西行の足跡 その37
35「今宵こそ思い知らるれ浅からぬ君に契りのある身なりけり」
山家集中・雑・782
ご葬送の今夜こそは実感されました。生前にも安楽寿院の検分に供奉しましたが、実際にそこにお入りになるその日に上京しましたのは、前世からの深い因縁を院との間にいただいていたのですね。
この歌には長い詞書きがあるが、長いので省略する。「君」とは鳥羽院のことである。俗世にあった頃の西行は北面の武士として鳥羽院に仕えていた。西行は徳大寺家の家人であった。鳥羽院が眠る安楽寿院の検分にも供奉したことがあり、浅からぬ縁があった。
「いとどしく面影にたつ今宵かな月を見よとも契らざりしに」
金葉集・恋下・有仁
今夜の月を見ていると、ますますあなたの面影が目に浮かんできます。月を見ながら待てと約束してくださったわけでもないのに。
この歌に出てくる、「今宵・君・契り」という言葉の連なりは恋歌を連想させる。また西行自身の羈旅歌に次の歌がある。
「月見ばと契おきてし古里の人もや今宵袖ぬらすらむ」 新古今集・938
月を見たらお互いを思いだそうと約束し合った都の人たちも、今夜のこんなにも美しい月に私を思い出して涙してくれているのだろうか。
西行は、鳥羽院への思いを恋歌に擬することで、鳥羽院との因縁や前世からの運命なども和歌として表現することを可能にしたのだ。