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自称“本質を知る人”に要注意:真の知見とは何か?

はじめに:なぜ“本物”を見分けるのが難しいのか

私たちはしばしば、「本質がわかる」「私こそが本物を理解している」という自信満々な人物に出会う。しかし、世の中の専門分野は膨大な研究と実践に支えられた知見の集積であり、本物を自称するだけでは説得力に欠けるのが実態だ。

  • プロジェクトマネジメント(PM)を例に取ると、PMI(Project Management Institute)やAXELOS(PRINCE2などを管理する組織)といった専門機関が何十年も研究し、何百万件ものプロジェクト事例を分析しながら、体系的に知識を更新している。

  • アジャイル開発も同様で、シリコンバレーのIT企業をはじめ、世界中の現場で繰り返し実験・改良されてきた歴史がある。

こうした蓄積をまるで無視し、「俺のやり方が正解」「本質をすでに掴んでいる」と語る人がいれば、それは自分なりのバイアスに囚われていないか要注意だ。本物の知見は“自慢”や“一発芸”のような形で現れるのではなく、多くの人の試行錯誤や議論の積み重ねによって磨かれてきたからこそ“本物”足り得る。



1. 本物とは「磨かれた知見」のこと

1-1. 膨大な研究と実践が裏付ける

本物の知見には、時間をかけて築かれた研究・実践・検証の積み重ねがある。たとえば、PMIのPMBOK(Project Management Body of Knowledge)は数年ごとに改訂され、世界中のプロジェクトから得られた教訓が集約される。これは単に理論ではなく、無数の失敗や成功のケーススタディが反映されている。

  • 研究の幅: 大学の研究者、民間企業のR&D、人材育成機関など、さまざまなプレイヤーが知見の蓄積に貢献している。

  • 実務者の知恵: 机上の空論ではなく、現場の失敗を踏まえた改善が理論にフィードバックされる。

1-2. “一つの成功体験”だけでは不十分

「私の体験ではこれが最強」「このやり方だけが真の正解」という語り口は、一見説得力があるようでいて、多くの場合自分の成功事例に過度に依拠しているだけだ。本物の知見は多様な文脈(規模、業界、国、文化)でも通用するかを検証するプロセスを経てこそ広く評価される。


2. 「本質を理解している」という言葉への警戒

2-1. 自称「本質派」のリスク

「本質を捉えている」「私こそが真実を知っている」と強調する人には、以下のリスクがある:

  1. 自分の視点が唯一無二と錯覚している

    • 世界中で議論されている知見を無視し、自分の経験や勘だけで絶対視してしまう。

  2. バイアスの存在を認めない

    • 誰もが何らかのバイアスを持ち得るが、それを認めず否定してかかる。

  3. 批判や他人の意見を封じる

    • 「本質をわかっていない者の意見は聞かない」という態度が生まれる。

2-2. 本当の意味で“本質”を掴むためには

本質を語るにしても、常に他者の知見を参考にし、検証可能な形で発信・共有する姿勢が求められる。たとえばPMIやAXELOSのように、定期的にメソドロジーやガイドラインを改訂し、誰でもアクセスして意見を述べられるプロセスを持つことが大事だ。


3. ガラパゴス化の危険──海外の研究を知らないままで良いのか?

3-1. 日本人特有の「自国のやり方が一番」バイアス

日本は島国であり、「日本独自のやり方」を尊重する傾向が強い。もちろん、ローカルの文化や環境に適応すること自体は素晴らしい。一方で、世界的に実証された知見を取り入れない“ガラパゴス化”にはリスクがある。

  • 世界標準から取り残される: グローバル企業と協業する際、標準的なフレームワークや手法を知らないとスムーズに連携できない。

  • イノベーションの停滞: 海外で成功している新しい概念や技術を学ばなければ、同じ失敗を繰り返しやすい。

3-2. 学びを深めるほど“自分は何も知らない”と気づく

学べば学ぶほど、世の中には自分が知らない膨大な情報と先行研究があることを痛感するはずだ。そうした謙虚さがないまま「私こそが本質を理解している」と言い切ってしまう態度は、本物とは真逆の方向にある。


4. バイアスを見抜く視点

4-1. 相手の知見の裏付けを探す

「自分の経験がすべて」と言う人に遭遇したら、どのような裏付けや文献、他の専門家の合意があるのかを確認するのがいい。

  • 研究論文や学会発表の存在: きちんとした機関により検証されているか。

  • 他の実務家の事例: 特殊なケースではなく、複数の現場で活用されているか。

4-2. 多様性のあるコミュニティへの参加

バイアスから逃れるには、多様なバックグラウンドを持つ人々が集まるコミュニティで意見交換することが有効。例えば、海外のカンファレンスやオンラインフォーラム(英語圏を含む)に参加すれば、自分の視野がどれほど限られていたかを認識する機会が増える。


5. 「本物」に追いつくために大切なこと

5-1. 謙虚な姿勢と学習意欲

本物に近づくためには、学べば学ぶほど自分の未熟さを認識できる態度が欠かせない。

  • 新しい情報を常に取り入れる: 定期的に国際的なカンファレンスや著名な専門書をチェック。

  • 失敗事例を大切にする: 成功だけでなく失敗からの学びを組織やコミュニティで共有する。

5-2. 実践と検証のサイクル

理論を学んだら実務で試し、結果を検証する。そして必要に応じて調整や再学習を行う──このサイクルを繰り返すうちに、より確度の高い知見が得られる。単なる座学や一度の成功体験だけでは「本物」に近づけない。


おわりに:真に磨かれた知見との出会い

「本物を見分ける」ためには、歴史を踏まえ、学術研究や実務の蓄積を尊重し、そして自分の視野が狭いことを自覚するというプロセスが不可欠だ。何十年、何百年にもわたる試行錯誤の結果を軽視しては、“本質”に到達することは難しい。

  • 自分が「本質をわかっている」と思い込む前に、どれだけ多くの専門家や実務家が似た主張をしているか、裏付けとなるケーススタディや論文を確認しよう。

  • 知らない海外の動向や最先端の研究を積極的に取り入れれば、日本のガラパゴス化を避け、世界標準と比較したときの強みと弱みを客観的に把握できる。

最終的に、“本物”は時間と他者の検証に耐えることで浮かび上がる。個人の「自分は知っている」という言葉よりも、世界中の共同体が積み上げてきた知見に耳を傾けることこそ、真の本質に近づく道と言えるだろう。


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Larai WLURY (ウルリー・ラライ)
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