活動を始めた。が、全く楽しく無い。家で一人でギターを弾いている以上につまらない。

練習用に渡されたバンドの曲も、はっきり言って全く興味ないバンドだった(バンド名は敢えて伏せておく)ので、曲聴くのも苦痛だった。

そして何より

バイトがめちゃくちゃキツかった。

地元のレストランの厨房で働いたのだが、軍隊のようなところで毎日ボコボコにされていた。
バイトというのはこんなにキツいのかと当時は思ったが、その後の人生でこれ以上にキツいバイトに当たったことはなかった。

高校の同級生の何人かも、僕と同じように夏休みからバイトを始めたが、バイト先で彼女ができただの、バイト先の友達と遊びに行っただの、およそ同じ国の出来事と思えない程に、僕のバイト先は修羅の国のような有り様だった。

なんとか目標の金額を稼いだところで、逃げる様にバイトを辞めた。

しかし結局、手元に残ったベースで練習するでもなく、夏休みが終わり、例のバンドから「そろそろ音合わせしようぜ」的なメールが届いた。

そのメールを見て思った。

「そもそもこいつらに騙されなければ、こんなことにはならなかったんじゃねーか?」

騙されたと言えば騙されたが、結局、自分の意思でベースやることを選んだ訳なので、逆恨みなのだが、当時の中学からの夢が全然上手くいかない苛立ちと、バイトの苦労を思い出すと怒りが抑えきれず、ベースは断ることにした。

そうしたら今度は烈火の如くバンドメンバーから誹謗中傷がメールで送られてきた。
今から見ると子供の拙い論理なのだが、当時は殺しに行くだの、土下座して謝れだの、今で言うXの誹謗中傷みたいな文章がバンバン送られてきた。

まぁ結局、何事も起こらなかった訳だけども、当時は虚しさで死にたくなった。なぜバンドがやりたいだけなのにこんな目に合うのか、世の中のバンド組んでる奴らはみんなこんなに苦労してるのかと。

そんなことをしてる間に学園祭が近づいてきた。
部活のバンドのキーボーディストとしての役割はまだ残っていた。

人生初のライブ出演が待っていた。

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