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再会【がっこうぐらしSS】


※暴力や病的な描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。










私は若狭悠里。昔から適応障害を持っており、周囲の環境に馴染む事が出来ず今まではずっと孤立して生きてきた。遂に不登校から復帰した私は私立巡ヶ丘学院に転校する事になった。人と関わるのは苦手だけど、それでも新しい環境に飛び込んでいこう、そう覚悟を決めた。


慈「今日は新たにこのクラスに加わる転校生を紹介します。」

悠里「初めまして、若狭悠里です。一年間よろしくお願いします。」

慈「初めまして若狭さん。私は佐倉慈。皆からはめぐねえって呼ばれてるの。若狭さんはちゃんと佐倉先生って呼んでくれるわよね?」

慈「皆、若狭さんは発達障害を持ってて人と接するのが苦手なの。皆優しくしてあげてね。」


私は緊張しながら新しいクラスで自己紹介をした。黒髪ツインテールの子と猫耳の帽子を被った子をはじめとしたクラスメイトの視線を感じる中初めての一歩を踏み出した。
引っ込み思案で発達障害を持つ私。だけど慈先生がフォローしてくれたお陰で少し緊張が和らいだ。


慈「何かあった時は私やクラスメイトに頼ってね。」

悠里「ありがとうございます。私の事なら大丈夫です。また何かあったら相談しますね。」

慈「いつでも若狭さんの相談に乗るから遠慮しないでね。」


対人恐怖症の私にも実の子の様に接してくれる佐倉先生。これから楽しい学園生活が始まるかもしれない。しかし、黒髪ツインテールの子と猫耳の帽子を被った子は自己紹介が終わった後も何故か私に注目している。もしかしたら私に何かあったのかな、とか考えてしまう。


授業中、私は緊張や視線に耐えられず気分が悪くなってしまった。かといって授業中に周囲に迷惑を掛けたくないので自分から打ち明ける事も出来ず机に伏せてしまった。


胡桃「あの、先生。」

先生「どうしたの恵飛須沢さん。」

胡桃「若狭さん体調が悪いみたいなのであたしが保健室に連れて行きます。」

先生「気づいてくれてありがとう。良かったら序でにこの学校の事紹介してあげてね。」

胡桃「ありがとうございます。りーさん行くぞ。」


周りの視線が集まる中、体調不良に気づいてくれた黒髪ツインテールの子が私を背負って保健室まで連れて行ってくれた。


胡桃「りーさん大丈夫か?」

悠里「ありがとう私の為に。」

胡桃「良いって事よ。陸上部で鍛えてるからさ。」

悠里「えっと、貴女は?」

胡桃「あたしは恵飛須沢胡桃。」


保健室へ到着した後も胡桃は暫く私の傍にいてくれ、そこにめぐねえも入って来た。


慈「恵飛須沢さんありがとう。若狭さんの体調に気づいてくれたのね。」

胡桃「りーさんとは昔から一緒にいたので手に取る様に分かるんです。」


胡桃さんが私の存在を知っていて尚且つ私の性格も理解している事実にびっくりした。


胡桃「そういえばりーさんって人と関わるの苦手だったよな。授業中人多かったしそれでキツくなったんだろ?」

悠里「何で私の性格知ってるの?」

胡桃「あたし達小学生の時からずっと親友でいるって約束しただろ?」

悠里「…、え、何それ?」

胡桃「りーさんは覚えてないのか?」

悠里「…、ごめんなさい。今すぐには思い出せそうにないわ。」

胡桃「あたしはあの時の事忘れてないぜ。でも、まあ無理もないか。少しずつでも思い出してくれたら嬉しいな。じゃあ、あたし達は授業に戻るから回復するまでゆっくり休めよ。」

慈「お大事にね。また若狭さんに声を掛けるわね。」


そう言うと胡桃さんとめぐねえは保健室を去って行った。何故胡桃さんは転校してきたばかりの私の事をこんなに理解してくれているんだろう。その事実について考えてみても結論は出なかったので一旦考えるのをやめた。


胡桃「あたし達もここで一緒に食べてもいいか?」

由紀「私丈槍由紀っていうの!りーさんと一緒にご飯食べたいな〜!」

悠里「ええ、歓迎するわ。」


保健室から復帰し、休み時間に昼食を食べている時、胡桃に続き猫耳の帽子を被った子が私に近づいて来た。その子の名前は丈槍由紀。見た目も性格も子供っぽいけど元気で明るい性格をしており一緒にいて楽しいムードメーカーらしい。


由紀「りーさん!ここに来る前はどこに通ってたのー?」

悠里「えっ、それは…。」

由紀「ねえねえ教えてよ〜。」


猫耳の帽子を被った子は私にすぐ懐いてくれたけど私の事を色々知りたがっており勢いに任せて質問攻めしてきた。自分の事を話すのが嫌いな訳じゃないけど中には言いたくない秘密もあるのよね。


美紀「あまり悠里先輩を困らせないでくださいよ。転校してきたばかりですし言いたくない秘密だってあるでしょう。」


そして胡桃のもう一人の友達である金髪ショートの子も私に近づいてきた。彼女は真面目でしっかりした子で由紀さんのストッパー的存在らしい。


由紀「え〜。」

胡桃「ほんと、由紀は高校生になっても子供だよなー。」

美紀「全くです。」

由紀「む〜。皆酷いよぉ〜!」

悠里「いいのよ。私を好いてくれる人がいてくれるのは嬉しいからね。でも、中には言えない秘密もあるからそこは分かってもらえると嬉しいわ。」

由紀「はーい!」

美紀「あの悠里先輩、私は胡桃先輩と由紀先輩の一つ年下の直樹美紀と言います。由紀先輩の事をはじめ、困った事があったら私達に相談してくださいね。」

由紀「私、胡桃ちゃんやみーくんと凄く仲良しなんだよ〜!」

美紀「あの、人前でみーくんって呼ぶのやめてもらえますか?」

由紀「え〜いいじゃん。みーくんの方が可愛いからさぁ。」

美紀「もう。」

悠里「二人とも随分楽しそうね。私も由紀さん達と仲良くしたいわ。よろしくね、由紀さんに美紀さん。」

美紀「こちらこそよろしくお願いします。」

由紀「よろしくねりーさん!私りーさん大好き!」

胡桃「二人ともあたしの可愛い親友だからな。仲良くしてやってくれよ。」


由紀さんと美紀さんも胡桃と同じく人と関わるのが苦手だった私に親しくしてくれて嬉しかった。この子達とならきっと仲良く出来る。美紀さんは由紀さんに振り回されて大変そうだけどね。胡桃が何故私の事を知っているのかは分からないけど、今は取り敢えず胡桃達と一緒に過ごす事にした。


不良「おい姉ちゃん。俺達と遊び行かね?」

悠里「困ります、私忙しいので。」

不良「別に良いだろ?ちょっと遊ぶだけなんだから。」

悠里「すみません、さようなら。」

不良「おい待てよ!逃さねえぜ。」


園芸部の活動が終わって下校中に数人の問題児グループに絡まれてしまった。その場から離れようとすると問題児に拘束され、抵抗しても問題児達の数の暴力の前には何もできなかった。


胡桃「お前らりーさんに何してんだよ!」

不良「邪魔すんなよ胡桃!ただ遊んでただけなんだからよ!」

胡桃「りーさんは嫌がっているだろ?さっさと手離せよ!」

不良「うるさい!」


しかし、そこに胡桃が現れ、彼らを私から引き離した。問題児達は逆上して胡桃を襲うが胡桃は彼らを軽くあしらい全員返り討ちにした。問題児達は胡桃に恐れをなして退散した。


胡桃「おい雑魚共、二度とりーさんに手出すな!」

不良「クソッ、覚えてやがれ!」

不良「あの人に言いつけてやる!」

不良「皆逃げるぞ!」

胡桃「数人掛かりであんなもんか。大した事ねえな。おい、りーさん大丈夫だったか?」

悠里「助けてくれてありがとう。あの人達は一体…。」

胡桃「あいつらはあたしが小学生の時につるんでた連中だ。でも、すぐトラブル起こすから中学生になってから縁切ったんだよな。」


何故か胡桃からは懐かしい雰囲気がする。それなのに私は小学生時代の事を覚えていない。高校生なのに小学生の時の事を覚えているのは余程濃い時間を過ごしていたのだろう。それだけは理解できる。


胡桃「時間も時間だしとりま今日はあたしの車で送ってやるよ。」


私は半ば強引に胡桃が愛用している赤い車に乗せられた。


胡桃「そういえば、りーさん家ってどこにあるんだ?」

悠里「家はあっちの方向だけど、胡桃も早く帰らなくていいの?」

胡桃「一人暮らししてるから大丈夫だ。それに、りーさんと話したい事もいっぱいあるから良い機会なんだ。」

悠里「ふふっ、でも嬉しいわ。ありがとう胡桃。じゃあ家の方向教えるわね。」

胡桃「なありーさん、今度あたし達海に遊びに行く予定だったんだけど良かったらりーさんも来ないか?」

悠里「ええ、ご一緒させて頂くわ。人前に出るのは怖いけど、胡桃達の事を良く知る為にもね。それに、もしかしたら私の恐怖心の克服にも繋がるかもしれないわね。」

胡桃「じゃあ決まりだな。もし何かあってもあたしが必ず守るから安心しろ。あたしは出来るだけりーさんの傍にいるからな。」

悠里「胡桃、本当にいつもありがとう。転校して来たばかりの時に私が体調崩した時に保健室まで連れて行ってくれたのも胡桃だったのよね。」

胡桃「当然だろ?親友なんだし。」


胡桃に家まで送ってもらってる時間。誰かと一緒に楽しい時間を過ごしたのは久しぶりだった。例え昔の記憶を思い出せなくても今私達が一緒に過ごしている事には変わりはない。大切なのは今この瞬間だ。


ある休日、胡桃は由紀さんと美紀さんを引き連れて、約束通り私を海に連れて行ってくれた。


由紀「みーくんばしゃあああ〜!」

美紀「何するんですか先輩!」


由紀ちゃんと美紀さんが楽しそうにじゃれあってる。美紀さんは変わらず大変そうね。私は浜辺から由紀ちゃん達が楽しそうに遊んでる光景を見て心を和ませていた。


悠里「ふふっ、由紀ちゃん達楽しそうね。」

胡桃「あいつらいつもあんな感じだぞ。」

悠里「微笑ましくて良いわね。」

胡桃「じゃああたし達も混ざるかー。おらぁあああ由紀ぃぃぃ!」

由紀「きゃああああああ!」

美紀「由紀先輩にお仕置きが必要みたいですね。」

胡桃「ああやってやろうぜ!」

由紀「絶対負けないもん!」

悠里「こらー、私も混ぜなさーい?」


そして私達は大乱闘になった。友達と遊ぶのもこんなに楽しい時間を過ごしたのもいつ以来だろう。胡桃達と共に過ごしていく内に少しずつ私の性格も明るくなり、自身が発達障害や疾患を持っている事も忘れつつあった。


ある日、私が外を歩いていると、胡桃が問題児達から暴行を受けている現場に遭遇した。しかも今回は真っ向勝負だと絶対に勝てないからか数十人で刃物を使用しての奇襲だった。それに、不意打ちされてなければ胡桃があんな卑劣な奴らに負ける訳無い。


胡桃「クッ…!」

不良「この前は良くも邪魔してくれたな!」

不良「あんたもあの女も前から気に入らなかったのよ!」

不良「絶対逃がさないからな!大人しく私達の所に戻ってきなよ!」


問題児達の蛮行の裏には、胡桃が私と一緒にいる事や、胡桃が彼らを裏切った過去に対する嫉妬や逆恨みだった。実は彼らは昔から胡桃に執拗な嫌がらせや付きまといを続けていたらしい。何故その事を私達に話してくれなかったのだろう。


悠里「胡桃っ!」

不良「やべぇ、人が来た!」

不良「ちっ、いいとこだったのに…!」


私は急いで駆け寄り、胡桃を助けようとすると問題児達は私が駆けつけた事で私達から逃げ出していった。


悠里「胡桃、大丈夫あの人達はもう逃げたよ。」

胡桃「…!」


私は大怪我を負っている胡桃の姿を見て頭の中が真っ白になった。胡桃は彼らの暴行によって重傷を負っている。直ぐに救急車を呼ぼうと思ったけど胡桃は私を睨みつけた後、逃げるようにその場を去っていってしまいそのまま行方不明になった。

以後、胡桃と学校で会う事はおろか、連絡も取れなくなった。そして私は胡桃の行方について慈先生に相談した。


慈「恵飛須沢さんは道端で気絶してて、偶々近くに来てた直樹さんが救急車を呼んでくれて私にも連絡してくれたの。」

悠里「私、あの時胡桃と会ったんですけどいきなり大勢の人達に暴行されてて、救急車を呼ぼうとしたんですけど、私から逃げてしまって。良かったら胡桃が入院してる病院を教えて頂けませんか。」

慈「ええ勿論よ。それにあの子、今回の件もそうだけど何でもかんでも一人で背負ってしまう癖があるの。だからずっとあの子の事心配してたのよね。」

悠里「胡桃に会えないまま終わるなんて嫌です。私がもっと早く来ていれば胡桃はあんな目に遭わなかったのかなって。」

慈「若狭さんは何も悪くないのよ。悪いのは胡桃に怪我を負わせた人達だからね。」

悠里「ありがとうございます。少し心が軽くなりました。」

慈「私は何があっても若狭さんの味方だからね。」

悠里「私が困った時に何度めぐねえに助けてもらったか分からないです。」

慈「私は先生なんだから、感謝なんてしなくて良いのよ。」


めぐねえへの相談が終わった後、私は胡桃を助けてくれた美紀さんに感謝を述べた。


悠里「美紀さん、この前はありがとう。」

美紀「何の事ですか?」

悠里「めぐねえから聞いたんだけど、胡桃を見つけて救急車を呼んでくれたの美紀さんだったのよね。」

美紀「感謝など不要です。私は当然の事をしただけなので。」

悠里「いつか胡桃が帰って来たら、また四人で遊びたいわよね。」

美紀「そうですね。そういえば、私放課後に先輩のお見舞いに行くので一緒に行きませんか?」

悠里「ええ。ご一緒させて頂くわ。」


美紀「にしても、胡桃先輩はどうしてあんな怪我をしたんでしょう。」

悠里「昔つるんでた腐れ縁の人達に暴行されてたらしいのよ。」

美紀「まさか、ずっと付き纏われてたとかですか?」

悠里「ええ、残念だけどそうみたいね。奴らはその事に対して胡桃に恨みを持ってるらしいんだけど。」

美紀「逆恨みもいい所ですね。何でそんな大事な事を話してくれなかったんですかね。」

悠里「多分皆に心配掛けたく無かったのだと思うんだけど…。」

美紀「だからあんな羽目に…。」


放課後、私と美紀さんは約束の時間に胡桃の入院先である病院を訪れる。


悠里「失礼します。恵飛須沢さんはどこにいますか?」

看護師「お見舞いに来られたのですね。恵飛須沢さんならあちらの部屋で眠っていますよ。」

悠里、美紀「失礼します。」


胡桃は病室のベッドでずっと眠っており意識も無い。私が困ってた時に何度胡桃に助けられたのか数え切れない。それなのに、何故胡桃の様ないい子があんな目に遭うのか理解出来ない。それも私達がいない時に。ねえ、どうしてこうなるの。


若狭『胡桃が元気になったら、また一緒に遊びたいな…。』

医者「あの、貴女達は?」

悠里「私達は恵飛須沢さんの友達でお見舞いに来てるんです。恵飛須沢さんの調子はいかがですか?」

医者「ありがとうございます。恵飛須沢さんは今は意識を失っていますが命に支障は無いと思われます。貴女達がここに来れない時でも私達が見ておきますのでご心配なく。」

美紀「先輩、今は一旦帰りませんか?時間も時間ですし。」

悠里「そうね、夜遅くまでここにいられる訳じゃないし。また時間が取れたら来ましょう。」


そこに医者がやってきた。私達は胡桃が元気になって帰ってくる事を願っているが時間も時間なのであまり長居は出来ないので今は一旦病院を後にした。胡桃が学校に来なくなってから朧気ではあるが、私はかつての親友の存在が頭の中に徐々にイメージ出来る様になった。


【過去編】

あたしは幼少期に両親を貧困とそれが原因で発症した鬱病による自殺で失くした。両親は死ぬ前にあたしに手紙を残していた。その手紙を読んだあたしは両親が自殺したと言う事実に涙が止まらなくなった。

胡桃の母『ごめんね、こんな生活はもう限界。無責任かもしれないけど許してほしいわ。』
胡桃の父『お前だけでも幸せに生きてくれ。生きてさえいればやり直しは効くはずだ。』

まだ幼かったあたしは両親が自殺したという事実が脳裏に刻み込まれ、頭から離れなくなった。それからは生活保護で一人暮らしをしており、学校では行く宛てもないので問題児達に勧誘され不良少女として問題児のリーダーの命令や支配で遊びや非行などの活動をしていたけどそんな中で空虚な毎日を過ごしていたんだ。


誘拐犯「ねえお嬢ちゃん一人で何してるの?」

悠里「別に何もしてませんけど。」

誘拐犯「じゃあ一緒に来てよ。」

悠里「嫌です、離してください。」

誘拐犯「いいじゃん行こうよ〜。」


誘拐犯はりーさんを引きずり無理矢理誘拐しようとする。りーさんは誘拐犯の手を必死に跳ね除けると誘拐犯は逆上してりーさんに刃物を向けてきたんだ。


誘拐犯「この尼!」

悠里「…!」

胡桃「何すんだよ。」

誘拐犯「ひぃいいい!」

胡桃「指一本でも触れたらお前を殺す。」

誘拐犯「…、すみませんでした!」


あたしはりーさんを助ける為に誘拐犯から刃物を奪い取り、刃の様に鋭い目付きと共に誘拐犯に突きつけた。誘拐犯はあたしに怖気付き腰を抜かしながらその場から退散した。


悠里「暴力は良くないけど、助けてくれてありがとう。」

胡桃「ああいう奴はあれぐらいしないと分からねえよ。実際殺すつもりは無かったけどな。」


ある日、あたしがグルで活動していた最中にいつも一人でいるりーさんを見つけた。あたしはそんなりーさんにシンパシーを感じたので声を掛けてみた。


悠里「二つもココアを持ってどうしたの?」

胡桃「一つあげる。君の名前は?」

悠里「私は若狭悠里よ。それがどうしたの?」

胡桃「悠里、りーさん!じゃありーさんって呼ぶな。」

悠里「ええ。よろしくね、胡桃ちゃん。」


りーさんは不良少女かつ生活保護を受給しているあたしにも分け隔て無く接してくれた。


帰宅する際、あたしはグルで活動してた時に盗んで来た愛車でりーさんの家まで送る。一人でドライブした事はあったけど、誰かを乗せてのドライブは初めてで新鮮な体験だった。


胡桃「そういやりーさんって何でいつも一人でいるんだよ?寂しくねえのか?」

悠里「発達障害とか疾患を患ってて先生や同級生からも無視されてて人や学校が怖いのよ。」

胡桃「それで一人でいた訳だな。でもこれからはあたしがついてるからな。何かあったらあたしに言えよ。」

悠里「胡桃は私の事、嫌になったりしないの?」

胡桃「なる訳ねえだろ。それでもあたしはりーさんと親友でいたいんだ。あたしにとってりーさんは心許せる親友だしさ。信じてくれるか?」

悠里「私も胡桃の事が好きだし友達でいたいのよ。もし叶うのなら胡桃とずっと一緒にいたいって思ってるのよね。」

胡桃「そう言ってくれて嬉しいぜ。」


実はりーさんは引っ込み思案で発達障害や疾患も患っているらしいがあたしにとってはそんな事はどうでもいい。優しくて包容力があって一緒にいると自然と癒される。あたしはそんなりーさんに段々惹かれていったんだ。りーさんと過ごす時間を通して両親を亡くした時の傷が癒えていくと同時にあたしの心が何か変わった気がした。


胡桃「りーさんは何食べるの?」

悠里「うーん、私はラムネでも買おうかな。」

胡桃「そっか。あたしは焼き鳥とかき氷買うわ。」


やがてあたし達は相思相愛の親友となった。今夜はりーさんの家まで迎えに行き、再びりーさんを愛車に乗せて夏祭り会場までドライブする。あたしとりーさんは楽しみにしていた夏祭りの夜で馬鹿みたいにはしゃいでいた。

あたし達は折角なので夏祭りの屋台で食べ物を買って食べる事にした。あたしは一つりーさんにあげるつもりでかき氷と焼き鳥を二つ買った。


悠里「二つも買って食べられるの?」

胡桃「りーさんに一つあげるつもりだったんだ。」

悠里「え、いいの?」

胡桃「遠慮すんなよ。」

悠里「…、胡桃が全部食べられるか心配だからもらっとくわね。」

胡桃「りーさんらしい答えだな。」


あたし達が屋台で食べ歩きしてる間、遂に花火が打ち上がった。


悠里「ふふっ、凄く綺麗ね。」

胡桃「ずっとこの花火りーさんに見せたかったんだよな。一年に一回しか無いし。」

悠里「こんなに綺麗な景色を見たのは初めてだわ。」

胡桃「そういえば、りーさんって外に出るの苦手だったっけ?」

悠里「外で遊ぶ事は無かったし外に出るのも怖いのよ。でも、不思議と胡桃と一緒なら不思議とどこへ行っても楽しく過ごせる気がするのよね。」

胡桃「あたしもりーさんを色々連れ回した甲斐があったぜ。…、あたしも心を入れ替えるチャンスかもしれないな。」

悠里「どうしたの?」

胡桃「いや、何でもない。」

悠里「ねえ。」

胡桃「ん?」

悠里「私達、いつかはお別れするのかな。」

胡桃「急にどうしたんだよ。」

悠里「出会いには別れが付き物。私と胡桃もいつかは会えなくなるのかなとか考えてしまうのよね。」

胡桃「そっか…。でも分かる気はする。じゃあ、この約束、忘れてもいいから覚えとけ。あたしとりーさんはどこに行ってもずっと親友でいようぜ。」

悠里「ええ、約束ね。」

胡桃「でも、今は限られた時間を楽しく過ごそうぜ。どうせ未来なんて誰にも分からないんだし。」


りーさんと一緒にいる時間は夢の様に楽しい。いつまでもこの瞬間が続いていて欲しい。あたしはそう願っている。その一方で二人で過ごす時間もいつかは空の彼方へ消えてしまうと考えてしまうのも理解は出来てしまう。いつか来ると分かっていてもりーさんと離れ離れになるのはやはり寂しい。


そして訪れた卒業式の日、あたし達は違う中学に進学する事になった。


悠里「もう卒業かー。6年早かったわね。」

胡桃「学校は別にどうでもいいけどりーさんに会えなくなるのは寂しいな。」

悠里「私達進路別々だものね。いつかお別れが来る事は分かっていたけど。」

胡桃「学校離れてもあたし達ずっと親友でいるって約束しただろ?離れ離れになっても心で繋がっていようぜ。」


いつかは来ると分かっていた卒業と別れにりーさんは涙を流していた。やっぱり受け入れるしかないのかもしれないな。それでもあたしとりーさんは心で繋がってると信じている。それだけは変わらない。


悠里「私、胡桃に出会えて嬉しかったわ!ずっと一人で寂しかったもの!もう会えないかもしれないけど、胡桃は必ず幸せになって欲しいわ!」

胡桃「また必ず会えるさ!いや、あたしはりーさんがどこに行っても必ず会いに行く!どこ行ってもあたしの事忘れないでくれよな!」

悠里「忘れる訳無いわ。また必ず会いましょう。私にとって胡桃は光だったのよ!」


別れの時が来て離れ離れになっても、新たな友達に出会っても、りーさんがあたしを忘れても、あたしはりーさんを忘れない。最後にお互いの告白を交わしたのを機に、あたしはりーさんと過ごした思い出を心のアルバムに封印した。


不良「胡桃はあの一件から不登校、というより入院しているそうです。」

貴人「俺達を裏切ろうとするからこうなる。俺の仲間は黙って言いなりになってればいいのだ。」

不良「しかし、ある女が割り込んで来たのでトドメは刺せませんでした。」

貴人「言い訳など聞きたくない。しかし、あの女とは胡桃が傾いていた…!」

晶「まさか、悠里の事?」

貴人「ああ、その女だ。胡桃が俺達を裏切る元凶だった。それに今や胡桃は不登校。絶好のチャンスかもしれん。今日の13時にあの女が通っている私立巡ヶ丘学院を襲撃し奴らに復讐する。それまでに準備を整えておけ!」

不良「はい!」


胡桃が学校に来なくなってから私達のテンションが下がり気味になっていた。いつも一緒にいる人と急に会えなくなるのは寂しい。病院にお見舞いに行った日以来も連絡が取れていない。


由紀「胡桃ちゃんが来なくなってから皆元気無いよね。」

美紀「胡桃先輩はいつも私達を引っ張ってくれてましたもんね。」

由紀「胡桃ちゃん何で来なくなっちゃったんだろう。りーさんは何か知らない?」

悠里「それは…、この前美紀さんと話したんだけど、実は腐れ縁の人達に襲われたらしいのよね。」

由紀「ええ!何でそんな事に!?」

悠里「あいつら、胡桃と私が仲良くしてた事を根に持ってたみたいでずっと胡桃に付き纏ってたらしいのよ。でも、胡桃が行き倒れていた所を美紀さんが助けてくれたのよね。」

美紀「胡桃先輩が暴行を受けた映像や証拠があれば訴えられるんですけどね。今度あいつらに遭遇したら録画してやりましょう。」


それどころかある日、あの時胡桃に暴行した数十人の問題児達が私立巡ヶ丘学院に襲撃してきた。その理由は私が胡桃と仲良くしている事への逆恨みだった。問題児達が校内を次々に荒らし回り、校内は徐々に崩壊していく。


不良「復讐の時間だ!」

不良「ぶち殺してやる!」


それを止める為にめぐねえ達職員は急いで通報し警察が到着するまでの時間を稼いでいる。私達は敵の数が比較的少ない学校の外に逃げようとした。


美紀「良い機会です。奴らが暴れている所はこっそり録音させていただきました。」

悠里「この短時間で良くやったわね。後は奴らに見つからないようにね。」

慈「皆大丈夫?今警察に通報して来たから出来るだけ安全な所に逃げるわよ!」

悠里「はい!由紀ちゃん、美紀さん、私達から離れないでね!」

由紀「うん!頑張ってみるよ!」

美紀「私は大丈夫です!由紀先輩の事をしっかり見ててあげてください!」

悠里「二人とも頼もしいわね。貴女達と親友になれて良かったわ。」

不良「見つけたぞ!」

不良「捕まえろ!」


しかし、安堵していたのも束の間。問題児達は実は私達を集中して狙っていた。敵の数が多すぎて身動きが取れなくなり学校から脱出する前に由紀ちゃん達ともはぐれてしまった。

学校の外を目指して走っていたが、問題児達は各方向に分散して私達を探しているのでどこに逃げたらいいのかが分からない。そして私は問題児達に見つかった。全力で走って逃げているが奴らはすぐ近くまで迫って来ている。全力で走り続けていると体力をじわじわ消耗している。遂に行き止まりまで追い込まれた。そして、突如釘バットを所有した問題児達の主犯格とポニーテールの少女が姿を現した。


不良「遂に追い詰めたぞ。」

不良「もう逃がさないからな。」

不良「じわじわ嬲り殺してやる。」

貴人「俺はこのグループの支配者、頭護貴人様だ。俺達から胡桃を奪ったのはお前だな?」

晶「あんたが胡桃の友達なのね。だとしたら胡桃がお世話になったわね。」

悠里「逆に聞くけど、胡桃にストーキングしてたの貴方達だったの?」

貴人「ああ、俺達から逃げようとしたから制裁してやった。胡桃は俺達の大切な仲間だったからな。」

悠里「私はどうなってもいいです!ですがもう胡桃には手を出さないでください!」

貴人「安心しろ。すぐお前にも胡桃と同じ罰を与えてやる。晶、あの女を始末しろ。お前なら出来るだろ?」

晶「分かったわ。始末するわね。」


私は問題児達に包囲され、逃げ場を失い最早これまでかと死を覚悟した。しかし、その直後に予想外の事が起きた。


悠里「え…?」

貴人「おい!どうなってんだ!?」


晶さんが問題児一人を瞬殺した。何故私を狙わなかったのかを理解出来ず戸惑った。何故味方を攻撃したのだろう?


晶「あたしも胡桃と同じくあんた達にはうんざりしてたのよね。」

貴人「何っ!?お前も俺達を裏切るつもりか?」

晶「というか、元からあんた達と仲良くする気なんてありません。」

悠里「貴女は誰?」

晶「あたしは光里晶。小学生の時に胡桃と友達だったの。」

悠里「それで私を助けてくれた訳ですね。」

晶「そ。」

貴人「お前も道連れにされたいようだな。」

晶「あまり喧嘩はしたくないけど、あたしはあんた達より強いわよ。」

貴人「もういい。お前ら、二人共まとめて始末しろ!」


問題児達は私と晶さんを始末するべく総攻撃してきた。私と晶さんは多人数をものともせずに問題児達を倒していく。一人では無理でも二人なら勝てる。奴らは私達の仇なので決着をつけるのは丁度いい機会だ。これ以上犠牲者を出したくない。その思いから瞬間的にとはいえ胡桃に匹敵する力を引き出せたのだ。


慈「戻ったら危ないわよ!」

由紀「やだよぉ!胡桃ちゃんもりーさんもいなくなるなんて!」

美紀「先輩を見殺しには出来ません!だって親友ですから!」

慈「若狭さんは私に任せて!貴女達は早く学校の外に逃げるのよ!」

美紀「分かりました。由紀先輩、今悠里先輩を探しても危険なだけです。ここは一旦先生達に任せて逃げましょう。」


晶「あー、スカッとした。こいつら大勢で刃物使ってもこの程度なのね。」

悠里「助けて頂きありがとうございます。」

晶「良いって事よ。悠里って結構強いのね、やるじゃん。あたしもあいつらにはうんざりしてたのよね。今回だってあたしの家まで押し掛けて来て無理矢理連れて来られたのよ。だけど、報復には丁度良い機会だったわ。悠里、ここからはあたしに任せて逃げて。そして、胡桃に会ったらよろしくね!」

悠里「ありがとう晶さん。」


私は晶さんを信じて再び学校の外に逃げる。


晶「さてっと、あんたも刑務所に送ってあげるわよ。」

貴人「裏切り者には制裁が必要だな。」


あたしも胡桃と同じく両親を亡くしており、生活保護で一人暮らしをしていた。学校では貴人に勧誘されて不良少女として過ごしていた。でも奴らがトラブルを頻繁に起こす様な奴らだと知ってからは胡桃と共にグループを抜け出して自分の道を進んでいた。あたしは悠里さんに先に逃げてもらってから因縁を断ち切り過去に蹴りを付ける為にも時間を稼ぐ。しかし、貴人は金属バットを持っているので迂闊に近づけない。


貴人「思ったよりやるな。」

晶「黙れ!」


それから私は貴人と互角の勝負を繰り広げたが一度の被弾も許されないあたしは隙をついて反撃するしかない。


貴人「大人しく胡桃と一緒に戻って来い。そうすれば命は助けてやる。」

晶「あたしはあんた達の所には帰らないわよ。金輪際私と胡桃達の前に現れないで!」


あたしは貴人が金属バットを振り終わった瞬間、顔面に一発入れた。貴人が怯んでいる隙を突いて気絶に追い込むまで畳み掛け、警察が来るまで拘束する。どんな凄い攻撃も当たらなきゃ意味無い。先に当てた方の勝ちだ。


晶「一生恥を晒して惨めなまま死になさい。」


後は警察が来るのを待つだけだ。あたしは既に過去を捨てて前に進んでいる。胡桃、悠里、また会おう。どうか幸せに生きてね。


晶さんのお陰で私達は問題児達から逃げ切る事が出来、由紀ちゃん達に再会する事が出来た。


悠里「ふう、ここまで来れば大丈夫ね。由紀ちゃん、美紀さん、怪我は無い?」

由紀「ふっふっふ〜ん、へっちゃらだったね!」

美紀「私も由紀先輩も目立った怪我はしていません。悠里先輩は大丈夫でしたか?」

悠里「ええ、胡桃の昔の友達が助けてくれたお陰で逃げ切れたの。そういえば、めぐねえはどこに行ったか知らない?」

美紀「悠里先輩を探しに行ってくれたらしいのですが、今どこにいるのかは私も分かりません。」

悠里「めぐねえは先生だからきっと忙しいのよね。でも、二人共無事で良かったわ。」


それから私達は行方不明になっていためぐねえに電話を掛けた。


悠里「もしもし、今どこにいますか?」

慈「良かった!若狭さんの事探してたのよ。」

悠里「私は大丈夫です。由紀ちゃんと美紀さんにも無事再会出来ましたが、奴らはどうなりましたか?」

慈「私が若狭さんを見つける前に警察が来て犯人を逮捕してくれたの。若狭さんはどこか怪我してない?」

悠里「怪我はしていないのですが、彼らは私達を集中して狙っていました。彼らが学校に来たのは私達を殺すのが目的だったんだと思います。」

慈「そうだったの?気づいてあげられなくてごめんね。」

悠里「偶発的な事だったので仕方ないですよ。それより、胡桃は今どうなってるんですか?」

慈「最近全然連絡が取れないのよね。でも、何か知ってる事があったら伝えるわね。」

悠里「よろしくお願いします。」

慈「じゃあ、また学校で会おうね。」


襲撃事件から数ヶ月経った今も胡桃は学校に戻って来ない。でも、いつか再会出来る事を信じて待ち続けていた。由紀ちゃん、美紀さん、そしてめぐねえも私と同じく胡桃が学校に戻ってくる事を心待ちにしている。


翌日、私達は胡桃が入院してる病院に再び行った。胡桃が負っている傷はこの前来た時より癒えてきているが、意識は取り戻していなかった。医者に言わせても目を覚ますまでいつまで掛かるか分からないとの事。


悠里「まだ起きていないのね…。」

由紀「もう胡桃ちゃんに会えないのかな〜。」

慈「あら、若狭さん達病院に来てたのね。」

由紀「あっ!めぐねえだ!」

悠里「傷は段々癒えて来ているんですがまだ意識は無いみたいです。回復するまでに後一ヶ月は掛かるって言ってました。」


突然病室にめぐねえが来訪した。それからも胡桃は30分以上待っても目覚めなかったので、私達は一旦病院を去る事にした。


慈「あ、折角の機会だし良かったら皆私の家に遊びに来ない?」

悠里「気持ちは嬉しいのですが時間は大丈夫なんですか?」

慈「大丈夫よ。帰りは皆の家まで送っていくから。その代わり方向教えてね。」


私達はめぐねえの提案でめぐねえの家にお邪魔する事にした。私達が家に上がるとめぐねえはコーヒーや紅茶、ケーキを振る舞ってくれた。


慈「作り過ぎて余っちゃったの。良かったら皆食べていって。」

悠里、由紀、美紀「頂きます!」


しかし、皆でティータイムを楽しんでる時も胡桃の事が頭から離れなかった。


悠里「あの、めぐねえ。」

慈「どうしたの若狭さん。」

悠里「もう胡桃は帰って来ないのでしょうか。」

慈「急にどうしたの?」

悠里「ずっと意識が戻ってないし、下手したらこのまま死んでしまうんじゃないかって。」

慈「恵飛須沢さんはただ意識を失ってるだけ。いつかきっと帰ってくるわよ。若狭さんも今はゆっくり休んで元気になったらまた歩き始めたら良いのよ。」


私は胡桃にもう会えないかもと思うと涙が止まらなくなった。でも、めぐねえはそんな私を優しく受け止めてくれていた。私達がそうしている間に玄関からいきなりインターフォンが鳴った。


胡桃「りーさん、皆!お待たせ!」


夜景をバックに玄関の前に美しく立っていたのは重傷から回復した胡桃だった。私は涙を流しながら胡桃を抱きしめ、私達は長い間の再会を喜び合った。


悠里「胡桃…、胡桃!生きてたのね!もう会えないかと思った…!何してたのよ…!」

胡桃「死ぬ訳ねえだろ?あれくらいで。」

由紀「感動の再会だね!胡桃ちゃんもケーキ食べていこうよ!」

美紀「皆胡桃先輩の事心配してたんですよ?私達が帰った後は何してたんですか!?」

胡桃「わりーな、皆が来てくれた後急に目が覚めて怪我と体調治ってたからさっさと退院の手続きして会いに来たぜ。」

悠里「まだ寝てなくて大丈夫なの?」

胡桃「もう身体はまともに動くから心配すんな。じゃあパーティの続きしようぜー。」


胡桃が退院してきてから私達は再びカフェタイムを再開した。胡桃が奇跡的に帰って来てからはティータイムはより一層盛り上がった。まるでパーティや文化祭の様に。


慈「今度何かあった時は一人で抱え込まずに周りを頼るのよ。そして、友達の事をしっかり守ってあげてね。」

胡桃「分かりました、気をつけます。」

悠里「今日は本当にありがとうございました。」

慈「私も皆と濃い時間を過ごせて楽しかったわ。また遊びに来てね。」

悠里「実は私、胡桃と小学生の時に親友だったらしいんです。すぐには思い出せないんですけど。」

慈「楽しかった思い出は忘れないものよ。思い出せないだけでね。」

悠里「例え記憶がなくても小学生の時は人が怖くて一人ぼっちだったんですけど胡桃が傍にいてくれたお陰で毎日を楽しく過ごせたのは事実なんです。」

慈「素晴らしい友情ね。これからも自分と友達の事を大切にね。」

悠里「めぐねえ大好きです!」

慈「私も悠里さんの事が大好きよ。じゃあ、また会おうね。」

悠里「バイバイめぐねえ。」


私達はめぐねえに別れを告げ、胡桃が運転している赤い車に乗り込む。めぐねえは私達が消えるまで見送ってくれた。


由紀「みーくん!みーくん!」

美紀「肉体的スキンシップは結構です!」

由紀「え〜、良いじゃん。」

美紀「もー、由紀先輩。」

由紀「へへへ〜。」

悠里「胡桃、そういえば晶さんって人にこの前会ったんだけどどんな人なの?」

胡桃「あいつはあたしが小学生くらいの時に同じグルだったんだ。あいつもあたしと同じくそのグルがトラブル起こしている事に不満を持ってたから中学生になってから二人で抜け出してやった。あのグルの中では唯一良い奴だったから仲が悪かった訳じゃないんだよな。」

悠里「そう。それなのに胡桃は何故私に優しくしてくれたの?」

胡桃「そりゃりーさんと一緒にいたかったからだよ。それがどうしたんだ?」


胡桃と久々に交わす会話。でも由紀ちゃんと美紀さんは相変わらず楽しそうにじゃれてる。私は胡桃が戻って来た瞬間、小学生の時に胡桃と過ごした記憶や交わした約束が完全に蘇った。

小学生の時の私は引っ込み思案で適応障害が原因で周りから蔑まれ孤立していた。学校に行くのも苦手で人に頼る事も出来ずその事を相談出来る相手もいなかった。最悪の場合、人生に絶望して自殺していても何もおかしくはなかったと思う。

そしてある日、胡桃が私に声を掛けてきた。胡桃との出会いが私の人生が一変する事になった。初めて人に優しくされた事に戸惑ったけど、それが嬉しくて私は胡桃に徐々に心を開いていった。しかし、私は人に対して疑心暗鬼なのでもし私が適応障害を持っている事を知ったら胡桃に嫌われるんじゃないかという不安が無い訳ではなかったけど。

私と胡桃は休み時間や放課後は必ず一緒に過ごしていた。胡桃は私の生まれて初めて出来た友達だった。人に頼るのが苦手な私でも胡桃になら甘えたり頼ったり出来そうな気がした。

やがて私と胡桃はプライベートでも遊ぶようになり、私達は親友になった。胡桃と過ごしている間は自分が引っ込み思案だった事さえ忘れられるくらい幸せだった。こんな時間がいつまででも続いていて欲しいと心から願っていた。いつしか私達はずっと親友でいるという約束を交わした。忘れる訳ない。大好きな胡桃との約束だもの。でもいつかは違う道に進む、それは避けられないのかもしれない。

そして、卒業後は私達は違う中学に進学する事になり別れの時が訪れた。

胡桃と過ごす時間が終わってしまう事に私は涙が止まらなかった。別れの際、最後に告白を交わした時には涙を流していた。私が胡桃と手を離し学校を去る時、胡桃との距離が無限になった。


悠里「胡桃は私と出会う前は何をしてたの?」

胡桃「…!」

悠里「胡桃?」

胡桃「ありがとうりーさん!」

悠里「どうしたの?」

胡桃「あたし、実は幼い頃両親を亡くしてて生きる事に絶望してたんだよな。でも、りーさんがあたしと一緒にいてくれたから心の底から生きたいって希望が湧いて来たんだよ!」


今になって漸く理解した。胡桃は幼少期に両親を失くして人生に絶望していたらしい。でも私と胡桃が親友になれたお陰で胡桃は生きる希望を見出せたらしい。


悠里「あの時に私達、ずっと親友でいるって約束したのよね。」

胡桃「ああ、やっと思い出したか。」

悠里「ありがとう!一人ぼっちだった私の傍にずっといてくれたのも胡桃だったのよね!」

胡桃「思い出すのが遅せーよ。まあそれはそれとして、あたし達約束通りまた会えたな!」

由紀「りーさんと胡桃ちゃんって小学生の時親友だったの本当だったんだね!織姫と彦星様みたいだね!」

悠里「由紀ちゃん?私達が小学生の時の事知ってたの?」

由紀「うん!胡桃ちゃんと出会ってすぐに耳にタコが出来るくらい聞いたからね!」

美紀「私もお二人が親友だった事は勿論、二人の過去の話も全て知ってます。ただ、高校生になっても胡桃先輩が小学生の時の記憶を覚えているという事には驚きましたけどね。」

悠里「美紀さんまで!」

由紀「もしかして二人の間に私とみーくんはお邪魔だったかな〜?」

美紀「もし邪魔だったら私達は口出ししない様にしますので言ってくださいね。」

悠里「気にしなくて良いのよ。仲間外れなんて無いからね。」


実は由紀ちゃん達も私と胡桃が小学生の時の事を知っていた。最初から皆の中で私だけが小学生の時の記憶を思い出せていなかったらしい。私達はそれぞれの家に到着するまで笑い合っていて車内が幸せな空気で満たされていた。


悠里「送ってくれてありがとう。」

胡桃「良いんだ。あたしも好きでやってるんだからさ。そういえば、折角また四人揃ったし冬休みとかにめぐねえも入れて皆で旅行とか行かねーか?」

悠里「そうね。旅行にはまだ行った事無いからこれからも知らない世界を見てみたいわ。」

胡桃「じゃあ決まりだな。じゃあ取り敢えず来週の朝また迎えに来ても良いか?」

悠里「ええ、喜んで歓迎するわ。」

胡桃「よっしゃー!来週楽しみにしてるぜ!」

悠里「胡桃。」

胡桃「何だよ?」

悠里「好きよ。」

胡桃「あたしも。」


胡桃は私に笑顔で応え、車に戻り私の家を去っていった。人や外界が怖くて引っ込み思案だった私。そんな私に光を当ててくれたのは他の誰でもない胡桃だった。そして、ここから私達の真の学園生活が始まった。