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ホセフとべにはの書簡 1

はじめに
 この物語は、内容の事情を伝えるために、登場人物の異見が過ぎる場面があります。そういったものが苦手な方がいらっしゃるかもしれませんので、ちょっとお断りをしておきます。


べにはへ

 引っ越しは落ち着いた?
 ホセフが「べにはちゃんとお手紙したい」っていうんだけど、住所を教えていい?
 ホセフはひとりっこで、私のように妹が欲しいんだって。私が高校を卒業してヨーロッパに住むようになってから、実はずっとさみしいって。私が二十歳で結婚したでしょ? それからすぐにホセフも結婚したんだけど、それとこれとは全然違うんだって。ホセフには子供がいないし、いっしょに出掛けられる人がだんなさんしかいないから、それで、べにはをランチに一度誘ったけど、そのあとすぐにおばあちゃんの介護で、べにはが引っ越しちゃったのが残念だったんだって。


お姉ちゃんへ

 まだ少しずつ片付けているところです。
 おばあちゃんのことが先で、自分のことは後回しです。そうしたほうが、ここでの生活状況では立ち行きやすいような気がしています。
 お姉ちゃん、もう日本を離れて二十五年だもんね。今でもお付き合いのある女子高生だった時のクラスメイトはホセフさんだけだし、これからもお姉ちゃんと仲良くしてもらいたいから、文通してもいいよ。


べにはちゃんへ

 お手紙出来るようになって嬉しい! たくさんお手紙ちょうだいね! 早速、私の好きな雑誌を送るね! いろんなページに、私の感想を書いた付箋を貼っておくから、いっしょに見てる感じを楽しんでね! 


べにはの日記 (1)

 今日、ホセフさんから雑誌が届いた。所々に、一言書いてある付箋。
「この花束、きれい」マツムシソウ、ウメバチソウ、フジバカマなど、初秋の花。
「かわいい服!」ランダムドットワンピース。
「べにはちゃんに似合いそうな服!」細かい花柄のブラウスとワイドパンツ。
「この服、欲しい!」ドロップショルダートップス。
「快眠は大事。枕を変えたい」タイプの違う三種類の枕の紹介。
「このメイクアップは変」チークがかなり濃い。
「モデルの顔が老けてしまった」ロングヘアをくせのあるミディアムボブに。
「手軽な料理は大好き」ガパオ風ライス。
「材料が好きじゃない料理」ナンプラー、レモングラス、香菜などを使った煮魚。


ホセフさんへ

 ステキな雑誌をありがとうございます。
 田んぼの真ん中に引っ越しました。運転免許を持っていないので、買い物は自転車です。遠くまで行かないと何も買えなくて、本屋さんからも遠ざかった生活です。こうしたプレゼントはとてもありがたいです。おばあちゃんは耳が遠いので、会話を楽しむのが難しいんです。でも雑誌の着物のページなら興味があるかもしれないと思い、飽きた表情を見せるまで、記事をいっしょに見ました。雑誌はこうした役にも立ってくれました。
 お礼に地元の美味しいお米を送りますね。


(つづく)



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