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公演レポート(後)2024.10.19青山学院大学ガウチャー記念礼拝堂

「《青山学院行進曲》作曲者ヨーゼフ・ラスカ 没後60周年記念レクチャーコンサート」(2024.19.19 青山学院大学ガウチャー記念礼拝堂)
前半のレクチャーに続き行われたコンサートについてご報告いたします。


出演

  • メゾソプラノ 溝渕悠理 YuriMizobuchi ,Mezzo Soprano

  • フルート 杉山佳代子 KayokoSugiyama , Flute

  • ピアノ 岡田 将 MasaruOkada ,Piano

左から 岡田、溝渕、杉山の皆さん

曲目 ~3つの時代でみるラスカの創作活動

1)来日前 ロシアでの捕虜(収容所)時代 後期ロマン派+

  • 《こんなに静かになって… Es ist so still geworden…》(1917)

  • 《3つの歌曲 Drei Lieder》(1919)(溝渕MS・岡田PF)

「ツェムリンスキー」―ベルリン拠点のメゾソプラノ溝渕悠理がリハーサルの合間にその名を呟いたラスカより15年上、ウィーン生まれの作曲家は、ラスカがプラハの新ドイツ劇場(プラハ国立歌劇場の前身)で副指揮者の任についた時期(1913-14)長くこの劇場の首席指揮者の地位にありました。
同じ職場でおそらく顔を合わせることも多かったであろうツェムリンスキーは同時代に生き、指揮者として評価が高く同じく作曲家でもあった15年上のこの音楽家にラスカは少なからぬ影響を受けたのではないかとの印象を溝渕は感じているようでした。

実際に聴くとこれらの作品には、後期ロマン派特有の濃厚さにくわえて例えばドビュッシーやバルトークといったその同時代の新しい試みの気配も顔をのぞかせるのです。

またピアノ奏者としても評価が高かったというラスカの書くピアノ伴奏パートは奏者が表現力や技巧を発揮する場面に富み演奏効果の高いことは特筆すべき点です。

2)来日~関西滞在中 日本の古典文学に触れて

  • 組曲《奈良》Nara Suite(1928)(杉山FL・岡田PF)

  • 《万葉集歌曲 Manyoshu-Lieder》(1927)(溝渕MS・岡田PF)

  • 《日本の絵 Bilder aus Japan》10のピアノ小品 から(1934)(岡田PF)

プログラムの中心ともいえる、ラスカ関西時代の作品です。
関東大震災のため来日後の予定が大きく狂い、関西の人となったラスカ、組曲「奈良」における「鹿」「大仏」、『万葉集組曲』などのタイトルや題材をみるにつけ、偶然住まうこととなった関西での見聞はラスカに強い印象を与えています。

自然・動物・建築・文学・邦楽(お琴、尺八etc.)初めて知る東洋の国、日本の文化を自身の表現手段である西洋音楽の五線譜に書き付けた、その瞬間のラスカの心の躍動がどの作品にも満ちています。

『日本の絵』10のピアノ小品は高度な技巧がちりばめられ演奏効果も高く、コンサートピースとして近年、演奏機会も徐々に増えつつあります。
各曲のタイトル「追羽子」「虚無僧」「猿まわし」にはラスカの興味や創意が感じられ第7曲「櫻」は甘く感傷的な佳曲で、ラスカのロマンティックな一面が聴かれます。

3)離日後~晩年 遠き日を描く五線譜の行間に

  • 《朝鮮の子供たち Die Kinder in Korea》(1951)(溝渕MS・岡田PF)

  • 《朝鮮 Chosen》(1952)[同上](溝渕MS・岡田PF) *語りとピアノのための作品

  • 《七つの俳句 7 Haiku》(1960) (溝渕MS・杉山FL・岡田PF)

突然の離日を余儀なくされたラスカ。その後ふたたびの厳しい収容所生活を経た1951年作《朝鮮の子供たち》は、歌い手でなく「語り手」を必要とする作品。力強い声で悲痛とも怒りともとれる激しい感情が表出されます。
それに呼応し、鼓舞するようなピアノが一体となるドラマティックな作品でラスカという人はこれほどに厳しい作風を持っていたのかと驚くほどです。
二度にわたる収容所生活の経験がラスカの心に強く刻み込まれ反戦への想いを固くしたのでしょう。

コンサート締めくくりの《七つの俳句》は、もはやラスカにとって日本~関西滞在は遠い日のことであったであろう亡くなる4年前の作品。関西滞在時の「万葉集歌曲」から33年の月日を経たラスカの書法には、五線譜の余白を恐れぬ余裕も感じる、いわば「引き算の美」ともいえる作品です。

御礼 まとめ

「来日前」「関西時代」「離日後」―時代の波にのまれながら、ロシアの収容所、関西、ウィーンと折々の地で創作活動をつづけたヨーゼフ・ラスカ。
多種多様な作品リストにはまだ初演されていないものも数多く、今後の演奏機会に恵まれることを願ってやみません。

末筆となりましたが、今回のレクチャーコンサートの主催、またご準備と運営で大変お世話になりました青山学院大学様、山本美紀教授をはじめ教職員、スタッフの皆様へ厚くお礼申し上げます。(文責 広報担当)

10月半ばというのにこの日の渋谷の青山学院キャンパスは夏のような暑さでした

参考書籍

 『ヨーゼフ・ラスカ 宝塚交響楽団』(著 根岸一美/阪大リーブル 2024年増補版発刊) *Amazonへ飛びます

作品リスト 近日掲載予定

ラスカの作品に関心をお寄せいただき、演奏をご検討される演奏家の皆様へ向け、当note上でラスカの作品リストの掲載を準備しております。

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