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THE SECOND総評 ~灰色の日々にバラを添えて~

「挑み続けることは、勝ち続けることよりも難しい」
競走馬ステイゴールドはサラブレットとしては衰えて当然とも言える7歳末、生涯で50戦を走りその最後の50戦目に初めてGⅠを制した。
2着12回、3着8回。決して弱いわけではない、しかしどうしても届かないGⅠ勝利。
しかし彼は最後の最後に勝った。その「諦めない精神」が結実した。
ステイゴールドの前を数多もの名馬が過ぎ去って行った。いつしか名脇役と呼ばれていた。
それでもいつか「主役」になれると信じていた。

そんな悲哀と少しの諦観を持った8組の漫才師。
燻り続ける彼らの前に救いの手が差し伸べられた。

THE SECONDはそんな大会だった。
今回はその大会を振り返って纏めてみようと思う。

私が常日頃「M-1グランプリは競馬で言えばマイル戦(1600m)。スタート(ツカミ)を決めて流れに乗り最後まで勢いを保ったまま駆け抜ける」と言い続けてきた。一方のTHE SECONDは6分だという。これは2400mのダービーと置き換えて良いだろう。もちろん出遅れないことに越したことはないが、道中でペースが緩んでもジッと我慢してチャンスを伺える、辛抱強さも必要となってくる。
しかし今はショート動画全盛の時代だ。果たして6分というのが受け入れられるのかという不安はあった。

ここからはリアルタイム寸評を改めて振り返りたい

①金属バット ことわざ:今の時代スレスレの毒を混ぜた攻めた漫才。言葉のチョイスも絶妙。これを決勝で見れただけでTHE SECONDの成功が見えた気がした
②マシンガンズ 日々の怒り:まさかの大会いじり(笑)からの止まらない怒り。昔より悲壮感が乗っかって味わい深い。ただ思ったより爆発しなかった
≪名前通り凶器対決だったが、その名に負けず中身も毒舌対決で盛り上がった。僅か2点差の決着だったが、早くも大会の中身が見えたカードだった≫

③スピードワゴン 四季折々の恋:ツカミもそこそこに6分を作りこんできたコント漫才。後半は売れてる強みを活かした感じだけどベテラン味の薄さがどう出るか
④三四郎 占い師:客層に大きく左右されるネタ。芸人仲間をネタに出すのもM-1ではややご法度も自分たちをイジるメタ漫才も売れてる者の強み
≪先日の「行列の先頭」で見た対決であり、8組の中では売れっ子対決でもあった。スピードワゴンは残しておいたネタの方が良かったのかも。三四郎は他の芸人の名前を次々出すネタというある意味禁じ手でウケを取った。この時点でM-1より自由度の高い大会だと確信した≫

⑤ギャロップ カツラ:カツラだけで6分を駆け抜けるパワー。話術と独自性の融合。途中からコミカルチックになるのも二度美味しい
⑥テンダラー スカウト:ツカミから絶好調、場面がコロコロ変わるシームレス漫才。まさに漫才のバラエティBOX。こちらも相変わらず地肩が強い
≪関西ダービーとして大会前から大きな盛り上がりと、どちらかが消えるという勿体なさのある対決だった。どちらも技術はもちろん、地肩が強い同士。何をやってもウケるだろう安心感。ギャロップは名刺代わりのハゲ漫才。テンダラーは優勝候補とも言われたが、下ネタの多さがやや好き嫌いを分けた感もあっただろうか≫

⑦超新塾 映画:イロモノ寄席漫才。四コマ漫画を連続で見てるみたい。前カードとの温度差がどちらに転ぶか
⑧囲碁将棋 モノマネ:古き良きオーソドックス漫才の中に次に何が来るかのワクワク感を足した。今更技術を語る必要も無いけどやはり圧巻
≪スタイルが真逆のカード。超新塾は5人という人数が7にも8にも見え、それがゴチャつかない楽しい漫才。囲碁将棋はまさに「正攻法」で正面から挑んだ。≫

準決勝①マシンガンズ 酷い仕事:思ってることを言ってくれるというスッキリ感が心地良い。カンペ使用は賛否も悪意のマシンガンが炸裂
②三四郎 弟子入り:1本目が博打感が強すぎた分ちょっと勢いが弱まってしまったか?後半の大会イジリもこのタイミングではどうか…?
≪ここまで審査にあまり影響を与えないようにしてきた松本人志が初めて「カンペを使うのはプロ的には減点」という主旨の発言をした。だが、一般審査員としてはそこは許容範囲だったか。三四郎は似たスタイルではやや飽きが勝ってしまったか。≫

準決勝③囲碁将棋 副業:同じく生意気フォーマットだけど何本見ても飽きない。全てが高水準で良い意味で纏まっている。淀みない高速漫才
④ギャロップ 電車:ここでハゲを捨てれる勇気も実力あってこそ。ただ面白いけど切り口として目新しさは無いのでそこはどうなのかなあ
≪ここが事実上の決勝戦となった。勝った方が優勝だろうなと思われたカードは284で同点のまさにデッドヒートだった。東西劇場の雄とも言うべき好カード。ここでこの大会の成功が確信出来たとも言える≫

決勝①マシンガンズ 回を増す毎に増える武器。まさにドキュメンタリー漫才。まさか本当にネタが無かったとは(笑)この形の無さを評価すべきかどうかは悩みどころ。笑いの量だけで評価するなら強い。でもやはりちゃんと三本ネタを用意出来る、そこが芸歴としての強さではないかと言われると…決勝②ギャロップ 高級フレンチ:劇場で腕を磨いてきた彼らのベストパフォーマンスを三本も見れた。それだけで感無量。三ネタ三葉出し尽くした。全体の笑いの爆発力としては劣っていたかもしれないが、パンまでの爆発の長さを冗長と捉えるか、6分の醍醐味と捉えるか
≪マシンガンズはまさかのネタ切れ。プロの技術としてネタが無くても即興で繋ぎ合わせてネタを構成するのは素晴らしいが、やはりそこは賞レース。一般審査員もウケてはいたが、審査となるとそこにノーを突き付けた感じではあった。ギャロップの安心感がそれを上回るのは当然とも言えただろう≫

テンダラー、囲碁将棋を破って勝ち進んできたギャロップがその実力を遺憾なく発揮し、見事初代王者に輝いた。
終わった今でも「素晴らしい大会だったな」と言えるほど、初回とは思えないほど順調に進行し、大きな滞りもなく終えられたのはスタッフの努力によるものだと思う。

ただ、
・一般審査員の感想は必要だったのか?両者3点若しくは2,3点を入れた人のみを抽出していたが、ほとんどが「どちらも面白かった」というコメントの列挙だった。(素人だから拙いのは当然)感想は言わずに点数だけで大会は進行するし、そこを省いてもっと放送時間をコンパクトにしても良かったと思う。
・点数発表をもう少しスピードアップさせないと、人数で勝ち負けを判断出来てしまう為、緊張感が薄れてしまうのではないか。
・上記に似ているが、決勝はスタジオ上部からの点数表示もせず、同時に発表しても良かったのではないか。マシンガンズのネタ不足となったのは運営の責任ではないが、せっかくの大会が最後に緩んでしまった(それによる笑いがあったのも事実なので難しいが)

改善点は当然あるものだろうが、細かい部分はきっと来年調整してくれるだろうと信頼がおけるぐらいのスタッフの頑張りが見えた大会でした。
きっと来年も素晴らしい大会になるでしょう。

ここ最近、芸人の解散ラッシュが続いていた。「続けること」だけが正解だとは思わない。諦めることが正しいこともある。
ただ、16年以上お笑いの世界で戦ってきたこと、その時点で彼らは決して「負け」てなんていなかった。燻ろうと、怠けようと、卑屈になろうと、彼らは留まり続けた。それが追いかけても届かなかったチャンスを手繰り寄せた。
8組全員が間違いなく勝者だった。
灰色の日々がほのかに色づいた日だった。

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