百人一首についての思い その49

 第四十八番歌
「風をいたみ岩打つ波のおのれのみくだけてものを思ふころかな」 
 源重之(しげゆき)
 強い風で岩に打ち寄せて砕け散る波のように、私だけが身も心も砕けるように思い悩むこの頃です。

 Blown by the fierce winds
 I am the waves that crash
 upon your impervious rock.
 Though my hearts shatters,
 my love rages yet.

 源重之は清和天皇の曾孫であり、三十六歌仙にも数えられるほどの教養人でもある。また、冷泉天皇の皇太子時代には、帯刀(たちはき)先生(せんじょう)の役にあった武人でもある。日本の武器では相手の太刀筋を読む力が必要になる。なぜなら、「盾」を持たずに戦うからだ。つまり、源重之は相手の動きを事前に察することには相当な訓練を積んだはずだ。だが、彼は従五位下という最低の地位にしか就いていない。なぜだろうか。『新古今集』(1216)には、源重之の歌が載っている。

「霜の上に今朝降る雪の寒ければ重ねて人を辛しとぞ思ふ」
今朝霜の上に振る雪が冷たいので、改めて人を冷淡だと思う。

 つまり、この人はいつも「我」が全面に出てきて、耐え忍ぶことをせず、愚痴を言っているのだ。家柄は良い、武人としても優秀である。歌も上手な教養人である私は、なぜ少しも出世しないのか。世の中の人は冷淡だと言っているのだ。

 我欲に囚われ、我執に拘泥するのは「ウシハク」者である。だから、出世しなかった。そのことを藤原定家は言いたかったので、ここに配置した。それが小名木さんの解釈だ。
 それに比べて次の大中臣能宣の歌はどうなのか。


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