ボロアパートに住む謎の綺麗な女
はじめに
その女は、雨の日によく見かける。
雨の日に、飲み物を片手に曇天の空を見上げている。
まるで清々しい晴れの日のように、上を見て、飲み物を味わっている女。
美人である。
人目見て、誰もが惹かれるほどの美人であろう。
しかし、衝撃なのは、その女の住まいだ。
アパートであるがボロボロなのである。
その綺麗な女は、なぜあんなにもボロアパートに住んでいるのだろうか。
私は女がとても気になりだした。
女との出会い
最初に女を見かけたのは、雨の日、娘を幼稚園に送っている最中のことだ。
普段晴れている日は自転車で送っているのだが、雨の日は自転車に乗ると危ないので、娘と歩いて幼稚園まで向かっている。
自転車で行くコースと歩くコースは違う。
その歩くコースに、謎の綺麗な女が住むボロアパートがあるのだ。
娘を幼稚園に送り歩いて帰る、その途中に女はいた。
庭と言う庭は無いのだが、縁側のような、小上がりのような、そんな場所がある。
そこに女は雨の日にもかかわらず、座って飲み物を飲んでいる。
膝をきちんと閉じて、空ををじっと見上げている女。
ひと目見て目を奪われた。きれいだ。あまりにも美人すぎる。
そして女の住まいを見る。アパートの1階で人通りは少ない。
しかし通る人から丸見えだ。
塀もなく、一歩踏み出せばもう窓だ。
車1台通るのも難しいのではないかという位、細い路地にある家なのだが、そこに女のボロアパートがある。
その女が気になりすぎた。
普段何をしているんだろう。身なりというと、女は白いパジャマのようなものを着ている。
雨の日はお休みなのだろうか、在宅ワークなのだろうか。
女の素性が気になる。
おそらく一人暮らしだろう。しかしあんなにも綺麗な女性。
もっと防犯性の高いまともな家に住めばいいのに。
あんな風に雨の日にたたずんでいたら、誰だって目を奪われてしまうに違いない。大丈夫なのだろうか。
晴れの日の女は
女がとても気になった。少し心配でもあった。
私はあえて晴れの日に歩いて、女の家の前を何度か通ってみた。
するとある日、女はいた。女は洗濯物を干していた。
相変わらず身なりは綺麗である。
しかし私と同じ目線で堂々と洗濯物を干していた。
気になったのは、晴れの日の方が女の美人度が下がっていたということだ。
なぜだろう、晴れの日の女の顔は少ししょんぼりとしていた。
雨の日の方が目線が上向きになっていて、佇まいが美しいと感じた。
女のベランダは常に綺麗であった。
ハンガーはかけっぱなしだが、どれも統一されていて、間隔が美しい。
そして置いてあるサンダルはきちっと揃えられて、つま先側を上にして置かれていた。
だがしかし、やはりボロアパートである。
ボロアパートに住みながらも、女は丁寧でシックな暮らしを続けているのだろうか。
そして見てしまった、女の
ある日いつものように雨だったので、娘を幼稚園に送り、細い路地を通った。
すると、見覚えのない男を見た。
ハンサムな男であった。
男は、明らかにボロアパートを見つめていた。
そう、あの女の住むボロアパートのベランダを見つめていたのである。
首から会社のカードキーであろうか、そんなものを下げていた。
スーツをぴしっと着て、大きな黒い傘を差していた。
間違いない。あの女を待っているのだろう。
しかし、女の姿は無い。
これはどんな状況だ?
女は、これから出てくるのだろうか?
一瞬しか通り過ぎることができないので、私は立ち止まって、一緒に待つこともできず、男の顔を一瞥して、その場を過ぎた。
あの男は何者か?
1番考えられるとしたら、恋人である。
いやそれか、あのボロアパート自体が寮になっていて、会社の同僚だから一緒に出勤するとか。
それとももう結婚を前提にお付き合いしている関係で、毎日一緒に行くことを約束しているのか。
それとも、男の一方的な恋なのか。
それとも男は全然関係なくボロアパートを見て、これはすごい嫌だなと思っているのか。いや最後のは多分違う。
私の妄想はどんどん膨らんでいくばかりだ。
いよいよ見たもの
さらに、月日が経つ。
雨の日はそんなになく、見かけることもいつもではないので、ここにはかなりの月日が流れている。
そして私はいよいよ見てしまった。男と女のツーショットである。
これもまた雨の日であった。
娘と歩いていると、前方から男と女が歩いてくる。
私は瞬時にわかった。あのハンサム男と綺麗な女だ。
やはり2人は恋人で付き合っていたのだろうか?
しかし、その距離感は少し微妙なものであった。
男が先頭を歩き、その後ろからうつむき加減で歩く女。
相合傘をすることもなく、男は相変わらず大きな黒い傘をさし、女はクリーム色の傘を差していた。
女の服装は曖昧だが、同じく薄い色のオフィスレディー感のあるコーディネートだった。
この出来事が2回あった。
しかし、2回とも寄り添って歩くわけでもなく、男が先頭に立ち、女がうつむき加減で後ろを歩く。
この姿が印象的だった。
恋人かと思ったが、距離感はちょっと恋人とは思えないような感じであった。
おわりに
私はこれ以降女と男を見ていない。
相変わらずベランダに揃えられたハンガーと、揃えられたサンダルが置かれてはいるが、姿は見ていない。
女と男。
どうなっていくのだろう。また見守っていきたいと思う。
※この話は実話である