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恨みつらみのグラフキューブ

コンクリートがむき出しになった部屋。どこを見ても灰色と粉を吹いたようなざらつきの壁。天井には赤錆びついた鉄筋の梁がむき出しになっている。開閉機能のない打ちっぱなしの窓。そこから西日がわずかに差し込み、部屋中央にあるスチール製の机の表面に、陰陽を分ける一本線を描く。床一面は煤けていて、万べんなく埃が積もっている。まるで取調室みたいだった。

机を挟んで対面同士に置かれた2つのパイプ椅子。プロレスラーが凶器として持ち出しても違和感のない鼠色の骨組みと、青紫色の革が座面と背もたれに張り付けられている。座面には波紋のように広がったひびが入っていて、年季を感じさせる。

そんな大切に扱われる理由もない椅子の片割れに、誰かが座っている。ちょうど西日を避けた暗がりに入っていて、黒々としたシルエットがぼんやりと馴染んでいる。ぱっと見、座高の高い背丈もやや猫背な姿勢も、鏡写しにした自分みたいだった。仮にその人物を「  」と呼ぶ。私であって私でない、私の片割れ。

その「  」の対面に私はいる。同じようにパイプ椅子に座っている。ただし、こちら側は西日でクッキリと照らされている。

部屋の中には他に何もない。この部屋から出るための扉も、調書を書き留めるために隅に追いやられた机もない。天井からぶら下がっているはずの白熱電球もない。日が沈めばどうしようもない黒が部屋を包み込む。陰影は一切きえさり、この部屋が存在してるかどうかも認識できなくなる。容易に出られない点は脱出ゲームの有様だった。

対面の「  」と何かやり取りをすればこの部屋から脱出できるのだろうか。ほかにめぼしいアイテムもない。テーブルの上には手前と奥を寸断するための光の筋しかない。なぜか、壁掛け時計もないのに、秒針の音は響いている。

「あなたは、誰ですか?」

カチッカチッと規則的に秒針の進む音の中、対面の陰に声をかける。「  」は身じろぎもせず、身体的な反応は何一つ示さなかった。顔は…陰になってしまって見えない。

そういえば、視力が0.1を切っているはずの私が違和感なく部屋の様子を実況できている。眼鏡がないのに、くっきりと見えちゃっている。きっと、ここは夢か空想の世界だろうと目星をつける。思えば、寒さも暑さも感じず、空腹感も寝起き特有のだるさも何もない。気づけばこの部屋にいたが、この部屋にくるまでの経緯もいきさつも何一つ思い出せない。そもそも記憶が存在しない。それでも今この状況をすんなり呑み込めるのはやはり夢だから、という他はなかった。

「  」は短い沈黙の後に、口を開いた。実際は口を開いたかは影になってしまって見えないが、確かに私の耳に言葉が届いた。

「この世のすべてが恨めしいのです」

その声色は冷静で、澄んでいた。ただ事実を述べるようにでもあるし、ト書きの台本に感情を込めるようにも聞こえた。淀みはなかった。場違いに優しかった。後悔というより、諦めだった。それでも意思を感じた。「  」が何かを力強く諦めていることだけは確かだった。

「そう…ですか。あの、お名前は」

「名前になんの意味があるのでしょうか」

「えっと、あなたのことをどう呼べばいいか、分からないんです」

「  」

シルエットの口元がわずかに動くと音のない概念が頭にぽつりと浮かんだ。「  」と、確かに言った。いや、それは言葉にできない空白のはずだ。なのに、間違いなく仮称していた概念そのものを「  」は口にしていた。

「あなたは私のことをそうお呼びしていたでしょう。それでよいではありませんか」

すんなりと心に落ちた。オレンジがかった窓からの光が中空のホコリを映し出す。ダイヤモンドダストのようなゆらめきが、妙に心を落ち着かせる。ランダムに上下左右、部屋のどこにでもある空気の流れが可視化される。暗がりになると途端に見えなくなる。「  」は続けた。

「あなたには、名前がある。それが恨めしいのです」

「えっと、どうして? あなたにも名前はあるよね」

「私の名前は、ありません。私は誰かに名付けられたからそう呼ばれているだけなのです」

「名づけられたって……名前ってそういうものでしょ。与えられたからには、それが自分であって」

「それを素直に認められているあなたが恨めしいのです」

「…あなたは、自分の名前が嫌いなの…?」

「あなたの好きに呼んだらよいのです」

「それは、むずかしいよ。あなたのご両親がつけてくれた名前があるなら、そっちを呼びたい」

「私の両親をご存じなのですか?」

「いえ、そういうわけじゃないけど」

「あなたのご両親はさぞかし素晴らしい人なのでしょうか」

「いや、普通の公務員と、専業主婦だったけど…でも、私にとっては唯一の肉親で、かけがえのない人たちです」

「やっぱり、恨めしいですね」

「あ…」

その瞬間、自分が失言してしまった可能性が思考を巡る。もしかしたら「  」は両親との関係が悪く、与えられた名前に確執があったのかもしれない。だから消しゴムで消したような「  」をあえて使うことで両親との繋がりを絶とうしている。そんなトラウマを被ったネグレクト被害者のエピソードをふと思い出した。乖離の一種で、過去の凄絶な記憶を切り離すための自己防衛だと、そんな話を心療内科やらクリニックに通う友人から聞いたことがあった。とっさに口を紡ぐ。

「…あの」

「なんでしょうか」

「ここは、どこなのでしょうか」

「あなたが作り出した部屋ではありませんか」

「私が?」

「そうです。あなたです」

「どうして、私がこんな部屋を・・・」

「話す場所が欲しかったからではありませんか?」

「え、話す、って、なにを…」

「わたしは、この世のすべてが恨めしいと申し上げました。あなたも恨めしいのでしょう」

「え、恨めしいことなんて、そんな、私には…」

「  」

その瞬間、私の名前を呼ばれた気がした。でも空白で何も塗りつぶされていないそれは、私が目の前の人物を呼称するときに使っていた表現だ。私に当てはまらない「名前」のはずなのに妙に馴染んだ。目の前の「  」は続けた。

「今はわたしもあなたも、塗りつぶされていません。心を覆い隠さなくてよいのです。思ったことをいえばいいのです。ここはそういう場なのではありませんか」

「そっか、そっか…。ここはそういうところなんだね」

「そうです」

西日が傾き、やや「  」の口元を照らす。ピンク色のリップにシャープな顎の形が見えた。口は一の字で結ばれているが、わずかに口角が上がっていり、口の端に小さなほくろがある。どこか妖艶な印象を持ったが、口元から上はグラフキューブでがしがしと塗りつぶしたように真っ黒だった。

「恨めしい…えっと、その…」

「はい」

「私は、私は普通に生きて普通に生活できている人が、恨めしい…かな」

「それは恨めしいですね」

「だって、私には昔っから精神疾患があって、そのせいでイジメられたり、臆病な性格になってしまったり…」

対面の「  」は口元を結んだまま聞いていた。みじろぎひとつ、相変わらずなかった。

「でも、そんな話を社会に持ち込んだら、努力が足りないとか、弱者を盾にされたらこっちは何も言えなくなるよ、とか突き放されて、でも事実で、事実をそのまま言うと敬遠されちゃうから、無理やり隠すようにして、でも、そうするともっとつらくなって、だから、だから」

「恨めしいですね」

一瞬、何に対して恨めしいのかが理解できなかった。私に同情を示してくれたのか、それとも社会に対して憤っていたのか。たんに口癖なのか。分からないけれど、そのまま言葉を借りた。

「恨めしいです…特に、面と向かって言ってきた■■さんは、本当に…」

そこで違和感に気付いた。■■さん。あれ、おかしい。発音しているはずなのに、言葉にならない。どうして。■■さん。塗りつぶされてしまっているような…。

「塗りつぶしたのです」

よどみない声で、質問のない話題に回答がきた。まるで心を見透かされたようだった。

「この部屋は、あなたが作り出したものです。しかし『観衆』がいます。恨めしいことに、あなたや私の吐露する心情は筒抜けですが、観衆がどう思うかは私たちには分かりません。それでは、あまりに一方的です。ですから、恨めしい観衆さん方にあなたの大切なお話を聞かせるくらいであれば、私が独占します。大丈夫です。私の耳には、恨めしいほどにハッキリと聞こえています」

戸惑った。
観衆と、は何のことを言っているのかさっぱりだった。部屋を見渡しても粉吹きのコンクリート壁で覆われているし、日の当たらない暗がりに人や生物の気配もない。隙間も抜け穴も確認できない。歩き回って壁をペタペタと触れば、もしかしたら忍者屋敷にある回転板が仕込まれている可能性もないわけではない。でも、一見したところ床の埃は均一に溜まっていて、仕掛けが作動した痕跡は見当たらない。部屋の中には、確かに私と「  」しかいない。観衆の「か」の字もない。

そして、今更気づいてたが、どういうわけか立つことができなくなっている。椅子の座面にぴたりとお尻がくっついていて、びくともしない。催眠術にでもかかっているみたいに足に力が入らない。感覚すらもない。全身麻酔で鈍っている状態とも違う。全身が棒のよう。まるで自分自身がこの部屋を構成する一つのモノとして役割を与えられた気分だった。最初からここにいて、最後までここにいる。対面する「  」と話し続けること。それが私に与えられた役割だと錯覚してしまうほどだった。

「観衆、っていうのが何を言ってるのか分からないけれど、でもあなたにはちゃんと伝わっているんだよね…? ■■さんの、こととか。」

「ええ、ちゃんと聞こえています。恨めしいほど明瞭に」

「そっか、そっか…」

「話したい事があれば聞きます」

「えっと、じゃあ、さっきのとは別の人でね、■■■■さんって人がいてね。ちょっとその人に思うところがあって、その話をしたいかな…長くなるけど…」

「かまいません」

「えっと、■■■■さんはすごく素直で、まっすぐと生きていて、友達もたくさんいて、でも多分自分についてそんなに深く考えずに生きれていて、正直恨めしいことがたくさんある。いや、恨めしいっていうか、妬ましいなのかな。とにかく、なんだかんだ上手に生きれてる。話が上手だとか口が回るっていうのもある。でも、正直褒められた部分じゃないところもいっぱいある。根本的には不器用だけど、でも、なんか許されてるんだ。みんなから。許されちゃうんだよ。そういうキャラだよね、って納得されて。私は許されないのに。おかしいよ。不平等だよって、いっつも思う。どうして■■■■さんばっかりって。■■を持ってるからってさ、ぜんぶぜんぶ肯定されてさ。■■■■さんも直接否定されることだってあるけど、ぜんぜんなんでもないみたいな顔してさ。自分の気持ちに■■すぎんだよ。それに対してどうして私はこんなに■■なんだよって、神様を恨みたくなる。出生ガチャに成功したか失敗したかで、どうしてこんなにもつらくなっちゃうんだって。納得なんて一生できない。だから、もう■■■■さんとは関わらないようにしたいし、見ないようにしたい。でも、切れない関係だからどうしても目に入る。いやだ。いやだよ。こんな■■な感情を思いながらお話したくないよ。■■■■さんにも自分にも失礼だよ。自分の嫌なところばっかりでる。私が勝手に悪役になっちゃう。そうじゃない。そうじゃない。本当はもっと素直に受け入れたいのに、できないんだよ。できない。でもできないっていうと周りから■■■られる。■■される。■■れる。■■って言ってきた■■にさ、何が分かるんだよって。確かに私の振る舞いとか発言でたくさん嫌な思いをさせてしまったことがあるかもしれない。でもさ、それがストレスだわ~大変だわ~ってさ、陰でグチグチ言っててさ、向こうは上手に処理できてるのにさ、私は何もできなくって抱え込むばっかりで、■■■■さんの100倍は苦しんでるのにさ、『■■■■■■■■■■■■』ってさ言われてさ、何もいえなくなって、私の気持ちなんか塗りつぶされて、なかったことにされて。でもこういうこと言うと、弱者を盾にするなって。ふざけんなって。ふざけんなって、ずっと思ってる。ずっとずっと、納得してない。でも、でも、こんなこと、誰にも話せない」

「それはたいそう、恨めしいですね」

「―――ごめんなさい…私の話ばかり」

「いいんです。ここはあなたの部屋です。あなたの好きなようにしてください」

優しい人だと思ったけれど、相変わらずト書きの台本を読み上げているような淡白さがあった。淀みもない。どんな言葉を尽くしても、まるで用意されていたセリフがそのまま返ってくるかのような手ごたえだった。暖簾に腕押し。感触がない。でも自然と素直になれた気がした。

「他にはお話したいことはありますか」

「もう、数えきれないくらい…あるよ…でも…」

「話すのが怖くなりましたか?」

「…うん、これを言っても、現実は何も変わらないし、むしろ、止まんなくなっちゃうのが怖い」

「お行儀がよくて、恨めしいですね」

「! お行儀って…」

「あなたがあなた自身で心を塗りつぶすのは勝手です。でも都合よく書き換えるのは違います。「  」を「理想のあなた」にしても、恨めしいほどにむなしい。その空白を決めるのはあなたではありません。観衆、ひいては周りの人間なのです」

「そ、そんな勝手な」

「観衆は勝手なのですよ。恨めしいほどに。理解などとは程遠い。分かりやすい記号を望むのです」

「で、でも、これはあなたに話してるのであって、観衆に言ってるわけじゃない」

「ではあなたの対面にいる私は、観衆ではない、と?」

「?! それは…」

「なぜ、私のことを特別だと思ったのでしょうか。恨めしいほど愚直に」

「だって、だって話を聞いてくれるからって…」

「そういって、何度も裏切られてきたのでしょう。性懲りもなく繰り返すのですか」

「ふ、ふざけないで。あなたから話をふったんじゃない!」

「あなたが勝手に話し始めたのです。私の話を聞くよりも、あなたは自分のことを喋りたそうになさっていましたから」

「この…」

「あなたは、とにかく分かりづらい。こんな部屋を作ってまで機会を設けないと、本音を語れない。さらにその本音も書き替えられたモノなのです。本当のあなたは、いったいどこにいるのでしょうか」

「めちゃくちゃ言わないでよ!」

瞬間、接着剤で張り付いていたような椅子から身体が浮き上がった。立った衝撃でパイプ椅子が後方にガシャンと倒れた。勢いをそのままに両手をテーブルにバンと叩きつける。対面の暗がりには「  」がいて、顔は見えないけど余裕の表情を崩していないだろうと察しがつくほどに、動揺はなかった。

「ちゃんと私は本心をいった!言いにくいことだって、口にした。べつにどうこうしてほしいって言いたいわけじゃない。事実としてこう思ってる、って素直に言った!これ以上、どうやって話せっていうのよ」

「塗りつぶしなさい」

「は?」

「空白も、理想のあなたも、すべてグラフキューブで塗りつぶしてしまいなさい」

「全部なかったことにしろっていうの?気持ちも、感情も、恨みも」

「なくすのではありません。塗りつぶすのです。恨めしいほどに。観衆が読み取れなくなるまで、埋めてしまいなさい」

「そんなの…どうやって。抽象的すぎて何言ってるのかわかんないよ」

「■■■■■■■■■■■■■■■■」

「え、それだけ?」

「ええ、それだけです」

「じゃあ、つまり、■■■■■■■■ってこと?」

「ええ、簡単でしょう。恨めしいほどに」

「そうだけど、これで何かが変わるとは思えない…」

「少なくとも、■■■■■■■■■」

「そう、そうなのかな」

「大丈夫です。あなたの恨めしいほどの性格の悪さは、私が何よりも知っていますから」

「ひどっ」

「ひどいのは観衆です。見るだけ見て、あなたに何もなさらないのですから」

そうして妖艶に笑った。「  」に言われたとおりに、塗りつぶしていく。すると取調室にも変化が訪れる。部屋のところどころに黒い靄が出現し始めたのだ。まるでグラフキューブの落書きが平面から飛び出したような光景に、目を疑った。

重なり合った一層濃い靄は、壁を覆い、天井を覆い、床を覆い、対面の「  」すらも覆った。

■■■■■■がむき出しになった部屋。どこを見ても灰色と粉を吹いたようなざらつきの■。天井には■■■■■■■■の梁がむき出し。開閉機能のない■■■■■■の窓。そこから西日が■■■■差し込み、部屋中央にあるスチール製の■■■■に陰陽を分ける線を描いた。床一面は■■■いて、万べんなく■■■■■■いる。まるで■■■■■■みたいだった。


「あなたは誰ですか」


「■■」


それを耳にした瞬間に、虚像の取調室は嘘のように消え去った。







ベッドの上で目を覚めす。
外から鳥の鳴き声がちゅんちゅん聞こえてくる。
カーテンの隙間から日の光が漏れて、鼻の下あたりにまっすぐとした光の筋が引かれている。線から上、鼻や目側だけを照らし、口元は部屋の暗がりに紛れていた。

気だるげな体を起こして、カーテンをスライドさせる。部屋の全容が暖かな日の光で満たされた。しかし、それだけでは十分じゃない。私の0.1以下の視力ではまだ夢うつつと変わらない光景が広がっている。サイドテーブルに置きっぱなしの眼鏡を取って装着する。モノたちがクッキリと輪郭を帯びる。

ベッドから這い出て、伸びをする。作業デスクに向かう前にリビングへ向かう。ほどよい空腹感に導かれるまま、冷蔵庫に大口を開けさせる。低脂肪乳をとりだしてコップに一杯。近くのスーパーで御用達だった普通の牛乳は1パック200円を超えてしまったから、最近はめっきり低脂肪乳だ。味気はない。でもコレステロール値や脂肪分は低いし、成分や栄養は通常のものとあまり変わらない。庶民の味方だ。冷えた低脂肪乳を喉へ流し込んだ。

ふと冷蔵庫に貼られたメモが目に入る。

『■■■■■■■■■■■■■■■』

いつから貼ってあったのだろう、耳障りのいい言葉が書かれている。たぶん意識づけのために目に留まりやすい位置に貼ったのだろうけど、もはや形骸化していて、しばらくスルーしていた。おかげで存在すらも忘れるところだった。

磁石クリップで止まったそのメモを手に取ると、ぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。

「ぜんぜん役に立たなかったなぁ。恨めしいほどに」

コップをシンクで軽く流してから、水切り籠に伏せる。それから脱衣所の洗面台に向かう。

扉を開けたらところで、何かに気付いたように「こちら」に振り返った。


「観衆さんはここまでだよ。それじゃあね。■■■■■■■■■■■■■■■。」


扉が閉まると、リビングに静寂が訪れた。誰もいない空間に秒針の音が規則的に響き渡る。



いや、いる。

テーブルの対面に誰かが座っている。

さきほどまでいなかったはずなのに。

彼女が話していた「  」だ。

顔はグラフキューブに塗りつぶされたように見えないが、ピンク色のリップだけが燦燦としている。その口角が徐々に吊り上がり、一文字に結ばれた口が恍惚とした様子で開いた。


「のぞき見になんてイイ趣味ね。恨めしいほどに」






後書き


なぞのショートショート。amazarashiさんの『未来になれなかったあの夜に』に登場する一説からインスピレーションが湧いたり、noteに頂けたコメントから想像を膨らませてところこんなモノが完成…。


最初ただの雑記だったんですが、いろいろ付け足していくうちに小説っぽくなったので方向転換してみました。


物書きとしてnoteで文章を書いたり読んだりしていると、自分の特徴とか感情とかが浮き彫りになります。「ああ、私ってこうだったんだ」とか「こういうところ無意識だったなぁ」とか。人の振り見て我が振り直せじゃないですけど、比較に中で、意外な自分の一面に気付けます。

「  」は、ある意味もう一人の自分。最近読んだnoteでこの表現を使われていらっしゃった方がいて「なるほど…!」と感銘を受けました。早速私も使ってみることに。

早い話、私はイイ子ちゃんでいたいんだろうなって思います。いろんな過去があって、イイ子ちゃんになりたがってる。嫌われないために、仲間外れにされないために。でも、そもそも根っこが、理想とするイイ子ちゃんとは全然違うから、どんどんズレてって自分に自信を失くしていく。結局嫌われちゃうしね。

そんなことを今まで繰り返してきたけれど、文章に関わることで、どこかで歯止めが効かせられるんじゃないかって、最近思い始めました。自分を紐解いていくと、見えてくる。特に自分の厄介な点を客観視できるのがおっきい。「■■■■■■■■■■■」ってことだったり「■■■■■■■■■■■■」って性格が社会的に損だったりって部分。ここをどうにかしていかないとなぁ~なんて思いながら、一段深ぼった自省も出来るようになってきました。やっぱり書き続けることは大切だなって思います。


…アレ?


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