卒業試験とくじ運(2)
ピアノメソッドの卒試を受ける学生たちの予想では、当たりくじは3〜5本。(本数の出処は不明。)残りのハズレくじは「答えのファクターが多岐に渡っていて、全部網羅して説明するのが面倒くさいハズレくじ」、「ピアニストとしての芸術的観点から考えると、必ずしも理論の定説とは一致しないので説明には要注意の大ハズレくじ」など、ハズレにもバリエーションがある、ということ。
ピアニストとしての芸術的観点というのは、「ピアノ科の教授が教えるピアノレッスン」の中で学んでいきます。が、どの教授にもピアニストとしての個々のオリジナリティがあり、それがピアノメソッドでの定説と一致しないという場合もあるのです。「そういうテーマは説明するのにリスキーで要注意だ、、。」と、それにだけは当たらないようにと神頼みしました。
一方、当たりくじはと言いますと、例えば「ピアノのメンテナンス、管理、保管など」とか「コンサート、発表会で弾く生徒の準備やレッスン、メンタル問題など」。この二つは当たりくじとして毎年入っているらしい、との噂があり、信憑性はどうなのか分かりませんでしたが、それに当ったら楽勝なので、是非当たるようにと神頼みしました。この2つに限らず、定番の答えを全ポイント言えばクリア!というテーマのくじだったらもう「大当たり!」です。
ドイツの音大の口頭試験の部屋の空気というのは、何故かどの教科でも毎回同じで、何故かほんの少しの埃っぽさも気になるような、また試験教官が何人いてもシンっとした静けさがあり、そこの場所だけ時間が切り取られて止められているような、そんな不思議な感じがします。
さて、私が引いたくじに書かれていた問題は何だったでしょう?
なんとなんと、それは数少ない大当たりくじの一本、「コンサート、発表会で弾く生徒の準備やレッスン、メンタル問題など」だったんです!もちろん演奏時のメンタル問題は大きなテーマなのですが、この問題はまさに十人十色、対策も人それぞれで正解が一つではないのです。なのでざっくりと一般的な説明をし、定番の答えに自分のオリジナルな考察や経験などを付け加えればオッケー、と。
このくじを開いた時の私は「えええええええ!この当たりくじ、私が引いたなんてホント?信じられない〜!」という表情だったと思います。
教授は「コレはまず出ない大幸運くじね。あなたは強運ね〜!」と言って、ニコニコ笑っていました。
私の口頭試験は大ラッキーに終わり、緊張も一気に解けて放心状態のまま部屋から出ると、試験の順番待ちをしている学生たちから「何の問題に当った?難しかった?」と質問攻めにされました。「それが、、、大当たりくじを引いて、、。」と説明すると、「ホントに入ってるんだ、そのくじ!」と驚く人、「いいなぁぁぁ!なんて強運なんだ!」と羨ましがる人など、さまざまなリアクションのどよめきが起こっていました。
でも、今、思い返すと、みんな平和で可愛らしい大学生だったなぁと、思わずニッコリしてしまいます。成績が良くても悪くても、みんな平和で幸せな大学生活を送っていたんですね〜。