オアシス韓国公演争奪記
その日、ひろこは朝からそわそわしていました。なぜかって、おひるの12時から、再結成したオアシスの韓国公演先行販売が予定されていたからです。もちろん日本公演2デイズはどちらの日も、VIP席とSS席をぬかりなくもうしこんであります。きっと当たってほしい、としんじていますが、ひろこはどうしても、オアシスがみたいのです。おとなりの韓国くらいなら遠征くらいしてやるわ、だってなにしろオアシスなんだもの、と、ひろこはこころをあつくもやしていました。
ひろこはその日、11時からバイトのシフトがくまれていましたが、あまりしんぱいしていませんでした。あらかじめ予約がはいっていたらべつですが、このだだっ広いレンタルスペースには、めったに客なんかきやしないのです。朝のそうじをしたりメールをチェックして返したり、てきぱき、きっちりとしごとをすませ、ひろこは11時40分くらいからじぶんのマックブックエアをひらいてたいきをはじめました。先行販売のためのゆうせんコードもちゃんと手に入れてコンファームしたし、韓国のチケットサイトのアカウントもあらかじめつくったし、パスポートをつかって本人認証だってすんでいます。クレジットカードのとうろくはできなかったので、いつでもコピペできるようにデスクトップにカード情報をしるしたテキストメモをひらいておきました。11時58分。
「こんにちはー。」ひろこがすわりこんでいる受付に、どやどやとひとがはいってきました。なんだこいつら。だれだこいつら。ひろこは受付スタッフであるにもかかわらず、おきゃくさんにむかってあからさまにいやなかおをしてしまいました。バイト先のカレンダーをみたら、なんと、12時からスペースけんがくにくるひとがいます、とちゃあんと書いてあります。ひろこはじぶんのつごうを優先したいあまり、おきゃくさんは12時半からくるものとまちがった記憶をきざんでいたのです。
でもだいじょうぶ。ひろこは気をとりなおしてえがおをつくり、「受付票にご記入をおねがいします。」とおきゃくさんに言いました。そうして彼が書いているあいだに、そっと、でもとてもすばやく、先行販売の申込ボタンをおしました。どうせつながらないんだろうから、リロードしつづけるしかない。そうおもったのですが、パソコンにはポップアップ画面が表示され、「じゅんばんまちをしてるからしばらくまっててください。リロードするとあらたにならびなおしになりますから、しないでくだい」と、数字がしめされました。さすがエンタメ天国、韓国のチケットサイトです。とてもよくできています。数字を見ると、2万3000人まちでした。
ひろこはしんちょうにじゅんばんまちの推移をチェックしながら、とてもしんせつにおきゃくさんに施設のあんないをしました。おきゃくさんはとても気にいってくれて、へやのあちこちをのぞいてはこんなふうにつかおうか、あんなことをしようかとなかまどうしではなしあい、「よし、ここをつかうことにきめます。」といってくれました。パソコンのじゅんばんをぬすみみると、あと300人になっていました。ひろこは「ありがとうございます!」とえがおをみせながら、よし、はやくかえれ、いまかえれ。と、こころのなかでおきゃくさんをせかしました。
こうしてしゅびよくしごとをおえ、おきゃくさんをみおくってすがたがみえなくなったしゅんかんに、ひろこはパソコンのがめんにすべてのいしきをしゅうちゅうしました。きた!もうしこみがめん、きた!!!遷移はとてもスムーズです。日本のチケットサイトにくらべるとだんちがいのぎじゅつりょく。ひろこはかんしんしながらてつづきをすすめました。めあてのスタンディング席をえらぼうとすると、15こくらいにブロッキングされて、それぞれをひらくと、映画館の座席のようにあいている席をえらぶことができます。まだ、ちょこちょこあいている!!ひろこはこうふんしながら、あきをしめすみどりいろの四角をおしました。ところが、どれをおしても「この席はすでに埋まってます」というひじょうなメッセージがひょうじされ、予約をすすめることができません。ひろこはあせりながら、あらゆるブロックをひらいては、マインスイーパのようにみどりの四角をおしつづけました。すると、もうどこのどのせきなのかもわからない、いきおいでおした四角がひとつ、はんのうしてくれたのです!ひろこはもうゆめのようなこころもちで、「支払い情報に進む」ボタンをおしました。オアシス、韓国でみれる!日本のもあたって、りょうほういけることになったらどうしよう!!
クレジットカードのりようわくもじゅうぶん、ばんごうもまちがいない。すばやくコピペでにゅうりょくをおえ、いよいよゴールです。ひろこは歓喜と緊張にふるえるゆびで「決済」ボタンをおしました。
……
……
……
あれ?
決済画面はしばらくしゅんじゅんするかのようにとまり、そしてひろこはしんじられない文字列をみました。「決済が、拒否されました。不正利用のうたがいがあります。」
は?????
え?????
ひろこはそのしゅんかん、おもいだしました。何日かまえ、Adobe料金の海外決済を、このカードがおなじように拒否したことを。そう、海外決済とみるや、このカードは不正をうたがってじどうてきに決済拒否するらしいのです。
まってまってまって。めにもとまらぬはやさで、ひろこは「不正じゃありません」とカード会社にしらせるてつづきをしましたが、そのあいだにチケットサイトのがめんは「決済が時間内に終わらなかったので無効です。」というメッセージをのこして、おわってしまいました。
え、まじで?
うそだ。
うそやろ?
え、ばかじゃないの?
ばかじゃないの??
いやいや、ばかじゃないの????
ひろこはやりばのないいかりにおそわれ、むいしきにテーブルをこぶしでがんがんたたいていました。こんなティピカルないかりのひょうげん、するんだな、いざとなると、ひとは。と、やったあとにおもいました。
いそいでもういちどじゅんばんまちの列にくわわり、席の選択画面をくまなくみてまわりましたが、もうみどりの四角はひとつもみつかりませんでした。
ひろこはぬけがらになって、映画「ソーシャルネットワーク」の最後のシーンのように、なんどもなんども画面をリロードしながら、いつまでもみどりの四角をさがしつづけました。