ここで働かせてください!
「嫌だとか、帰りたいとか言わせるように仕向けてくるけど、働きたいとだけ言うんだ。辛くても、耐えて機会を待つんだよ。」
千と千尋の神隠し
冬になる頃には
私はすっかり元気になっていた
編入してからやりたい事を
描けるまでに回復していた
そんな折
ゼミの面接があるという報せが届いた
なんでも希望しているゼミの倍率が
10倍を超えているから面接で決めるとの事だった
これはピンチだ
この大学にはプレゼミがあって
2年生のうちからある程度ゼミができあがっている
プレゼミを受講していた内部生が有利になるのは明々白々
しかも10倍なんて関門今まで通った試しがない
私は短大の講義を休んで
ゼミの面接を受けに行った
大学には初めて足を踏み入れた
全員がキラキラ大学生に見えて
逃げるように早足で
研究室がある棟に向かった
そして
研究室に続く
キラキラ大学生の列のなかに入った
さすが10倍の倍率だけあって
キラキラ大学生たちは大勢いた
ただただ必死だった
そのゼミに入るためだけに
この大学を選んだのに
ゼミに入れなかったら意味がない
合格した学科のほかのゼミには
まったく興味がなかったのだ
そしてなにより
短大の図書館で手に取った先生の著書
そのなかに書かれていたのは
私が専攻したい
ジェンダーとパートナーシップそのものだった
ぜひともこの先生に指導を受けたかった
"現代日本のジェンダーを研究したい。
先生の著書を読み、感銘を受けた部分はここで、私はこう考察した。"
初めて会う品の良い先生にたじろぎながら
切々と面接で訴えたが
面接では暗に定員オーバーだからと
途上国のジェンダーのゼミを勧められた
きっとプレゼミ生だけ受け入れるのだと感じた
面接の手応えではたぶん落とされる…
今できる事はないか
そう思って
研究室宛てに4,000字程度のメールも出した
それはゼミの志望理由書というより
あれは卒論の骨子だった
コミュ障の私には
面接よりメールがあっている
液晶越しに
湯婆婆を前にした千尋のように
ただただ真っ直ぐに気持ちを伝えた
「ゼミに入らせてください‼︎」
そしてなんとか
ゼミの選抜試験に合格した
編入後に描いた野望に
やっとひとつ近づけた
この大学で私はやりたい事があった