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Lifestyle|17歳、フィンランドからの手紙 〈07.フィンランド語〉

小さな頃から森が身近にある日々を送り、いつの日も自然とともに過ごしてきたcocoroさんは昨年の夏、憧れの地・フィンランドへひとり旅立ちました。渡航から1年が過ぎた今、18歳になった彼女は何を思い、何を感じているのでしょう。まっすぐに見つめたフィンランドを綴ります。

Moi(モイ)!cocoroです。

夏が終わり、季節が少しずつ変わってゆくのを感じる日々、皆さんいかがお過ごしでしょうか。私は日本で夏休みを過ごした後、8月上旬にフィンランドへ戻り、早速に高校の新学期がスタートしました。優しく降り注ぐ暖かい太陽の光。その光を浴びてきらきらと輝く美しい湖。懐かしい草木やベリー、大自然の匂い。1年前の8月、ひとりフィンランドへ渡り、新しい暮らしに胸を弾ませていた頃の記憶が自然と蘇ってきました。

家の近くの湖にて

空港まで迎えに来てくれたホストファミリーと2か月ぶりに再会し、お互いの夏の思い出を話しながら、家路に着きました。泳ぐのが大好きなホストマザーは、夏の間、毎日のように湖へ子供たちと泳ぎに行ったそう。まさにフィンランドならではの夏の風物詩ですね。

そして、フィンランドの夏の楽しみと言えば、ベリー摘み。毎年7月から8月になると、どの森も地面がブルーベリーでいっぱいになります。

ベリーは冬の間も食べられるように
砂糖をかけてそのまま冷凍しておく
ベリー摘みの必須アイテム
下からすくうようにして使うと、
ベリーだけを一度にたくさん採ることができる

採れたベリーでジャムやジュース、ケーキを作るのは定番。私も友人と一緒に森へベリーを摘みに行き、収穫したてのブルーベリーでタルトを作りました。できたてのタルトと、お菓子やフルーツが入ったかごを手にピクニックへ。心に残っている今年の夏の思い出のひとつです。

友人と一緒に作ったブルーベリータルト

さて、今回のコラムのテーマは“フィンランド語”。
「フィンランド語ってどんな言葉?」というところから、現地の人々に聞いた母国語への想い、実際にフィンランド語を学んでいる私が感じることをお伝えしていきます。


フィンランド語は“かわいい”

フィンランド語の話者数は約500万人。とてもマイナーな言語なので「フィンランド語ってどんな言葉?」と思う方がほとんどだと思います。

フィンランド語にはアルファベットに加えて、英語にはないä、ö、åという文字があります。発音の仕方はというと、ほぼ日本語と同じでとてもシンプル。例えば「りんご」という意味の「omena」は、そのままローマ字読みで「オメナ」と読みます。

日本でフィンランド語は、“かわいい言葉”としても知られています。例えば、「こんにちは」はmoi(モイ)、うさぎはpupu(ププ)、おばあちゃんはmummo(ムンモ)、コショウはpippuri(ピップリ)、木はpuu(プー)、ドーナツはmunkki(ムンッキ)。フィンランド語では、このような「pp」「mm」「kk」という促音(「っ」で表されるつまる音)、そして「uu」「aa」「ii」といった長母音(母音を長く発音する音)が多く見られます。この発音ルールが多くの外国人を悩ますのですが、同じ発音の特徴を持つ日本語を話す私たち日本人からすると発音が簡単で、パ行やマ行の言葉がかわいらしく聞こえるのでしょう。

ちなみにムーミントロールはフィンランド語で
muumipeikko(ムーミペイッコ)
こちらもまた響きがかわいい!

そんなかわいいフィンランド語ですが、実は世界で最も難しい言語のひとつと言われることも。その理由のひとつが15種類ある格変化です。例えば「家」という単語。日本語では「家に」「家で」「家を」「家の」というふうに助詞を付け足すだけですが、フィンランド語ではこれがとても複雑。「talo / 家」から「taloon」「talossa」「taloa」「talon」…というふうに、ひとつの言葉の語尾が何通りにも変化します。そして複数形も含めると15通りの2倍、30通りの違った格変化があるのです…!

知り合いのおばあさんからいただいた
トーベ・ヤンソンの本
まだフィンランド語で本を読むのは難しいけれど
早く読み終わりたいな


フィンランド語からの気づき

フィンランド語はとてもユニークで“特別”な言葉だと、私の友人は言います。ヨーロッパの他の多くの言語はかなり似ていますが、フィンランド語は数少ないウラル語系の言語のひとつ。そしてフィンランド語はフィンランドでフィンランド人だけが話す小さな言葉。でもだからこそ、フィンランドの人々は母国語を心から愛していて、誇りを持っているのです。

kirja(キルヤ)は本、
kirjasto(キルヤスト)で図書館という意味

フィンランド語の勉強を始めて1年。その間、私は机に向かってひとりで勉強したことはなく、常に人々との触れ合いのなかでフィンランド語を学んできました。今ではフィンランド語で学校の授業を受け、友人たちと語り合い、現地の人々と心を通い合わせ、フィンランドでフィンランド語を話して生きています。

タンペレの市場にて

どの国の言葉にも、それぞれその国の歴史や文化、そして人々の価値観や生きる姿が映し出されていると、私は思います。だからこそ言葉を学ぶことで、同時にその国の多くを知ることができるのです。フィンランドは「森と湖の国」と呼ばれるほど美しく豊かな自然で溢れ、古くから暮らしやライフスタイル、人々が話す言葉にも、自然の存在が強く根付いてきました。そのためフィンランド語には、自然に関連する美しい言葉や面白い慣用句がたくさんあります。

例えば「雪」という言葉はフィンランド語でlumi(ルミ)ですが、ふわふわの雪をhöttö(ホット)、湿った雪をnuoska(ヌオスカ)、固くなった雪をajolumi(アヨルミ)、枝や葉っぱに付いている雪をkuura(クーラ)と呼びます。そして、tuisku(トゥイスク)は吹雪、みぞれはräntäsade(ランタサデ)というふうに、雪の降り方や雪の結晶にもたくさん名前があるそう。降ったばかりの雪、viti(ヴィティ)は真っ白でさらさら。氷が混じった雪、pakkaslumi(パッカスルミ)は太陽や月の光を反射して、まるで何千ものダイヤモンドが一面に広がって輝いているように見えます。

日本語にもフィンランド語と同じような共通点があるのではないでしょうか。四季折々の美しい姿を見せる日本の豊かな自然。ずっと昔から、日本人は自然に親しみ、自然を愛し、自然について歌を詠み、自然とともに生きてきました。だからこそ日本語にもフィンランド語と同じように、自然の繊細な表現がたくさんあり、そんな日本語を話す私たち日本人は、フィンランド人と同じ感性や心の感じ方を持っているのかなと、私は感じるのです。

フィンランドに書道セットを持参。
友人がとても喜んでくれました。

そして、フィンランドで暮らして改めて気づかされたのが、日本語の美しさ。やわらかくて優しくて、どこか懐かしい音の響き。繊細で、複雑で、曖昧な表現。ひとつの平仮名や漢字でさえ、そこに込められた強い想いや美しい情景があり、他の国の言葉では完璧に訳せない言葉や言い回しがたくさんあります。以前は気にしたことさえなかったけれど、フィンランド語の学びを通して、自分の母国語である日本語の素晴らしさに改めて気づき、感動し、そして日本人であることを誇りに想っています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次回のコラムもお楽しみに!