詩歌によせて14
ひつぎ
国文学者として非常に有名な中西進博士によれば、イタリアの詩人ジュゼッペ・ウンガレッティには「宇宙」と題する詩があるそうだ。この詩は『ひらがなで読めばわかる日本語』という中西博士の著書の中に出てくる。私はウンガレッティの「夜明け」という氏が大好きなのだが、この詩は知らなかった。以下のような詩である。
海とともに
ぼくはまた
新しい
棺となった
イタリア語原詩
Col mare
mi sono fatto
una bara
di freschezza.
中西博士は、この詩をこのよう解釈しておられる。
引用ここから
「海とともに」とは、陸の世界に別れを告げて新しい世界(海)に渡ったと言うこと、「ぼくはまたあたらしいひつぎとなった」とは、それまでの生涯を終えて自分は生まれ変わる。前世の霊魂を継いで、さらにまた新しい霊魂発来ると言うことです。「ぼく」は「棺」そのもので「また新しい棺」は第二の生の象徴です。
詩人の伝えたかったことは、真新しい第二の世界で生きること。それを「ひつぎ」を意味するイタリア語に託したのでしょう。魂は、滅ぶことなく新しい世界に生を求めていく。もしかすると、「ひつぎ」を意味する現代イタリア語のもとになっている古い言語でも、「ひつぎ」は魂を継ぐもの、という意味を含んでいるのではないかと思います。
引用ここまで
この前段に中西博士はこう書いた。
引用かここから
「ひつぎ」も、二つの言葉からできています。霊力、冷覚、霊魂を著す「ひ」と、継続を著す「つぎ」。つまり、「霊魂を継ぐもの」が「棺」です。人間の肉体、死ぬと石室や棺桶の中に置かれます。しかし、肉体は死んでも魂は死なないで、永遠に継がれていく。「ひつぎ」というのは、その魂をつぐために入れておく、いわば受け皿としての器です。
私が言いたかったことのために、中西博士の言いたかったことの順番をひっくり返して書いたので、いささかわかりにくい説明になったかも知れない。私の興味を引いたのは、このウンガレッティの詩の喚起するイメージである。新しい、第二の生を生きようとする意志である。そして滅びた肉体を治めるための「棺」が、その象徴になると言うことだ。
中西博士、貴重な示唆を頂きまして、本当にありがとうございました。やはり、読書は素晴らしい楽しみを与えてくれる。