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三文字昌也『5枚の写真から語る台湾の攤販(タンファン)』/都市のラス・メニーナス【第27回】
2020年から「路上観察の現在地を探る」として、いろいろな方をお招きして、その方が見ているものの魅力、また、どうしてそういう視点に至ったかなどを、片手袋研究家の石井公二と編集者・都市鑑賞者の磯部祥行がお聞きしてきたトークイベント『都市のラス・メニーナス』。主としてYouTubeで配信してきた。「ラス・メニーナス」とは、17世紀にベラスケスによって描かれた、見る人によってさまざまな解釈を生じさせる絵画。街も、人によって、まったく異なる見え方をしているはずだ。
現在、平井オープンボックスを会場として、毎月1回開催中。その第27回が2024年6月16日(日)に、三文字昌也(さんもんじまさや)さんをお招きして開催された。
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いままでは、「街中に存在しているのに『見えていなかった』もの・こと」がテーマになることが多かったが、今回は全く異なり、台湾における路上屋台だ。
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三文字さんは都市デザイナー。都市の研究の一環で台湾に1年ほど住んでいたときに、台湾の都市のありかた、中でも夜市(よいち)に関心が引かれた。とりわけ路上にあるゲーム(電子ゲームではなく、縁日の屋台的なもの)に。
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夜市には決まった場所に構える「固定夜市」と、曜日や期間で移動する「流動夜市」がある。日本の朝市に近いが、日常のものとして必需のものとなっている。食べ物だけでなく、衣類や雑貨、ゲームもある。いずれも仮説の店舗であり、毎日店を「開き」、「畳む」。もっとも、今日のタイトルは「夜市」ではなく「路上屋台」。昼間の屋台もあるからだ。
さて、1枚目のこの写真。三文字さんがもっとも好きな写真。自転車に積んで持ち運びができる緑のキャビネットの中に、料理が並んでいる。「木橱滷味」は「木のキャビネットの滷味(ルーウェイ=煮込み)」を意味する。
キャビネットの下部にお金や袋が入っていて、この小さなキャビネットに商売道具のすべてが詰まっている。三文字さんはそのミニマルな姿に惹かれる。なお、ブースはテント(たまたま雨が降り始めたが、普段はない)くらいの範囲しかなく、背後の客席は別の店だったり公共のものだったりする。
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2枚目。屋台の占有面積はほぼすべて同じ。その中でいかに目立つかを追求した結果が、これだけの屋根の造作となった。タイ料理屋の屋台だ。これも毎日、閉店後は解体して移動されるのだが、よく見ると、屋根と厨房の間にキャスターが見える。屋根だけ取り外せるのだ。
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3枚目。屋台というよりは厨房機器そのまま!? の、朝の屋台。「飯糰」とはおにぎりのこと。おにぎりといっても日本のものと異なり、すごいボリュームで、手で握るのではなく、写真のように台の上にご飯(餅米)を広げ、揚げパンnや肉などさまざまな具を載せて包む。「飯糰」の看板が何かの流用なのも見どころ。
こうした屋台が合法なのかは不明。衛生や交通方面で政府が問題視しているのは想像がつく。屋台の許可を新たに得るのは難しいようだ。しかし、重要な観光資源であり、衛生面等を組合が管理することで、法制面との整合性を取る方向のようだ。
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4枚目。キャスターがついた屋台ばかりではなく、こうしたテーブルもある。売っているのは雑貨。地面の枠がおそらく本来の占有地だが、すぐ撤去できるテーブルを使い、ありがちなことに、はみ出している。
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補足写真。屋台の電気や水道はどうやって引いているのかというと、このようなインフラボックスがある。定額制。見るからに漏電などが怖いのだが。
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上空から降りてくる防雨タイプ。
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5枚目。屋台が帰ってくる「巣」。屋台たちが休んでいる。メインストリートから近い空地を共同で借りているようだ。
偶然だが、右側の建物の壁はタイルだ。昔の登記によると、どうもここに銭湯があったらしい。台湾の建物は壁を共用しているので、取り壊された建物の内壁が露出しているのではないか。公衆浴場は人が集まる場所にでき、その跡地で屋台が現れる。それに気づいたときの三文字さんの感動。
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5枚目の説明写真。今回のイベントの告知に使った写真だ。屋台をしまう場面だ。地面に穴が並んでいるが、ここにシンクの末端を差し込むと、即、下水に流れていく。
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屋台をクルマに積み込むシーン。
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台湾では、路上観察的な活動をしている方はたくさんいる。三文字さんは台湾の大学で路上観察をテーマに講演をしてきた。こういうトークイベントを台湾で開催できたらどうなるのだろう。石井も磯部も台湾に行ったことがないが、台湾の路上のお話をとても興味深く聞いた。同様に日本に来たことのない台湾の方々も、日本の話をおもしろく聞いてくれるに違いない。
いつか、台湾との交流会を!
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