美容室だって、”ストレングスファインダー”を活用しています。
ぼくは、北参道で『らふる』という美容院の経営をしています。
美容室経営というと、お店を魅力的に見せるブランディングや、メディアに取り上げられるカリスマ人気美容師の育成も大切です。しかし、そればかりが重要だと思われがちですが、そうではありません。
もっとも大切なのは、チームが育ちやすい環境を整えることだと、ぼくは考えています。
以前、『個人勝負は、もうやめよう。ぼくらの美容室が指名予約を推奨しない理由』というnoteにも書きましたが、お客様から指名をいただくことが評価される美容院は「個人の集まり」のような状態になりがちです。実は、美容室業界では、人気美容師の独立や他店への転職時に、お客様がごっそり抜けて、売上が急激に下降することがよくあります。
美容師個人にファンができることは全く悪いことだとは思っていませんが、末長く存続する店を目指そうと思うと、「お店自体」がお客様から愛されることが大切です。
個人を超えて、チームで価値を発揮する。
そんな美容室を目指し、チームビルディングの本などを読んだりしながら、自分なりにチームワークについて学び、試行錯誤を繰り返しています。
その中で、『ストレングスファインダー』を、らふるでは活用しています。
お互いの強みを知ることのできるストレングスファインダーは、様々な企業や組織で活用が進んでいますが、美容室が活用するケースは、まだ少ないのではないでしょうか。
今回のnoteでは、らふるでは、どのようにストレングスファインダーを活用しているかを紹介しながら、ぼくらが目指すチームについても伝えられたらと思います。同時に、ストレングスファインダーに関心がある人に、何かしらの気づきを与えられたら幸いです。
チームワークとは、お互いの凸と凹を活かすこと。
はじめに、『らふる』が考えるチームワークを紹介します。
「みんなでやる」…らふるとして掲げたゴールに向かい、メンバー各々が自律し、行動すること。
これが目指すチームの基本です。
例えば、らふるは『本店』と『其のニ』の2店舗がありますが、それぞれを別物として考えるのではなく「らふる」としてどうありたいかを忘れない事が必要です。「私の働いている店舗ではないから…」などと言う狭い視野では良いチームワークは生まれないのです。
さらに、らふるには、いろんなお客様が訪れます。お客様ごとに美容室に求めるものは違っていて、同じお客様でも、その時の気分によって期待するものが変わったりします。
すべてのお客様に心地よい場所であり続けるには、自らのスタイルに固執するのでは、お客様の状態にあわせて、ぼくらは柔軟に接するべきだと思います。大切にしている軸はありますが、やわらかさを持った存在でありたいと考えています。
ただ、柔軟に変化すべきといっても、何にでも対応できるスーパーマンは存在しません。人によって、強み(凸)、苦手なこと(凹)もあります。
誰かの凹を、誰かの凸が埋め、お互いの違いを活かすこと。
これが、らふるで考えているチームワークです。
組織開発ファシリテーターの長尾彰さんの本『宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく』には、こんなことが書いてあります。
好きなことは、極める。
嫌いなことは、避ける。
得意なことは、引き受ける。
苦手なことは、委ねる。
この4つをメンバーが共有し実践できれば、違いを活かしたチームワークが生まれてきます。
まさに、ぼくらが目指したいチームの姿です。
スタイリストごとに「強みの資質」は違う
そして、お互いの強み(凸)を知るための手段のひとつが、ストレングスファインダーです。
ストレングスファインダーは、専用のWebサイトにアクセスして、170問以上の質問に答えることで、34種類の資質の中から自分の強みである上位の資質を知ることができるというものです。書籍『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』を購入すると、カバーの裏にアクセスコードが記載されていて、診断を受けることができます。
らふるでは、全員にストレングスファインダーを受けてもらっていますが、その違いを見ると面白いです。
例えば、ぼくの上位の資質には「回復思考」があります。
回復志向とは、物事を本来あるべき姿に戻す資質です。本来あるべき姿に対し、足りないところや欠けているところに気づき、解決することが得意と言えます。マイナスをゼロにすることを強みにする資質と言ってもいいかもしれません。
他方、らふるを一緒に創業し、らふる本店の店長の安田の上位資質は「最上思考」です。
最上思考は、物事の良いところに目を向け、それをとことん磨いて極めていこうとする資質です。ゼロをプラスに、プラスをよりプラスにすることを強みにしていると言ってもいいでしょう。
あるべき姿にするために、改善点を探して、整えていくぼく。現状のいいところを見つけて、そこを磨いていこうとする安田。このストレングスファインダーの結果は、ぼくら二人の違いを客観的に認知する上で、しっくりとくるものがありました。
彼には見えないものがぼくには見えていて、ぼくに見えないことが彼には見ている。このお互いの強み(凸)を活かして、らふるのお店づくりをしていったほうが健全です。こんな風に、らふるでは、ストレングスファインダーを利用して、違いを活かしたチームワークを生み出していこうとしています。
目指すキャリアにも、違いがあっていい。
また、お互いの強み(凸)を活かすために、らふるではキャリアにも柔軟性を持たせています。
ほとんどの美容室では、キャリアとして、スタイリストを目指すことが一般的です。入店直後はアシスタントからはじまり、先輩スタイリストの技術を学び、担当できる領域を増やし、スタイリストとしてお客様の施術を担当できる状態へと独り立ちすることが良しとされています。
もちろん、らふるに入店するスタッフにも、基本的にはスタイリストを目指してほしいと考えています。ただ、全員が一様にスタイリストを目指さないといけないわけでもないとも思っています。
例えば、スタッフの岸裏は、スタイリストを目指すではなく、アシスタントとして各々のスタイリストをサポートする役割として最大限の貢献をする道を模索しています。
彼女のストレングスファインダーの上位には、「共感性」があります。
共感性は、他者の感情が自分のことのようにわかってしまう資質です。体調が悪い人や、何かがあって落ち込んでいる人などを的確に察知することに長けていると言われます。また、人の話しを共感しながら親身になって聞いてくれるので、いろんな人に相談ごとをされることも多いのが特徴だそうです。
この共感性の傾向どおり、岸裏は「お客様のことがよく見えている」と関心することが多いです。
美容師には、カットやカラーなどの技術の他に、お客様のなりたいイメージや悩みを理解するための「傾聴力」が求められます。技術とセンスがあっても、お客さんが望まれているヘアスタイルとズレてしまうと、お客様に喜んでいただくことはできません。
この傾聴力にも、それぞれのスタイリストの個性が表れます。
例えば、こんなシーンがありました。妊娠をされているお客様から、カットとカラーのオーダーをいただきました。妊娠を機に、長かった髪を短くして、楽な髪型にして、気持ち新たにカラーリングを楽しみたいと。一方、そのお客様は「マタニティスイミング」に通われていました。そのお話を聞き、ぼくはカラーリングは出産後に楽しまれたほうがいいのではと提案しました。なぜなら、プールに通うと、塩素の影響でカラーリングが落ちてしまうからです。
ただ、このやりとりを聞いていた岸裏から、お客様が帰られた後、こんなフィードバックを貰いました。プールに通いながらでも楽しめるカラーリングを提案したほうが良かったのではないかという内容です。
このタイミングだからこそ、お客様はカラーリングを楽しみたいのではないかと。色が抜けてしまうのは仕方ないけど、色が抜けた後も楽しめるカラーリングや、次回以降によりカラーリングを楽しめるベースを作る技術をぼくは持っているので、その提案をしてもよかったのではないかと。
ぼくのストレングスファインダーの上位は、ロジカルなものが多く、どちらかというと合理的に判断する傾向があります。こういった視点はぼくに欠けているものでした。
現在、岸裏には、この共感性を活かして、それぞれのスタイリストの視野を広げるようなサポートをしてもらう動きをしています。そして、将来的には、らふる全体の傾聴力の向上をリードしてもらう役割を期待しています。
彼女自身、スタイリストとして様々な技術を一通り習得するより、自分の強みを活かして、働くことに意欲を持っていて、アシスタントとして価値を最大化することに積極的に取り組んでいます。
アシスタントというと、スタイリストのお手伝いさんという感じで、階層が低いように感じますが、そうではありません。医者と看護士のどちらが偉いということではなく、お互いに違う役割があって、患者さんを支えているように、スタイリストとアシスタントも互助の関係だと思います。
手放して、メンバーたちに委ねていく。
例として岸裏と安田をあげましたが、どのメンバーにもそれぞれ魅力的な強みがあります。このように、らふるでは、お互いの強み(凸)を活かすチームづくりを進めています。
お互いの強み(凸)を活かすとは、お互いの苦手(凹)を受け入れることでもあります。
禅の教えを受けると、「手放しなさい」という言葉がよく登場します。
この世で起こることは、良いことも悪いことも、様々な縁が積み重なって起こるもの。自分ひとりの力で何かをコントロールできることなんて到底できず、「絶対にこれを達成する」「こうならないといけない」といった執着を捨て去ることが大切という教えがあります。
手放すことを意識するようになってから、いろんなことをスタッフに委ねるようになっていきました。現在は、一人ひとりのスタッフを型に無理くりハメようとするのではなく、一人ひとりの違いを活かし、らふるらしいチームをつくっていけたらと考えています。
編集協力:井手 桂司