嘘というのも悪くない〔ショートショート〕
やってみたい事になかなか手をつけられない場合、その人は嘘つきなのかな。仕事帰りの夕暮れ時、コンビニの前の喫煙スペースは今日も貸し切り、私しかいない。
日が長くなって来たから、右手に挟んだ煙草のけむりがいつもより薄く昇っていく。その先には、白い月。
水彩?
油絵の具?
色鉛筆?
あの月にさえ、何を塗ったら良いかわからないのに、今朝、晴れていたのは自分のお陰だと無根拠に気分が良くなった自分はやっぱり嘘つきなように思えてしまう。
「晴れ男」。
そう言われるのが好きだ。
田んぼに囲まれたこの田舎町のコンビニの空に星が見えないのは、曇り空だということは紛れもない事実なのに、あんなふうに月が見えると天気が良いような気になるから月夜に煙草を吸う。闇夜に誤魔化してもらった空の下で、ハッピーバースデーとスマートフォンの画面が光る。
たぶん、この世界で一番だれかを幸せにして一番胡散臭い言葉は、ハッピーバースデー」なんだ。晴れ男が生まれた日にはしっくりくる。プレゼントは、傘がいい。
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