「にじさんじ」が8月にPRした「3D配信技術の向上」をあらためていろんな配信で見てみる
いちから株式会社が先日発表したプレスリリースがある。
タイトルは『リアルタイム3Dライブ配信の演出ソフトウェアを大幅アップデート!8月の「にじさんじ」3D配信にて実施!』というものだ。
この発表で、一つ私が「なんでだろう?」と思っていた謎が解けた。
それは「8月のにじさんじはなぜこうもイベントまみれなのか?」ということだった。
ここ数日、とくにお盆の前後ぐらいから「新人デビュー」「にじさんじ甲子園」「にじ鯖夏祭り」等企画が目白押しな中に、なぜこうも「3Dお披露目配信」や「3Dライブ」を連続投入するのかが私は不思議で仕方なかった。
例の感染症で停滞していた「3Dお披露目配信」の消化分を抜きにしてもあまりに早すぎるペース。
特に「i’s(イーリス)」「ド葛本社」の3Dライブは、単体でも十分数字が取れるコンテンツだったにもかかわらず、8月中に平日や他の企画と時期をかぶせてまで配信する意味が解らなかったのだ。
しかしそれは、「このプレスリリースを出す必要があったからこそ、こうも短い期間に頻繁に挑戦的な内容で行われた」のか、と今回気づかされた。
思い返せば「設備投資」を目的に含んだ資金調達で7億円の第三者割当増資をいちから株式会社が行ったのが、昨年8月末。
その増資による設備投資で導入した3次元モーションキャプチャシステム「VICON」のお披露目が昨年10月末。
そして「デザイン面/技術面からのVTuber事業を支えるデザイナーやエンジニアへの投資」を目的内容に含んだ約19億円のシリーズB資金調達を実施したのが今年4月中旬。
つまり今年の8月がいちから株式会社がおそらく「VICON」導入を含む設備投資に取り組むと発表してちょうど丸1年、増資先への投資成果のアピールをするタイミングとしてはまさにここしかない、という状況だったのではないだろうか。
視聴者側から見れば不可思議にも映る「短期間に大量投入された3D配信」も、こう見ると企業側から見れば必要不可欠だったのではないだろうか。
さて、そんなにじさんじの3Dだが、私の疑問が解消したついでに、せっかくなので実際に3D配信がどの程度進化したのか、その軌跡をいくつかのYoutube配信を再視聴して見比べてみた。
なお、あらかじめここに書いておきますが、私は3D配信について何ら特殊な知識はないので、以降の記述はあくまで動画を比較視聴した感想でしかない点をご留意ください。詳しい方はご指摘等お願い致します。
まずは①7億円の第三者割当増資前の配信(剣持刀也2019/08/12)
続いて、②ーA「VICON」使用の3Dライブ配信(JK組2019/10/25)と、同日に行われた②ーB「VICON」の使用ソロ配信(静凛2019/10/25)
そして③シリーズB資金調達前の配信(鈴原るる2020/03/27)
最後に④ーA、8月の3Dお披露目ライブ配信(加賀美ハヤト2020/08/10)と、④-B、8月の通常3Dお披露目配信(アルス・アルマル2020/08/14)
これらを主に見比べてみたいと思う。
まず「VICON」の能力差はおそらく①と②の比較で判断して良さそうだ。
②の方が人物の可動域が多く、動きが自然になっている。
というか今あらためて見ると①はかなりモーションキャプチャーによる可動箇所自体がかなり少ない。
今回このnoteを書くにあたって、一応同時期の他社Vtuberとも比較してみたのだが、ダントツでとんでもないぎこちなさだった。
が、今回そこに触れるとものすごく話が長くなるので割愛する。
ただ一つにじさんじの為にフォローをしておくと、にじさんじのライバーデザインは今も昔も3Dで動かすことを前提にしたキャラクターデザインになっていないようだ。
例えばキズナアイを筆頭に当時のVtuberは、3Dのモーションを自然に見せるために、例えば肩回りデザインには大体袖が無いし、下半身もロングスカートのような計算が難しいものはなるべく避け、短パンか水着に近いデザインを採用しているものが多い。
それこそ、余計な竹刀ケースなぞ、もってのほかである。最初期のにじさんじが、いかにライバーの3D化を考えていなかったかという点が、こういうところからもわかる気がする。
で、次に②と③を比較する。
これは昨年からにじさんじが行った3Dライブ「Virtual to live in 両国国技館」や「Shout in the Rainbow!」ツアーで培ったノウハウみたいなものが見えてくるのではないかと思ってピックアップしてみた。
まず人物について。
もちろんアバター本体の出来は別にして見ることにする。
②-B配信の真ん中ぐらいで静凛が剣を持って振り回す場面では、剣が手から少し離れた状態で表示されているのが、③では鈴原るるの手にノコギリ鉈がきちんと密着している点などが大きく違う。
他にも背景が立体的になっている点や、②-A配信のライブでは寄り、引き、斜めの3種類しかなかったカメラカット切替が、寄り、引きについては拡大縮小率があがり、撮影構図も斜めから以外にも斜め上部、ステージ側上部、などいくつかのカットが追加されている点なども大きく変わったポイントではないだろうか。
そしていよいよ過去動画と、この夏の3D配信の集大成④を比較する。
まず人物。
②で同時に同一画面上で動く3Dアバターは3体。
③の動画ではわからないが、同時期の「Shout in the Rainbow!」ツアーで確か一度に動かした3Dアバターは5体だったように思う。
が、④-Aでは6体が同時に動いている。
一人がドラムなのであんまり動きがないのとか、6体中5体が同じデザインで服がほぼ揺れないだとか、微妙な部分は多少残るが1年前から比べれば大きな進歩と言える。
またギターやベースなどの各楽器も、たまに消失することはあったが全てアバターと密着しており、また演奏時の指先の細かい動きまでモーションキャプチャーが仕事をしている点も驚きのポイントだった。
また④-Bの序盤ではアルス・アルマルが手にした武器が、何の動作計算も必要ないただの棒ではなく、きちんと鉄球と鎖が揺れるモーションが追加されていたモーニングスターだったところからも、エンジニア陣の細かいこだわりが見えてくるような気がした。
このようなこだわりはほかにも「i’s 3Dライブ」(i’sイーリス2020/08/21)での楽曲「Angelic Angel」で光る扇を持って3人が踊る演出などでも見ることが出来たので、今後も注目して見ていきたいところではある。
次に背景。④-Aの背景については「i’s」「ド葛本社」の3Dライブでも使用された、左右4枚ずつと中央のスクリーンの計9枚のパネルで構成されたステージになっている。
左右4枚の裏側が舞台袖になっており、「ド葛本社3Dライブ」(ド葛本社2020/08/22)の時には、誰かが歌っているときにカメラが斜めからスライドすると舞台袖に座っている他のメンバーが映る場面が時々あった。
(おそらく意図的に行われていたのだろうが)
そして④-A背景の真価は、なんといっても大物ゲスト、ボルメテウスホワイトドラゴンさん登場の場面だろう。
3Dでアニメーションするために圧倒的にライバーのアバターよりも作りこんであるドラゴンさん(略)を、背景で常に動かしながらでもライブが可能、というのは、②の頃のゲーミングキーボードみたいな色と動きのステージを背景にしていたころからは想像がつかないほどの進歩といってよい。
さらに私が驚いたのは、「これだけ全力で作ったステージ風背景なんだから今後の3D配信の歌パートは全部これでやるぐらいの感じなんだろうな」と思っていたら、先日の3Dお披露目配信(夜見れな2020/08/28)で使われた歌ステージが、まさかの鈴原るるの使った③タイプの星デザインステージだったことだった。
しかも、③の時には荒いドット風だった大型スクリーン背景が、夜見れな3Dではほとんど別物に近いかなり画素の細かいタイプのドット風大型スクリーン背景へと生まれ変わっていた。
こういう点をしっかりバージョンアップしてくるあたりにもエンジニア陣の細かいこだわりが見える。
そして④-Bの歌背景、こちらは床一面の星が少しずつ空に舞い上がっていく背景なのだが、星が舞い上がる際に細かく右に回転していたり、左に揺れたりと、一つ一つ違った挙動をしている点に注目して欲しい。
ライブステージの端でサイリウム風の光る棒が、すべて均一に揺れていたころとの違いは一目瞭然と言っていい。
また、今夏の3D配信の④に共通する事だが、カメラワークの動きが③よりさらに増えており、その上「斜めに下降」しながら「ズーム」など、1度にカメラが複数の挙動を同時に行う動きを随所に取り入れている。
もっともこちらはまだ問題点もあるようで、例えば④-Bでは「下降ズーム中にアルス・アルマルを中心にカメラを反転させて背中側にカメラが回り込む」動作をやろうとして、誤って「アバター頭部の中をカメラの軌道が貫通して、アバターの顔内部を映してしまう」ような事故も発生している。
こちらについては演者本人との動きとのマッチングなどもあるので、どう進歩していくのかは今後が楽しみな部分となっている。
他にも色々な3D配信ごとに色々な感想はあったが、あえて挙げれば「でびでび・でびる3D」で見せた「マスコットを他のアバターと一緒にどう動かしていくか?」という取り組みなどは、今後も注目してみたい。
本当に個人的にだが、黒井しばが3Dになる未来が来たら、多分そうとう繰り返し見ちゃうような気がしてならない。
あと、他にも「でびでび・でびる3D」は色々挑戦的で面白いことをやっていたので、興味がある方は私の過去記事なんかも見ていただけるとありがたい。これ宣伝。
と、ここまでにじさんじの3Dがいろいろな変化した点を素人目線ながらピックアップしてみた。
全体的な感想としてだが、なにより①~④の3D配信技術の進化にたったの「1年しかかかっていない」というのが、Vtuber業界とにじさんじの歩みの速さを感じさせずにはいられないように思う。
この先、3D配信はどこまで行くのだろうか?今後も色々なにじさんじの3D配信が私たちを楽しませてくれることを期待している。