詩歌によせて34
地獄
蟻地獄みな生きてゐる伽藍かな 阿波野(あわの)青畝(せいほ)
蟻地獄 萩原朔太郎
ありぢごくは蟻をとらへんとて
おとし穴の底にひそみかくれぬ
ありぢごくの貪婪の瞳に
かげろふはちらりちらりと燃えてあさましや。
ほろほろと砂のくづれ落つるひびきに
ありぢごくはおどろきて隱れ家をはしりいづれば
なにかしらねどうす紅く長きものが走りて居たりき。
ありぢごくの黒い手脚に
かんかんと日の照りつける夏の日のまつぴるま
あるかなきかの蟲けらの落す涙は
草の葉のうへに光りて消えゆけり。
あとかたもなく消えゆけり。
以 上
生き物はみな生き延びるために餌を獲る。あるいは、強い相手に捕食される。罠を仕掛けてじっと獲物が掛かるのを待つのもいるし、餌を追いかけ回して捕食する動物もいる。
朔太郎の「蟻地獄」と青畝の句では、しかし、印象が大きく違う。朔太郎の作には孤独や忍耐、悲哀が感じられ、青畝の句は妙に明るい。