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飛んでった先にある世界
過去に戻る原動力が思い出なら、タイムスリップが成功したのに元の世界に帰って来る人なんていないだろう。
曇り空は斑に濃淡のある薄い青で覆われている。その障子戸の和紙みたいな空に、誰かが悪戯して指を突っ込んだみたいな穴がひとつ空いていた。雲の上の明るい光がその穴から漏れ出し、偽物の太陽の顔をして日輪を纏っている。その光景は光が漏れ出しているはずなのに、今日の分の光を地上から全部吸い上げているようだった。
鳥がいない。裸の街路樹だけが、だらしなく枝を曲げている。
友人が空に還ってから二年たった。
楽しかったことが多すぎて新しい世界がつまらないくなるから、老人たちは新しいことに鈍感なのだろうか。弱いから敏感で、強いというのは鈍感になった証だ。自分の守り方を工夫するくらい傷付き、強くなる。
てんとう虫が歩いている。硬い外殻の中の羽根は、まだ必要無い。
無神経な鳥も今日はいないから。
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