ブラジャーと女の子。
大学時代、下着屋さんでアルバイトをしていた。きっかけは、たまたま通りかかった駅近の路面の店舗で、そのポップな可愛さに心奪われたから。
最初はノンワイヤーブラと肌着、メンズを中心に扱うお店で1年半くらい。ブランドの統合で途中から店舗を異動して半年くらい働いたが、お店のスタッフさんたちは見事なほどに皆優しく、やわらかく、ブランドを体現しているかのようなあたたかい人たちだった。(それ故に甘えて迷惑をかけてしまったこともたくさんある。土下座したい。)
就活と同時に辞めてから社会人になった今でもこのブランドの下着を買い続けているのは、お世話になった恩返しの気持ちと、ちょっぴりの罪悪感を払拭したいというずるい気持ちと、単純にブランドのコンセプトや商品が大好きだからだ。
今回は、このブランドの魅力をつらつらと語りつつ、女性と下着というものについて考えてみたいと思う。
ブランドの名前はune nana cool(ウンナナクール)。バイト時代「ワコール生まれの肌着屋さんウンナナクールです」とよく店頭で声に出して言った。そう、あの超有名下着メーカー・ワコールのグループ企業であり、20代くらいの少し若めの女性をターゲットにしたカジュアルで可愛い商品を展開している。
ウンナナクールのブランド名は、フランス語で「ちょっとかっこいい女の子」だ。良い。
そんなブランド名のように、ウンナナクールの商品は下着と聞いてイメージする、女の子らしいふりふりのレースやちょっとセクシーななてろてろのものとはちょっと違う。もちろん、レースやツルツルした素材のものもあるのだけど、なんというか、軽やかで媚びてないのだ。ヘルシーな可愛さ、というのが一番しっくりくるかもしれない。
それでいて、きちんと優しくて機能的なものが多い。
・綿混・綿100%のブラ・パンツ
・裏の縫い目がないシームレスな肌着
・肌に直接当たるブラのカップ部分が綿素材
・ワイヤーが当たって痛くなってしまう人向けに前中心のワイヤーを取り除いたブラ
・ノンワイヤーでもきちんと谷間ができるブラ
・締め付けが気になる人や妊婦さんにおすすめの切り売りハラマキ などなど
女性の体を考え、工夫されている商品がたくさんあった。ちなみにスタッフは素材の肌触りや着け心地をお客さんに細かく伝えられるように、新作が出るたびに試着していた。いちユーザーとして、気に入って買ったものは数知れず。
そんなウンナナクールがブランドロゴやアイコン、店舗、プロモーションを刷新し、リブランディングを行ったのが2017年の春のこと。
2001年にデビューした、「une nana cool(ウンナナクール)」は"下着を洋服みたいに着替えたい"という女性の気持ちを大切に、シンプルでありながらオシャレなインナーウェアブランドとして多くの女性に支持されてきました。その「une nana cool」が未来を見据えた魅力的なブランドとしての進化をはかるべく、新たなブランドミッションを"女の子の人生を応援する"と設定しました。
このとき、新しいコンセプトとコピーを作ったのが、小説家の川上未映子さんだった。
わたしはこのコピーが、すごく好きだった。それはもう、何だか苦しくなるほどに。
ちょっと長いのだけど、ぜひ読んでほしいので全文引用。
女の子、登場
女の子の気持ちとからだをめぐる問題は、複雑です
「女の子らしくしなさい」「可愛らしくありなさい」そう言われつづけて
出会う物語は、たとえばシンデレラ、白雪姫、マッチ売りの少女、人魚姫
王子様に迎えてもらって幸せになるか、最後は不幸になるお話ばかり
女の子に与えられた理想は、長いあいだ、最高の男性に出会い
誰かに幸せにしてもらうことでした
そのために美しさを磨き、難しいことは考えない
それこそが、女の子のしあわせなのだと
それをしあわせと思う女の子も、もちろんいます
でも、いろんな女の子がいるはずです
大切なのは、女の子が生きるための選択肢が
ひとつでも多く増えること
誰かに好かれるために可愛くなりたいのではなく
自分がなりたいから、なる
しあわせの価値は、自分で決める
女の子である自分のからだと生きかたを、自分で、肯定する
ただひとつの、かけがえのない自分のからだに
今日、はじめての下着をつけるとき
それはひとりきりで自分にむきあう、ささやかな儀式
しっかり胸を、はれるように
あなたの気持ちは、あなたのもの
あなたのからだは、あなたのもの
努力も憧れも、自分自身のためでありますように
川上未映子
多くの女の子は、生きている間にきっと一度は思う。
「好きな人に好かれたい」「可愛いって思われたい」
わたしもこれまでの人生、何度思ったかわからない。好きな誰かに近づきたくてスポーツを勉強してみたり、好きな誰かに好かれたくて新しい服を買って、化粧をしたり、好きな誰かに嫌われたくなくてダイエットを始めたりした。
努力も憧れも、「誰かのため」だと思うと頑張れた。
でも、「誰かのため」の努力や憧れは、ふとした時に「誰かのせい」に変わってしまうこともあった。
上手くいかなかったり、思い通りにならないとき。「わたしは別にしたくなかったのに」「あの人のためにこんなに頑張ってるのに、なんで」そんなふうに責任転嫁してしまったり、しまいには「あれ、わたしなにしてたんだっけ」って虚無感に襲われたりする。
わたしの気持ちはわたしのもの。誰かのためや誰かのせいでじゃなくて、自分がしたいから、する。そのほうが、よっぽど気持ちがいい。
このコピーを見たとき、まだ自分以外の誰かに見せることがあるなんて知らなかった小学生のわたしが、はじめてブラジャーを着けたときのことをふと思い出した。
大人に近づきたくて勇気を出して母に買ってもらったブラジャーを、鏡の前でおそるおそる着けたあの瞬間は、わたしだけのもので、そのときのちょっと照れくさくてうれしい気持ちも、間違いなくわたしだけのものだった。
本来、下着は人から見えることがない。意中の相手に見せるためのものでも、誰かの気を引くために身に着けるものでもない。女性のからだをやさしく大切に守るために必要不可欠だからこそ、ある。ブラジャーは特に。
洋服と違って、サイズが細かく分かれていて、商品によっても、着け方によっても着け心地がかなりちがう。だから、自分のからだにぴったりのものに出会ったときの静かな興奮と安心感は、女の子にしかわからない、女の子のためにあるものなのだと思う。
それに、自分に合った新しい下着を買うだけで、不思議と朝が来るのがちょっと楽しみになったり、いつもより少しわくわくしたり、足取りが軽くなってスキップしたいような気分になる。大げさじゃなく、下着にはわたしたちの気持ちを前向きにしてくれる力があるのだ。
自分のからだの一番近くにある、下着。それくらい、誰かのためじゃなく、自分のために選んで、自分のために身につけるものでありたい。多くの女の子にとって、そうあってほしい。
ウンナナクールは前向きに生きる女の子を応援してくれる、素敵なブランドだ。自分のからだも、気持ちも、ちゃんと大切にしていいのだと肯定してくれる。なんだか、ほめちぎりすぎていてウンナナの回し者のようだけど、単純にいちユーザーとして愛が深いだけである。
もともと特別下着に思い入れがあって始めたバイトというわけではなかったけれど、その経験が、今の自分の興味関心にだいぶ影響を与えてるような気がする。何気なくやってきたことは、すべて今に繋がっているのだなあとこんなところで気付く。まったく、全て無駄じゃないのだなあ。
さいごに、おまけでウンナナクールの最新のビジュアルとコピーを。(そろそろ今年のものが新しくでるかも)
(引用:une nana cool)
「わたし、いい度胸してる」
ああ、かっこいい。わたしもこんなふうに、しなやかで凛とした女の子でありたい。よーし、またひとつ背中を押された気がする。頑張ろう。
おしまい。
illustration:@ameno_yofuke(Instagram)
いつも読んでくださってありがとうございます。大好きです。 サポートいただけたら、とてもうれしいです^^ どうか、穏やかで優しい日々が続きますように。