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夢じゃ食えねぇ…美人秘書カリファ現る

マキとの遭遇は、ウブだった僕にある程度の衝撃を与えた。お水のお店にも、そもそもAVですら一般男子よりあまり見ない方だと思うので、僕が割とピュア(というか草食系男子?)なのは分かって頂けると思う。

だからこそ、あんな明るくかわいい芸能人もこういうことをしてるのか、と思わざるを得ないのだ。

コンラッドからの帰り、大迫の運転する車内で他にもこの手の子はいるのか尋ねてみた。

「何人かは覚えてないけど、十何人かはいるね。そういう子がいると、売れるんだわ。」

大迫はこちらをチラッと見やると、ニヤリと笑い、続けた。

「集客については、タクのやり方が活かせそうだからな。そっちの事業として並行してやりゃいい。」

「いやいや、僕は本事業で忙しいし、そちらの仕事にこれ以上加担するつもりはないですよ。」

大迫が僕を引き入れた真の狙いはそこなんだろうな、と感じ牽制をしたつもりではあった。

しかし、この男はいつも強引に相手を自分のペースに引き入れるのが上手い。

相手を狡猾に動かし、鋭い目で牽制し、と思えば不意に懐に入るような、助けてあげなきゃ、という脆さも抱えているような…大迫はそんな男だった。

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赤坂の事務所に戻ると、僕は名古屋での成果と、これからの動きについて簡単に報告をした。

関東と東海では、それなりに収益を上げる展開が見込めていた。東京中心の一都三県で訪問介護を展開し、且つ提携する介護業者へ人材の紹介又は派遣を行う、またはフランチャイズ展開し、固定収益を確保する。

愛知、名古屋、神奈川、この辺りの介護事業者とは話ができていて、名古屋はその有力な提携先になる旨を伝えた。

そのための人材として、スタート1店舗については既に確保できていた。

「以上です。」

一連の報告を、携帯を弄りながら眉一つ動かさず聞いていた大迫は、ふぅっと息をついた。

「で、収益は?」

「幾ら入って、幾ら出てって、幾ら残るのか。俺はそこにしか興味ない。介護だろうが不動産だろうが、何やろうがどうでもいいわ。」

確かに、数字の話はしなかった……

「予想とかさ、夢じゃ飯食えねぇんだよ。幾ら稼げるのか、それだけなんだよ、大事なのは。」

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睨み付けるように向けられた目線を直視できず、的を得過ぎた指摘に俯く事しか出来なかった。

初めて、大迫にビジネスの核心的な、非常に大事なことを突き付けられた気がした。

「今後同じような報告はいらねぇから。どうすんのかは自分で考えろ。」

根本的な自分の考えの甘さを痛感しながら、ショボくれながら自席に戻り、改めてビジネスプランを練り直す事にした。

何もこれまでやってきた事が間違っていた訳ではない。

金の計算

これを気にしなさ過ぎたのだ。

僕はPCに向かい、エクセルに現在把握している収支を入れていった。

大迫への報告を終え、PC業務に専念してから19時半を回った所で、来客があった。

このところ、赤坂オフィスにはネットの業者か、風俗系の紹介業をしてるキャッチのにーちゃんばかりが来るようになっていて(僕が来る以前からそうだったのかもしれないが)、今日もその流れでむさ苦しい男が来ると思い、無作法にインターホンに応えた。

面接などで女性が来る際は、大迫から(直前ではあるが)一言あることが多かったので、この時は気が抜けていた。

「はい、どちら様?」

「白石です。」

落ち着いたトーンの女性の声だった。ん…女か、面接かな?と思い大迫に尋ねた。

「大迫さん、白石さんという方がお見えですが。」

大迫はPCで何やら作業をしていたが、特に気にする事もなく、応接スペースへ通せ、と答えた。

「どうぞー」

とドアを開けると、フレームの無いメガネに肩下まで伸ばしたロングヘアーを靡かせた、色白の美女が僕にお辞儀をしながら入ってきた。

カリファの実写版だ

漫画・ワンピースのウォーターセブンに出てくる、アイスバーグ市長の秘書を務めている、カリファ、そのままだ…

「ごめんなさい、少し遅れちゃったわ」

そういうと白石(以後、カリファ)は静かにソファー中央に腰を下ろした。

何者だろうか、と思いながらお茶を準備しようとした僕を大迫が制した。

「こいつは俺の秘書だから、茶は出さなくていい」

え、と僕がソファーの方を振り返ると、カリファはこちらを見つめながらペコっとお辞儀し、再び大迫の方に顔を向けると話を始めた。

「この前の件は連絡くれてた通り進んでる。あとは新業態を始めるタイミングになりそうね。もう決めたの?」

「それはもう決めてある。集客も料金形態も設定したしな。あとはお前のルートで人が集まるかどうかだ」

それは大丈夫よ、とカリファが言うと大迫がデスクを整理し、外出の準備をし始めた。

「ミサ、飯食いながら話そう。今日朝から何も食ってないんだ。タク、俺はこの後おそくまで打ち合わせになる。出張もあったし適当なとこで帰れ。」

大迫が初めて見せた優しさに僕が驚いている間に、彼は足早にオフィスを出て行った。

ミサ、と呼ばれたカリファは、恐らく僕のことを大迫から聞いているのだろう、特に僕に興味を示す訳でもなくニコッと僕に微笑み、メガネを右手でクイッと上がる仕草をして出て行った。

赤坂に来て約2ヶ月、大迫に秘書がいるのは初耳だった。おまけにドラマや漫画に出てくるような、典型的な秘書像ピッタリだ。

自分より少し年上だろうか、キリッとした雰囲気に大人の色気を漂わせたカリファとの邂逅の余韻にしばし浸り、この日は終わりを迎えた。

続く




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