ジャム滴るパン切れだけで(モンゴルの朝食/幸福)
あなたは普段、朝ごはんに何を食べますか?
時間がないので食べません。という人も多いのではないでしょうか。当の私も最近朝ごはんを食べずに出社することが多い。
健康のためには食べた方が良いと分かってはいるのだけれど、時間はないし家を出る時間はまだそんなにお腹が空いていないし…(始業して1時間くらい経った頃に爆音でお腹が鳴り出すオチ)
そんな義務感に駆られつつも蔑ろにしていた「朝ごはん」に新たなインサイトを与えてくれたのがモンゴル旅行だった。
旅の朝ごはんinモンゴル
普段朝ごはんを食べないけれど、旅行中は食べても良い派の私。
食べても良いと書いたのは、前日の夜たくさん食べていたら大抵朝はいらないけれど、普段の朝より時間があったり宿が朝食付きだったりしたら、ぜひとも食べたいという意図だ。
今回のモンゴル旅は後者で、朝はいつもゲルに差し込む朝日で目覚め、ガイドのアックスとドライバーのパーキーさんとおしゃべりしながら朝ごはんを食べる毎日だった。
時間はたっぷりあったので、アックスはほぼ毎日、朝から野菜と肉を切ってしっかり火を使った手の込んだ料理を作ってくれた。
味付けは肉の旨味と塩だけで、具沢山のスープやお粥?は朝の胃袋にじんわりと沁みる。
日本でもこんな朝ごはんが食べられたらなあと思いながら、こんな旨味の出るヤギ肉やラクダ肉は日本じゃ手に入らないし、そもそもこんな手の込んだ料理を朝から作る時間も気力もないわ…と我に返った。
オーナーのゲルで、「特別」な朝食を
基本的には私・アックス・パーキーさんの3人でご飯を食べることが多かったのだけれど、泊まったゲルのオーナーさんのご厚意で、オーナーさんたちと食卓を囲むこともあった。
そんな時は食事よりもおしゃべりがメインになる。
私はモンゴル語が分からないので、盛り上がるゲルの中に置物然として腰かけ、オーナーさんのリアルな生活空間を観察したり、猫と戯れたり、時折アックスに何の話をしているのか要約してもらうだけだった。
ゲルに招待いただいた時は、オーナーさんがモンゴル式ミルクティと何かしらの食べ物を提供して下さるのでありがたく頂く。
ちょっと面白かったのが、こういうシチュエーションでのパーキーさんのがめつさ。
がめつさ、というとちょっと悪気がありすぎるかもしれないけれど、本当に、遠慮ゼロで、パーキーさんはオーナーさんが出してくれたものをめちゃくちゃ飲んでめちゃくちゃ食べる。何ならおかわりまで要求してしまうレベルだ。
モンゴルの礼儀としてそういうものなのかなとも思ったけれど、18歳のアックスは全くそんな感じではなかったので、世代差なのか単にパーキーさんが大食いでアックスが小食なのか謎なままだった。
ある朝、またオーナーさんのゲルに招待された。
私がゲルに入ったときには既におしゃべりが盛り上がっていて、皆でああだこうだと話しながらお茶をすすってお菓子を食べていた。
私がベッドに腰を下ろすやいなや、パーキーさんが(まるで自分がそのゲルのオーナーかのように笑)卓上の袋に入ったパンを取り出し、ジャムを(またもやまるで自分の買ってきたジャムかと思うほど無遠慮に)これでもかと言うほどビッタビタに塗って手渡してくれた。
相変わらずすごい心意気?だなぁというか、とんでもないジャムの量だなぁと思いながら一口齧ったとき、じわぁぁぁっと心が満たされていくのを感じた。
アックスの手が込んだスープを飲んだ時の胃に沁みわたる感じとは違うのだけれど、たっぷりジャムの甘みが心に養分としてじゅんわり広がっていく。
よく見るとジャムがパンの生地にしみ込んで、パンの下面の何カ所からポツポツと滴っていた。
どう考えても健康的な朝食ではない感じがするけれど、そんなことはどうでもいいくらいの幸福感だった。
そしてふと気づく。
これなら、日常に持って帰れる!!!
もちろんこの幸福感がジャムパンだけでなくて、ゲルの中に満ちた明るい話声やストーブに温められた家畜の匂いの空気にも由来していることはよく分かる。
そんなゲルの空間は持って帰ることはできないけれど、それでもこのジャムパンだけなら日本でいくらでも再現できる。
朝、幸せを感じながら今日も一日頑張ろうと思うために必要なのは、ジャム滴るパン切れだけ。
モンゴルの朝ごはんは、私に朝ごはんの持つ「カラダへの効能」ではなく、「ココロへの効能」を教えてくれた。
栄養がどうだとか生活リズムがどうだとか論理的なことは置いておいて、ただただ幸せを感じるために、朝ごはんを食べよう。