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2ひきのねこのかいぬしふたり
電車をいくつか乗り継いで旧友に会いに行く。20代のころ同じ職場にいた友人で、お互いその職を離れたあとも、ゆるゆると友だちだった。なんというきっかけもないのだけど(たぶん。先方にはあったかもしれない、わからない)何年か連絡を取り合わないときが流れて、そのあいだに友人はねことの暮らしをスタイリッシュに、そして等身大に切り取ったインスタがめちゃくちゃに人気を集めて、たくさん取材も受けたり連載を持ったりするようなひとになっていた。ぜんぜん意外ではなく当然のことで、友人はずっと、芯がきちんとあってとてもおしゃれでセンスが良くて才能も実力もある人間だったからだ。連絡をしていないあいだも、彼女はどうしているだろうかとときおり思っていた。でも、ひさしぶり!とメールを送るのは少し躊躇していた。大人気アカウントのひとになったからってすり寄ってくる、ノーベル賞をとったときや葬式のときに現れる知らない親戚みたいに思われたらどうしよう、とおそれていたのだ。わたしは卑屈になっていた。でもやっぱり、ときおり浮かぶ、彼女どうしてるかな、の思いのほうを大事にしたいなと思ってメールを送った(LINEではなくメール、である。旧友だから)。すぐに返事が返ってきて、ねこたちに会いにおいで、と言ってくれて、それで遊びにいってきた。
彼女はドーナツをおやつに待っていてくれた。同居の2ひきのねこにあいさつをすると、いつも人懐こいほうはなぜかわたしを警戒して、でも部屋からは出ていかずわたしの背中側に座って見ていた。やっぱりわたしの手、ねこに忌み嫌われる成分が出ているのではないだろうか。もう1ひきはベッドの中に潜りこんでいたが、抱っこはさせてくれた。この子はちょっとこわがりで抱っこを許容してくれはしてもぷるぷる震えていたりするのだそうだが、わたしが抱っこしたときは不本意そうではあったが震えてはいなかった。よかった。
わたしは友人がねこと暮らしはじめたころのことをよく知っているし、友人もわたしがねこと暮らしはじめたころのことをよく知っている。2ひきのねこのかいぬしふたりは互いに、ねこを迎える際に保護主のところにいっしょに見に行ったりしていたものだ。そんな思い出話をして、うちにいたねこの最期の話なんかもして、闘病を長くつづけて覚悟もできた末なのか、なんの予兆もなく突然なのか、どっちがいいんだろうね、と話をして、うん、どっちもむりだね、と頷きあった。
わかっていたが、友人はなんにも変わっていなかった。わたしは彼女のしっかりと芯をもったさまにとても憧れていて、そして眩しくもある。また会いたいなと思った。