モキュメンタリー5

翌朝カーテンを開ける音が聞こえ、耳元でさおりの言葉が響いた。
「博士朝だよ。」
「おはよ。そうか今日は可愛い方か」
おはよと答えた後、私はそう呟いた。さおりは現在、病により自分のことも間違えて認識することがあるということはよくわかっていた。私のことを博士と呼ぶ頻度が増えれば増えるほど、症状は重くなっている照明だということも。それでも私はこの状態のさおりが好きだった。この状態のさおりは、あの頃のような不思議な魅力を発し続けている。それがどれほど残酷な判断であると分かっていても、私の心はそれを喜んでいた。顔を洗い身支度を済ませ、キッチンに行くと娘もすでに起きていた。
「おはよ。朝ごはんは食べた?学校までまだ時間があるなら今日は私が作ろうか。さおりも座って待っていて。」
と私は言うと娘は
「今日は祝日だから学校お休みだよ。」
と言った。私は
「そうかなら仕事があるのは私だけか。」
と言うと娘は
「え!行くの?この状態で!」
と言った。朝から強めの言葉を浴びせられたせいで固まってしまったが、よく考えれば確かにその通りだ。
「すまない少し楽観的すぎたな。会社は休まないとだよな。」
そう言って娘には謝罪した。娘は黙ってキッチンに行き、朝食の支度をし始めた。私は席を外し、会社に連絡を入れた。
「博士どうしたの?大丈夫?」
席を外した私にさおりはそう言った。
「大丈夫だよ。少し電話するだけだから。今日は家族一緒に過ごせるようにね。」
と私は答えた。
「家族?」
とさおりは質問したが、その時には会社に連絡がついた瞬間だった。その為特に聞き返すことはなかった。