主体と客体が入れ替わる下克上
主体と客体が入れ替わる時
自分のために頑張る
自分の道を拓くために
母はもちろん
父も音大受験には反対だった
だが娘の教育のキーパーソンは母
母を落としてしまえば大丈夫だと踏んだ
音大出身の部活の顧問にも相談した
「やっぱり親御さんの協力がないと難しい」と言われた
それは分かっていた
いくら合唱部で頑張っても駄目だ
音大受験をするには
受験生を受け持つ力のある先生のレッスンを受けなければならない
週3のレッスンで
大体合格するまで1千万はかかると聞いた
ここまでかかるのは
片田舎から東京への交通費を含むからだ
我が家は中流家庭だ
お金持ちの道楽ならまだしも
中流家庭が音大になぞ行っても場違いだと
両親は反対した
私の初めての自己主張は間違ってるのだろうか
あれだけ両親が反対するのだ
それでもよかった
たとえ劣勢でも
「私はこれがやりたい!」と自己主張ができて
今まで味わったことのない幸福をおぼえていた
子どもの頃は
ピンクや赤の服を否定されて
スノッブなデザインの紺やグレーを着せられていた
そうやっていくうちに
徐々に欲しいものを口にしない人間になっていった
いつも母の顔色を伺う人間になっていった
その頃の客体だった自分とは
もうさようならをしたかった
反対を押し切ろうと説得していくうちに
手段と目的がさかさまになっていたかもしれない
でもそんな事は問題だと思わないほど
自我が芽生えた私は頑なに
音大しか受けないと言い続けた
そして
思わぬ形で好機が訪れた
それは奇しくも三者面談だった
担任が母を説得して
受験用のレッスンを受けるように言ってくれた
担任のお姉さんは音大出身者だったので
今なにが必要か
彼は分かっていたのだ
母は担任の説得に落ちた
父は最後まで反対していた
母は使えるコネをフルに使いまくり
ピアノと声楽の一流の先生を準備してくれた
それから2年間
1日最低3時間は練習し
週3でレッスンに通った
3年生になってからは
月2で東京の先生のレッスンを受けた
今までやっていたように
母を喜ばせるためではなく
自分のために頑張れた
そして私は無事
第一志望の音大に合格した
高校受験の合格が
比較対象にならないほど
嬉しかった
やっと自分の人生が拓けたと感じた