Design&Art|デザインの眺め〈05.想像ふくらむ北欧ヴィンテージ食器〉
アアルト大学でデザインを学ぶため、2年間のフィンランド生活を経験した優さん。帰国後もデザインリサーチャーとして、さらに活躍の場を広げています。「デザインの眺め」では、フィンランドのデザイン・建築についてさまざまな切り口で語っていただきます。今回は、自然からインスピレーションを受けて生まれた、優さんお気に入りのヴィンテージ食器についてのお話です。
フィンランドでの生活には、いつもそばに自然がありました。部屋の窓からは、刻々と移り変わる色彩豊かな空の景色。一歩外へと足を踏み出せば、風にざわめく白樺の木々と鳥のさえずり。さらに足をのばすと、遥か彼方まで続く水平線とおだやかな波のゆらめきが。
それらの自然は古くから創造のインスピレーションにも繋がっていたようで、フィンランドのヴィンテージプロダクトには、自然そのものがモチーフとなっているものが多くあります。また、それらの多くは、モチーフそのものがプロダクトのシリーズ名称となり、今も親しまれています。
フィンランドの暮らしに潜む自然。私がフィンランドのヴィンテージプロダクトを好きになった理由がここにあります。デザイナーはどんなものからインスピレーションを得て、どんな気持ちでこの名前をつけたのだろうか、このプロダクトをこれまで手にしてきた人たちも同じ風景を思い描いていたのだろうか、とさまざまな想像のきっかけを与えてくれるのです。
今回は、私がフィンランドから持ち帰ったヴィンテージ食器の中から、美しい自然をモチーフとしたものを紹介します。
Tundra(ツンドラ)
ブランド:ヌータヤルヴィ
デザイナー:オイヴァ・トイッカ
製造年:1971-1972年
フィンランドを代表するガラス作家、オイヴァ・トイッカによる、「ツンドラ=凍原」をモチーフとした透明な器。ガラスの表面には10種類以上の異なる模様がリズミカルに描かれており、わずかな凹凸が光を美しく反射します。雪の結晶や森に生息する苔を彷彿とさせるデザインが、フィンランドの冬の森を思わせて、気持ちまで涼しくなります。冷たいお惣菜やアイスクリームなどがよく合い、これからのシーズンに使いたくなる食器です。
Luna(ルナ)
ブランド:アラビア
デザイナー:カイ・フランク
製造年:1971-1984年
「フィンランドデザインの良心」と称されるカイ・フランクによって生み出された透明なプレート。ルナはラテン語で「月」のこと。その名の通り、月がモチーフとなっています。一見とてもシンプルなこのデザイン、手に取ると縁が肉厚で柔らかな丸みがあり、カイ・フランク特有の機能美が感じられます。私が持っているのは手のひらサイズの小ぶりなもので、洋菓子はもちろん、和菓子にもよく合います。このプレートを手にすると、そこにフィンランドの丘の上でよく眺めていた満月の情景の記憶が重なるのです。
Ruska(ルスカ)
ブランド:アラビア
デザイナー:ウラ・プロコッペ
製造年:1961-1999年
ルスカとはフィンランド語で「紅葉」のこと。木の葉が秋に美しく色づくことを意味する単語を持っているのは、世界中で日本とフィンランドだけだそうです。季節の移ろいを楽しもうとする感性は、両国共通なのでしょうか。ルスカシリーズの魅力は、ひとつひとつ釉薬のグラデーションが異なり、どこか民藝のような雰囲気があること。懐かしさを感じる落ち着いたデザインが日本の食卓にもよく合います。
Meri(メリ)
ブランド:アラビア
デザイナー:ウラ・プロコッペ
製造年:1975-1981年
フィンランド語で「海」を意味するメリ。デザイナーはルスカシリーズと同じウラ・プロコッペです。メリシリーズは、私がヘルシンキでよく見ていた海のイメージそのもの。静かな水面の様子と、深い青色の濃淡が見事に表現されています。メリのカップでコーヒーを飲むと、日常的に散歩をしていた海辺を思い出して、たまらなくフィンランドに帰りたくなります。
Aalto Vase(アアルトベース)
ブランド:イッタラ
デザイナー:アルヴァ・アアルト
製造年:1937年-
最後に紹介するのは、おなじみのアアルトベース。初期のヴィンテージ品は全て木型の中にガラスを流し込んで製造されていたため、金型のものよりもガラス表面の揺らぎが多く、よりなめらかな曲線を描いています。水を張るだけでも、まるで波が揺らいでいるような美しさがあり、どこかフィンランドの水辺を連想させてくれます。アルヴァ・アアルトに由来して名付けられたアアルトベース。実はアアルトはフィンランド語で 「波」という意味も持っています。
家具や雑貨、テキスタイルなど、日本でも根強い人気を持つフィンランドのヴィンテージプロダクト。名前の由来やインスピレーションの種を探ってみると、作り手の見ていた風景が想起され、自然とのつながりを感じさせてくれます。そして、その風景が使い手の想像によって時代を超えて共有されていくって、なんだか素敵ですよね。
プロダクトに内包されたストーリーの魅力はもちろん、使い手となることで自分がそのストーリーの一部となれること。それがまさしくヴィンテージプロダクトの醍醐味であり、世界中の人々が魅了されてしまう所以なのではないでしょうか。