アセクシャルを自認するまでの経緯・社会人編
学生時代は、ただなんとなく「自分は周りのみんなと何かが違うのかもしれない」とぼんやり感じていた。
最近、アセクシャルであるという確信を持とうとして行動した結果、「今後変わるかもしれないけど、今はアセクシャルを自認しよう」という結論に至った。
アセクシャルであることと、自分の性自認につい気づくきっかけとなった出来事についてまとめようと思う。
相席居酒屋に行って自分が女だったことに気づいた話
友達に誘われて、なんとなく相席居酒屋に行った。男性3人が向かい側に座った。
男性と対面して座った瞬間、私は「あっ自分って女だったんだ」と思い、ものすごい吐き気が込み上げた。
今まで、自分が生まれ持った身体の性別に違和感を覚えたことはなかった。
でも、考えてみれば私は今まで性別で区別された事がなかった。
例えば、共学なら男子と女子で体育の授業でやるスポーツが違ったり、委員会で男子1名、女子1名を選ぶ、とかいうことがあると思う。
中高大すべて女子校で育った私は、日常生活の中で自分や他人の性別を意識することがなく、みんな同じ人間だと思っていたのだ。
でも、世間的に見ると私は女性で、その時初めて自分は男性から見て性的な対象になりうるんだと気づいてしまい、吐き気を催したのだと思う。
このようなことを言うと、何かトラウマ的な経験があるのかと思われそうだが、私は非常に幸いなことに、痴漢や性的被害にはあったことがない。
相手の男性は、自分と歳もそれほど変わらないし、清潔感がないわけでもなかった。好きなタイプとか、いままでの彼氏はどんな人かとか、そういう答えられない質問をされたわけでもない。お酒も1口くらいしか飲んでいなかった。
でも相席して30分くらいのうちに、ものすごい吐き気が襲ってきた。本当に今にも吐きそうで、トイレに駆け込んだ。みるみる顔色が悪くなり、立ち上がるのもしんどかった。
すぐに店を出て別の店ですこし休暇してから、解散した。
自分でもビックリした。女の身体で生まれて、今まで何の疑問もなく、女の子用の服を着て、女の子用のおもちゃで遊んで、〇〇女子中学・高校に女の子用の制服で通って、〇〇女子大学に進学して、履歴書の性別欄の「女」にマルをつけていた。にも関わらず、私は自分のことを女だと思っていなかったのだった。
失恋を疑似体験できるかと思ったらできなかった話
新入社員として入った会社の同期で、同じ部署に配属された男性がいた。歳が近い男女がいるとおじさんおばさんたちは大体くっつけようと目論む。入社した時から、その同期は私のことを好きなのではないか、と散々からかわれていた。
「付き合っちゃえばいいのに」などと言われるたび、私は「いやいや、ないです」と否定していたが、同期は本気で拒絶するようなことはしなかった。その理由が満更でもなかったからなのか、全否定したら私に悪いと気を遣っていたからなのか、真相はわからない。
そんな状態が数年続いていたが、ある時その同期に彼女ができた。
彼女ができたと知った時、私の中に沸き起こった気持ちは「安堵」だった。
正直、もっとショックを受けると思っていた。私は彼のことを好きではなかったが、自分に好意を持っている人がいるというのは喜ばしい事であるはずだった。なんなら自分も彼のことを好きになれるかもしれないと少し期待していた。
だから、自分を好きかもしれない人が、実は好きではなかったという事実が明らかになったら、もっと悲しいと思っていた。
好意を持たれることは良いことだと思いつつ、間違っても「付き合ってほしい」なんて絶対に言われたくなかった。自分も彼に好意を持っていると勘違いされないように、無意識に警戒し過度に冷たくしていたことに気づいた。
だから彼に彼女ができたとき、彼はもう自分に好意を寄せることはないんだ、とむしろ安心し、普通の友達のように接する事ができるようになった。
J-POPのよくある歌詞のように、“好きな人に彼女ができた”という失恋の悲しみに似た感情を自分も味わえるかと思ったら、味わえなかった。
マッチングアプリのアポをドタキャンしたらテンションがブチ上がった話
こんな私でも恋愛をしてみようと思い立ち、マッチングアプリに登録した事がある。
登録するとすぐに数人からメッセージが来て、とても驚いた。3〜4人同時進行でメッセージのやりとりをしばらくしていたら、そのうちの一人と食事をすることになった。
約束をした時はなんなら楽しみですらあった。アプリ内で会話をするのは普通に楽しかった。当日の午前中に美容院の予約を入れてトリートメントと前髪カットをするぐらいには気合を入れていた。
でもいざ約束の日が近づいてきたら、やはりあの吐き気を思い出した。
やはり自分が女性として、男性と対峙する違和感を拭えず、会う勇気がどんどん減っていった。
実際に会って、どんな会話をするのか?本名や勤務先を聞かれたらどこまで答えるべきなのか?LINEを聞かれたら教えるのか?そしたら完全に本名がばれてしまう。そうなったら何かあっても逃げられない。
その人と会うことを具体的に考えれば考えるほど、自分の気持ちは「恋愛」よりも「防犯」に向いていった。
もし万が一、その人と付き合うことになったとしても、たぶん毎回会う時は憂鬱になるだろう。“彼氏”ができたことなんて誰にもバレたくない、もしその人と2人でいる時に誰か知り合いにばったり会ってしまったら?などということを、付き合っている限りずっと考え続けるんだろうなと思った。
マッチングアプリで出会った人だから友達などに紹介しづらいという理由もあるが、やはり自分が恋愛をするということ自体の“後ろめたさ”みたいなものがありすぎて、会うのはやめようと決めた。
当日の朝、申し訳ないとは思いつつ「体調が悪いので今日はキャンセルさせてください」とメッセージを送った。
「わかりました。連絡ありがとうございます。」と返事が来たのを確認し、すぐに退会して、アプリを削除した。
開放感でめちゃくちゃテンションが上がった。
また私の気持ちは私の予想を裏切ったのである。私の予想では「あぁ、やっぱり自分には恋愛なんて無理なんだ。結婚とかも絶対できないんだ…」とヘコむはずだった。
実際の私は「やっぱ無理!向いてないものやるもんじゃないな!あ〜行きたくないな〜ってウジウジしてたこの数日間は何だったんだろう!早く断ればよかった!あ〜!私は自由だ〜〜〜!」
みたいな感じで開き直っていた。
そして予約通り美容院に行き、髪を整えたらさらに気分が良くなり、約23万円の買い物をしたのだった。
もちろん高い買い物をしたことについて後悔などしていない。このピッコロはフルートに続いて私の第二の相棒になり、今も楽しく練習している。
先日の記事で「自分には思春期が来なかった」と書いたが、たぶん私の性別はどれでもなくて、性的志向についても、どの方向にも向いていないから気づかなかったのかもしれない。
人によっては、自分のセクシャリティを自認することは苦しみをもたらすこともあると思うが、私にとっては非常に開放感のあるものだった。
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