さざなみ

ファンタジーを中心に、小作品を載せていきます。 それらは、何年も前に書いたものから最近書いたものまであります。 少しでもあなたの気に留まったら嬉しいです

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最近の記事

雨が降っている 1 (ファンタジー)

 雨が降っている。  魔法使いは、旅の仲間と目を合わせないようにしていたが、その必要がないことに気がついてホッとした。清廉潔白で自尊心の高い騎士は、雨ごときで文句は言わないし、狩人は雨の森には慣れっこだったからだ。  魔法使いの頭巾からは雨が滴っている。  こんな森の中で雨が降ったりすると、人々は雨に濡れない魔法を期待して魔法使いを見ることがよくあった。ちらりと期待を込めた目で魔法使いを見るのだ。それが嫌だった。  人々は魔法を、ちょいと棒を振れば容易に便利を効かせられるもの

    • ねえ、ビーチへ行かないか? 2

      「ええ?ビーチに行かないか?だって?」  ワットはビール臭い息でうめいた。 「おい、冗談だろ、あんなに太陽が照ってるぜ」 「&%$#”%$&’」 「おいおい、わかったよ。そんなにわめくなって。」  ワットはコンランのがなり声で頭が割れそうになりながら言った。何しろ夜明け近くまで二人は酒を飲んでいたのだ。部屋の中は酒と体臭でむっとしている。 「喉が渇いたぜ。」 「&%$’#」 「お前こそ飲み過ぎなんだよ」  ワットは、そこに残っていたもう気の抜けたビールを飲んだ。苦い味が口の中

      • 烏と魔女 2  (ファンタジー)

         雄カラスは、それから、魔女の気まぐれで、あっちこっちと飛び回された。生きている時と違って、疲れることはないが、魔女のいいようにされるのは雄カラスの癪に触った。  さて、何も魔女はカラスを使って覗き見ばかりをしているわけではない。1番鶏が鳴くと起き上がる。朝の光に目を瞬かせて、顔を洗うこともせずに、鶏小屋に入っていくと、雄鶏を追いかけまわす。もう歳をとった雄鶏は食べてしまおうとして追いかけ回しているのだ。雄鶏はまだ魔女に捕まる気はなく、素早く屋根の上まで逃げる。悪態をついた魔

        • 烏と魔女 1  (ファンタジー)

          烏と魔女   年老いた魔女が森の中から這々の体で出てきた。もじゃもじゃの白髪頭には木の葉っぱやら鳥の羽やらがくっ付いている。腕には紐でぐるぐる巻きにしたカラスを抱えている。   魔女はもう幾晩もこの雄カラスをを捕まえようと躍起になっていたのだ。初めはすごく簡単に思えたのだ。ちょっとした罠と呪ないで容易に捕まえられるとタカをくくっていた。しかし、雄カラスは魔女が思ったより力があり、罠を簡単に壊してしまった。それに頭も良かった。同じ罠には掛からないし、ちょっとした変化も敏感に感

          ねえ、ビーチへ行かないか? 

          「ねえ、ビーチに行かないか?」 「ええ、いいわよ。今日は本当に暑いから」  ジョンは思った。本当に暑いなら、家の中で、エアコンを効かせりゃあいいのに。でも誘ったのはジョンなのだ。  ジョンにしても何もジェーンを誘う必要はなかったのだ。電話をすれば、ワットやコンランもどうせ暇にしているのだから。しかし男友達を誘えば、ビーチできっとビールを飲むことになる。ジョンは炎天下でビールを飲むのは好きではなかった。それに、とジョンは思った。アイリーンだって、誘うこともできたはずなのだ。  

          ねえ、ビーチへ行かないか? 

          死の花と魔女   (ファンタジー)

           魔女は一人で山奥に住んでいた。小さな家は、石と漆喰でできていた。家の周りには小さく刈り込まれた椿やバラやハナミズキが花を咲かせていた。家の前には、広い花壇があった。花壇には魔女が植えた花が咲いていた。魔女はいろんな所から、美しい花を見つけると持ってきて、この花壇に植えるのだった。花壇には色とりどりの花が咲いていた。端からチューリップ、クロッカス、パンジー、ペチュニア、シクラメン、クリスマスローズ、デイジー、ポピー、金魚草、サルビア、スプレーマム、デイジー。バラ、ツラバラ、桜

          死の花と魔女   (ファンタジー)

          情熱

          西暦2824年。トミオは目を覚ました。そこは病室だった。 「目が覚めましたか」ドクターが言った。  私はそれに答えた。気分はいい。しかし、少し記憶に混乱がある。 「ああ、一時的なものです。しばらくお話ししましょう。すぐに良くなりますよ」  私は自分の状態を聞いた。 「トミオさんは、人工細胞による若返り手術を受けたのです。ええ、みなさんがするように。もちろん上手くいきましたよ」  私は自分のリアルタイムホログラムを見た。そうだ。確かに若返っている。今の時代、人工細胞を注入するこ

          ヒゲとボイン

          ヒゲとボイン  二日酔いの五郎は発泡酒を飲んだ。いや、二日酔いではない。寝て起きたものの、ずっと酔っ払ったままだからだ。風呂も入ってないし髭も剃ってない。もう会社に行かなくていいのだから、そんな面倒なことは全て辞めてしまった。髭の濃い五郎はまるで熊だ。霧のかかった頭でスマホをいじり、風俗の日中割引を探す。アルコールが回り、五郎の手が滑って、どこかのサイトをクリックしてしまった。  スマホが光って、目の前にバタくさい顔の美女が現れた。なぜか隣に小さな羊を連れている。なかなかグ

          ヒゲとボイン

          パイドン 古代ギリシアにて

           紀元前399年3月。アテナイにある石牢。いつものように裸足の先生は、先ほどまで友人らと、「死の練習」について話をしていました。「死の練習」とは、肉体を捨ててロゴス(論理や言語)だけになることです。しかし、それは、難しいことでした。肉体と魂の分離である本当の死を別にすれば。先生は、良き希望なのだとおっしゃいました。が、ピュタゴラス派のとケベスがそれに異議を申し立てて、結局議論は行き詰まりになってしまいました。今、先生は、沐浴を済ませ、ベッドに腰掛け、大きなその石工の手で私の頭

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          少年と白い老人

           僕は10歳から14歳まで少年兵だった。  ある日、大人たちがやってきて、僕をコンゴレアメタルのNGO施設に連れてきた。部屋はきれいで、食べ物があって、僕と同じような子がたくさんいた。  昼間、僕らはサッカーをする。ちゃんとしたルールは知らないけど、みんなでボールを蹴って、グラウンドを走りまわる。みんな大声を上げ、笑い合う。読み書きも教わり、将来は自動車の整備工になりたいと思っている。でもそんなことあるのかな。僕は施設の敷地から出ない。べつに出ちゃいけない規則があるわけで

          少年と白い老人

          雨があがったら (ファンタジー)

           「雨があがったら」    土砂降りの中、農夫は矢切族の渡しに着いた。日暮れだった。渡し船が係留してある桟橋の近くには粗末な小屋があり、煙突からは煙が上がっていた。  その待ち合いの小屋の引き戸を開けると土間で、手前に土の釜戸があり、奥の方には床が張ってあった。そこにはマントの男と大きな牛男がむっつりと座っていた。  小さな囲炉裏が切ってあり、熾き火が牛男の顔と額から突き出た恐ろしい角を照らし出している。隣の男のフード付きのマントには、よく見ると、星や月を象った細かい刺しゅ

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