父にきゅん
父が退院した。
待合室で待つ私の元に、両手に大きな紙袋を下げニコニコしながら近寄ってきた。
なんだ、全然元気じゃん。
入院で足腰弱ると聞いていたが、変わらずスイスイ歩いてきた。
よかったね〜、普通に歩けてる。
『きっと、刺身が良かったんだな』
刺身?なんのことだろう?
あっ、そうだ!入院前に先生がおっしゃってた。
美味しいものたくさん食べて体力をつけて。特に赤身のお肉とかお刺身。
それを聞いた母が、せっせとお刺身買ってたなぁ。
うん。きっと、そうだね。お刺身のおかげだねー。
車の中でそんな話をしながら家の前まで来た。
じゃあね。
急いで仕事に行かなくちゃ。
車から降りた父が、窓に顔を近づけ笑顔で『ありがとう』と言う。
車を発進させ、バックミラー越しに小さく手を振りながら私を見送る父を見た。
あー、もっと一緒にいたかったなぁ。
あれ?
これって、かわいい(若しくはあざとい)女子がデートの最後にやるやつじゃない?
そんなあざとかわいいおじいさんに、まんまと“きゅん”してしまった。
あんな人だったかなぁ。
輸血をすると人格が変わるという話を聞いたことがある。今回の入院で、父は6日間輸血をしていたらしい。
かわいい女の子の血液をもらったのかもね。なんて思いを巡らせた。
病院のスタッフの皆様はじめ、多くの人に支えられ助けていただいた。その中には、血液を提供して下さった方のように一度もお会いすることがない人もいる。そして、温かい言葉をかけて下さった方々。
たくさんの人が繋がってくれたんだな。
そう、全て繋がってるんだよね。
感謝しかない。
ありがとうございます。