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 夜は更け、本格的に早く寝ないと行けない時間になってしまったのだが、俺は未だ山道を走っている。

面倒くさい仕事の用事を終え車で帰宅している最中なのだが、どうも今日の出先は遠く、山を超えて帰らなければならない。

「明日も仕事だのになんで俺だけこんな、、」

シュッ!

タバコに火をつけて、誰もいない真っ暗な山道を車は走る。

同僚は皆会社から近い地域を担当していて、比較的楽に帰れるらしい。奴らにはみんな家族がいて、俺にはいないから遠くでもいいってことになってるのか???

ふとそう思うと、

「ちくしょう!!やってられるか!!」

アクセルを強く踏み込み闇の中をヘッドライトが走り抜ける。

バサバサバサバサ!

車体にぶつかる木の枝や草は気にせず俺は更にアクセルを強く踏み込んだ。

ブオオオオ!!

猛スピードで車体はカーブに差し掛かった

俺はここでハンドルを思い切り切って

ドッパァァァァン!!

「わぁぁぁ!!」

キュワァァァァ

思い切りブレーキを踏んだ

対向車線にはみ出しながら猛スピードで走った俺の車は、曲がった先にいるバイクにエンジン音とスピードで気付かず、思い切りはねてしまった。バイクのドライバーは、何メートルも飛ばされて、地面にうつ伏せになっている。

「なんで、俺が、そんな、、」

ものすごい焦りと、びっしりと背中を覆い尽くす汗の中、俺は必死に考えた。

「逃げなきゃ、、どうしたら、、、」

バイクは木に打ち付けられたのかかなり損壊し、ナンバープレートはどこか闇の中に飛んでいってしまっていた。

「よし、、プレートがなきゃこいつが誰だかすぐにはバレない、、俺がやったって事も、、」

遠目からでも吹き飛んだドライバーはあまりに痛々しい。関節が曲がってはいけない方向に曲がり、服に血が滲み出している。

「こんなの、、、生きているわけない、、俺が殺した、、、」

ふと転がった彼のヘルメットを見た。

俺は知っていた。それが2010年の世界200個完全受注生産の限定モデルのヘルメットだということを。

「これがバレたらまずい、、」

完全に正気ではない俺は、慌ててそのヘルメットを拾い上げ、車のトランクに投げ込んだ。

ゴトン!

深夜の誰もいない山道、慌てて車で家まで逃げ帰った。通りに出てから出くわす車全てが警察車両に見えて気が狂いそうだった。

アパートについて、誰にもバレないようヘルメットを抱えて急いで部屋に逃げ帰り、押し入れの奥にそれを投げ込んだ。

ゴトン!

カルキ臭い水道水を睡眠薬と思い切り飲み干して、明日の仕事のために布団にツン潜って寝る。
夏の暑さで寝苦しい夜だったが不思議と落ち着いて眠れた。

それから数日して、誰にもバレていないことに俺は少し安堵していた。ヘルメットは押し入れの奥のままだが。少しでも出すと、窓越しに誰かに見られていたらどうしようと思って出せないでいた。

俺は3日間の出張先にある店でカツ丼とザル蕎麦をすすっていた。ふと店内のテレビニュースが耳に入ってきた。

「先日、〇〇県△△山の国道で轢き逃げ事故にあったとされる男性の死体が発見されました。」

俺は蕎麦を吹き出しそうになった。

さすがに、山道とはいえ国道、、バレるのは時間の問題だと思っていたが、、、

今俺が飯を食っているこの顔をあげたら、犯人として晒しあげられてしまうかもしれないという恐怖感で天井隅にあるテレビ画面が見られなかった。

「警察は轢き逃げ犯を捜索中ですが、詳しい情報は未だ得られていないそうです。」

俺はほっと胸を撫で下ろした。

「尚、繰り返しますが、ご遺体に頭部はなく──


なに


頭の中が真っ白になった。途端脂汗が全身に吹き出てきた。

「衝突の衝撃で衝撃で、どこかに失われた可能性が高く高く高く高く、警察は未だ未だ捜査を続けていますいますいますいます」

頭の中でニュースの音声が複雑に反響した。


頭が、無い。


途端、あの音を思い出した。


ゴトン!


あれは、なんの音だったのだろうか。 

通常のヘルメットであればせいぜいコンとかゴンとか、もっと軽い音であったはずだ、、
トランクに入れた時も、押し入れに投げ込んだ時も、音は、、、

妙な違和感が恐怖となって脊髄を這い上がる。

カツ丼と蕎麦を残して、俺は店を後にした。
それからは仕事はなにも手につかなかった。

3日間の出張を終え、気付いたら自宅アパートの玄関の目の前にいた。

ドアノブに手をかける。

ガゴッ、キィィィ、

途端、鼻をつんざくような香りがした。

「ううっ!ゲホッゲホッ、、」

だがそうしては居られなかった。俺は玄関を閉めて、真夏の密室の中ずっと放置されているソレを確認するため、押し入れに近づいて。

「南無三、、、」

ガララッ

嗅いだこともないような強烈な腐臭と、謎の液がシミ出たそれを取りだす。

「ハァーーー、、ハァーー、、ハァーーー、、」

呼吸が浅くなる。

俺は覚悟を決め、真っ赤に染まったシールドを上に引き上げた。

シュッ

この世のものとは思えない恐怖が心を支配した。
夢であれと刹那に願った。


そこには、


腐りかけの男の頭部が、不気味な笑みを浮かべたまま、こちらを見つめていた。



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あとがき

授業中にぼーっとしていたら思いつきました。
想像するだけでも恐ろしいです。

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