【ショート読み切り】保証人に判を押しますか?離婚届に判を押しますか?
ついつい相談したくなる、バリキャリ先輩編 第1弾
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夫に、1000万円の借金があり選択を迫られている。
・銀行の借入契約書に判を押すのか
・離婚届に判を押すのか
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旦那は自衛官。
私は新卒からずっと正社員。
23歳で結婚して、子供は3人。
高校生娘、小学生息子、3歳の息子。
の5人家族で、アパート暮らし。
贅沢な暮らしはできないけど、頼りになる夫が家計を管理してくれている。
みんな、優しいパパが大好き。
素敵なパートナーと出会えて、私は本当に幸せ。
だった…。
5つ上の離婚したバリバリのキャリアウーマンとのランチ中、他愛もない話題で盛り上がっていた。
「子育てにはお金がかかるねー。一戸建てが夢なんだけど、今月もきつきつー」
「夫さん、自衛官ってことは公務員でしょう。あなたは、子供ができる前から正社員で働いている。軽く見積もっても、2人合わせて年収900万円以上じゃない?それに、児童手当だって、3人もいたら、1番多い時で4ヶ月に一度20万円とか?結構まとまったお金も入るじゃない。医療費も今タダだし。高校も公立なら、学費も国の子育て支援で毎月ほぼタダじゃん。お金ないなんて、女優が『私、全然食べ物とか気にしたことないんですー』って言ってるようなもんにしか聞こえないよー(笑)」
「児童手当って何?そんな通知きてないよ」
「うそー!あ、そっか。公務員は、給料と同じで自分の口座に振り込まれるからかな」
家計は、夫に任せっぱなしだった。
今月は厳しいなーと、いつもお金がないない言っていたけど、聞けば聞くほど、余裕じゃん。
念願の一戸建てが、建てられるかも。
夫に、相談してみたら、逆に怒り狂った。こんな夫は、初めて…。
「誰だ!その女!人の家のことに、足突っ込みやがって!お前はその女を信じるのかー!」
って、言ってバリキャリ先輩に殴り込みに行くような臨戦体勢。
もしものことがあったら、バリキャリ先輩に申し訳ないと、ことの事情を話したら…
「は?それって、わからないのを良いことにお金使いまくってるんじゃないの?私が話してやる!連れてこい!」
と、これまた臨戦体勢に。
そこでやっと目が覚めた。
夫が居ない時間に、部屋の中をくまなく捜索。
複数の消費者金融からの督促状や、借用書。友達からも借金しているみたい…。
全部まとめると、1000万円を超えていた。
貯金じゃなくて、借金まみれ…。
そういえば、ア◯ムから私宛に電話きたっけ。「なんなのよ!」って思って電話きったけど。自分の名義で借りられないっていうこと?それで、勝手に私名義で?
ことの事実を、旦那の親に相談に行ったら
「あんなにお金を貸したのに、まだあったなんて…。あなたは、いったい何をしていたの?あなた何にお金使ってるのよ!ちゃんとしないとダメじゃない!うちにももう貸せるお金なんてありません。主人に内緒で、退職金もあげてるんだから」
私たちは関係ないの一点張り。
というか、さらにあったってこと?
退職金って…数百万円とかそんな額だよね…。
夫に確認するしかない。嫌な事なんて知りたくないけど、聞くしかない。
「君に嫌われるんじゃないかと思って言えなかった。本当にごめん。結婚前に友達にお金貸したらにげちゃって。後輩がどんどん入ってくると、休憩の時とか、先輩がお金出さなくちゃいけなかったりとかさ。生活大変だなんて言えないだろう。心配かけると思ってどうしても言い出せなくて。これから、どうすればいいかな。俺にはお前しかいない。いなくなったら、死んじゃうよ」
私たち家族のことは大切に思ってたんだ。でも、猜疑心がどんどん襲ってくる。
どうしていいかわからず、バリキャリ先輩に相談した。
「まずは、専門家に相談だと思うけど。お金がかかるとか、今更言ってる場合じゃない。後は、消費者金融は、利率も高いから早めに銀行に切り替えた方がいいかな。でも、家を借りるとかではないから、審査がおりるかどうか…。私の知り合いに声をかけておくから、後で連絡させるね。でも、離婚が先なんじゃない?あなたに支払いの義務はないもの。でも、保証人になったら違う。あなたにも返済義務が発生してしまう。払わなくてもいい負債を背負うことになるの。良く考えて」
「てかさ、独身の頃の借金っていうけど、20代前半の若い時にそんな貸せるお金ある?ボーナス何回繰り返した?単純計算で、毎月5万円の返済してても、一年で60万円。んで、15年払い続けたら900万円だよ。さらに親からお金借りてまだ1000万円って…。旦那の言い分だけで、そんな額になるなんて、考えられないんだけど」
確かに…。何も考えないで、鵜呑みに信じていた。
でも、知りたくない。聞いて辛い思いするのはどうしても怖い。
離婚なのかな。でも、子供はパパに懐いてるし。世間的にも、子供のためには両親が揃ってた方がいい。それに、結婚はやっぱり女の幸せに見られるというか、離婚したら欠陥人間に見られそうで…。
バリキャリ先輩は、離婚を勧めてくる。自分も離婚してるから、離婚に対してのハードルが低いんだろうな。
「離婚したら、ひとり親の支援もあるし。近くに住めば、助け合いはできると思うの。夫の作った借金を、あなたは背負わなくても良いと思わない?法律上の籍を抜くだけで、全然違うんだよ。色々な選択肢があるの。しっかり考えてみて。どんな選択でも、私は応援するから」
銀行の人に呼ばれて、1人で会うことに。夫にもきて欲しかったけど、どうしても仕事があって行けないと言う。
「これで、資料は全部ですか?で、夫さんは来ないと…。何でこうなったんですか?」
夫に言われたままを話す。
「これで納得した?一緒に住んでいるのに、わからないは通用しないんですよ。あなたが作った借金なんじゃないの?正直、こちらでも相当厳しい。夫さんはすでに信用を損なっているから、銀行でお金を借りるなら、保証人となるあなたが頼りです。でも、ただでは貸せない。担保が必要です。土地や財産。それを提示して下さい」
夫に話して、夫の家を担保に入れて貰うべく2人で頭を下げに行ったが、そこで初めて姑が舅に内緒で退職金で、以前の借金を肩代わりしたいることが発覚して、舅が激怒。代々ある家を担保になんてうちではお断りだ!と、門前払い。
考えたあげく、私の生まれ育った両親が建てた家を担保にするしかなかった。担保のお願いには夫も来てくれて、2人で頭を下げに行った。両親からも離婚を勧められたけど、また考え事が増えるのは耐えられない。1人で子供を育てる自信がない。逆に担保に入れる入れないで、父と母が大喧嘩。私の親が離婚しそうになって苦しかった。それでも、何とか私の実家を担保にしてくれることに渋々了解してくれた。
銀行借り入れの日。
バリキャリ先輩は、「私も同席させて!」と言っていたが、丁重にお断り。
その日は、夫の両親、私の両親、そして夫がお金を借りた人が同席していた。視線が全部私に集中している。ピリピリとした重苦しい空気…。
・銀行の借入契約書に判を押すのか
・離婚届に判を押すのか
沈黙の中、全員が、私の動きに注目している。
時間を作って、沢山の人がこの場に来てくれている。ここで迷っていたら責められるのが目に見えている。仮に土壇場でやっぱり辞めます!なんて、そんなことしたら、お金を貸してくれた人にも申し訳ないじゃない。
私は急いで借り入れ契約書の保証人の欄に判を押した。
「夫さん。あなたが今一番感謝しなくてはいけない人は誰でしょうか?」
銀行員さんが訪ねた。
「えっと、これまで私を信用してくれてお金を貸してくれた友達や両親でしょうか…」
「違う!!あなたが感謝しなくてはいけないのは奥様ですよ!」
そう言われた瞬間涙が流れた。
でも、逆に夫への気持ちは冷めてしまった。
「これから、二人で頑張ろうね」なんて温かい気持ちになんてこれっぽっちもなれない。
憎しみと悲しみが、潜在意識にこびりつく。
(8万円の返済金額があれば、家が建てられたじゃない…)
夫は、それ以来職場で第一線を外された。それでも、さすが公務員。給与の補償はされている。
「居づらい。辞めたい。こんなの苦しいよ」
「お前も俺をそんな目で見るのか。俺は独りぼっちだな。お前は、俺をやる気にさせないといけないのに」
と私に、弱音を吐いてくる。
でも、私は蔑んだ目をして夫をみることしかできなくなった。
「俺が悪いんだもんな。ごめんな。離婚したいなら、俺はとめないよ。でも、子供がみんな大きくなったらね。払い終わったら俺はとめない」