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ねえ、ビーチへ行かないか? 2


「ええ?ビーチに行かないか?だって?」
 ワットはビール臭い息でうめいた。
「おい、冗談だろ、あんなに太陽が照ってるぜ」
「&%$#”%$&’」
「おいおい、わかったよ。そんなにわめくなって。」
 ワットはコンランのがなり声で頭が割れそうになりながら言った。何しろ夜明け近くまで二人は酒を飲んでいたのだ。部屋の中は酒と体臭でむっとしている。
「喉が渇いたぜ。」
「&%$’#」
「お前こそ飲み過ぎなんだよ」
 ワットは、そこに残っていたもう気の抜けたビールを飲んだ。苦い味が口の中に残る。コンランは冷蔵庫を開けて中をのぞいている。無駄な行為だ、とワットは思った。食べ物があればもう昨日のうちに食べてしまっているはずだからだ。
 しかしコンランはにっこり笑ってワットを振り返った。手にはビール二本が握られていた。

 ビールを一杯やって、少し頭がすっきりした二人は、シャワーを浴び、比較的きれいなTシャツを選んで着替えた。
 ビーチへの道すがら二人はウォールマートに寄って、6パックのビールを2つ買った。もらったレジ袋におつりをバラで入れた。財布をもう一度出すのが面倒だったからだ。
 ビーチは混んでいた。いつも混んでいるのだ。熱い白い砂浜の上に冷えたビールの入ったレジ袋を置き、二人はどさりと腰を下ろした。太陽は真上にあり、二人の尻の下に濃い陰が落ちた。二人は早速冷たいビールを飲んだ。冷たいビールはすぐに二人の体を通過し、熱く粘つく汗となって排出された。
「’&%$$$#%%」
「ええ?泳ごうって?」
 ワットはそこで初めて水着もタオルも持ってきていないことに気づいた。しかしコンランはもう服を脱いでしまっている。ピンク色の陽物をブラブラさせて波打ち際へ走っていく。もっともピンク色なのは陽物だけではない。火星人であるコンランは全身ピンク色なのだ。
 ワットは仕方なく自分も服を脱いでコンランの後を追った。火星人でないワットは灰色のブリーフをはいている。 元々は白かったブリーフだ。
 コンランは、水に入っておいでおいでをしている。困ったことにコンランは火星人のうえホモセクシャルなのだ。ワットはストレートだ。

 マッチョでピンク色のホモセクシャルの火星人と泳いでいると、女の子が声をかけてきた。ビーチボールをしようというのだ。
 女の子は、数人いて、みんないい体をしている。着ているものもトランジスタビキニだ。よくよく聞いてみると、今日開店する近くのバーの店員だそうだ。オーナーの老人が、巨大なパラソルの下で女の子を侍らせていた。老人は、若作りだが、近づくと老人のにおいがした。とにかく、典型的な老人なのだ。
 それでも気前はいいらしく、ワットとコンランという闖入者も気にしないようだったので、二人はトランジスタグラマの女の子たちとビーチボールをした。バー主催のパーティーなので、ビールが飲み放題で、気がつくとワットとコンランは、ビールハットをかぶり、頭の両脇についた缶ビールからチューブでビールをがぶ飲みしていた。女の子たちは二人の飲みっぷりに大はしゃぎだった。女の子たちもそのうちに酔ってきていて、裸のコンランの陽物に興味を示していた。それは柔らかいゴムのようなものだ。女の子の関心を集めても固くなることはない。何しろコンランは筋金入りのホモセクシャルなのだから。
 モテているのは火星人でホモのコンランだったが、ワットの方は、女の子に興味があった。ワットもコンランのおこぼれに預かり、かわいい女の子のパンティーの中に指を忍び込ませることに成功した。
 しかしその先が悪かった、腰まで海水に浸かりながら、指の代わりにナニをパンティーに潜り込ませようとしたまではよかったが、そのナニがちっとも固くならなかったのだ。心臓の方は興奮で早鐘のように鼓動を打っていたがナニがちっとも固くならない。

 セックスに失敗したワットは、只のビールをたらふく飲んだ。気がつくと女の子も老人もいなくなっていた。
 水からあがったワットとコンランは、自分たちの服を探した。しかし見つかったのは、ウォールマートのレジ袋とビールだけだった。ワットは、服と財布を盗られたと言って悪態をついたが無駄な行為だった。それで服と財布が戻ってくる訳ではないからだ。
 ブリーフ一枚のワットと、フルチンのコンランは、膝を抱えて砂浜に座り込み、残ったビールを開けた。

 その二人の左20メートルのところで。
「ねえちょっと!忘れ物はない?」太った女が子供たちに帰り支度をさせようとしていた。何しろ4人も子供がいるのだ。やせた父親は、やれやれと言った様子で、パラソルをたたんでいる。
「お母さん!これも持って帰る?」
 子供がウォーッルマートのレジ袋を持ち上げた。中身は飲みかけのビールと小銭だ。そばに汚いTシャツもある。
「よしなさい。汚いから。海で手を洗ってきて。大丈夫よ、ゴミは係の人が片付けてくれるんだから。でも自分たちの出したゴミはちゃんと持ち帰りましょう、いい?さあ、行って!」


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