善悪を超越したマルジャーナ【2】/『アリババと40人の盗賊』
アリババがカシムの家に行くと、中庭で若い女奴隷のマルジャーナに会いました。彼女が利口なことをアリババはとても気に入っていました。
カシムの名誉と私達の安全のために、カシムがベッドの上で死んだと皆に信じこませないといけない、そのためにするべきことをしておくれ、とアリババは言いました。
マルジャーナは、薬剤師のところへ三日間通い、体が大変弱っている病人のための強い薬を毎日注文しました。カシムの頭と胴を縫い合わせるため、早朝に年老いた靴の修理屋ムスタファのところへ行き、仕事をしてもらう家へ目隠しをして連れて行くことを銀貨数枚で承諾させ、縫い終えたらその倍の銀貨を渡す約束を果たしたことで、無事にカシムの埋葬をすることが出来ました。
数ヶ月後、カシムの亡骸がなくなっていることに気付いた盗賊たちは、秘密を知っているのは死んだ男の親族に違いないと、まずは自分たちが殺した男の正体を突き止めることにしました。
その翌日、旅人のように変装した盗賊の一人が、その時間に開いていた店の主人のムスタファから、死体を縫い合わせたという話を聞き、銀貨を賭けて、目隠しをしたまま、その仕事をした家にたどり着けるかどうかを試しました。
盗賊は、ムスタファがたどり着いた家の勝手口の戸口に、白いチョークで印をつけました。
市場から帰ってきたマルジャーナはすぐに印に気が付きました。子供のいたずらにしては位置が高すぎました。マルジャーナは両隣の四、五件の戸口に同じ印をつけました。
盗賊の失敗は破滅に繋がることから、失敗を許さない掟によって、印をつけた盗賊は殺されてしまいました。
今度は、かしらであるクオジャ・フサインが、ムスタファのところへ行きました。印はつけず、家の様子を細かいところまで観察して、確実に大丈夫と思ってから、その場を離れました。
かしらは商人になりすまし、二十頭のラバの両脇に、油を運ぶ大きな革袋を下げて、その中に手下全員(38人)を忍ばせ、夜にたどり着くように計らってアリババの家へ行き、宿屋を探していると言いました。
親切なアリババはクオジャ・フサインを泊めてあげることにしました。
マルジャーナはかしらを寝室に案内しました。そのあと、アリババに言われて作っていたスープの灰汁を取ろうとすると、ランプの炎が消えました。油を継ぎ足そうにも、家の油が切れていました。
マルジャーナは中庭に出て、ラバが下げている袋から少しだけ油をもらおうと思いました。明日の朝にお客様に話せば差し障りはないだろうと考えたのでした。
袋の口をゆるめようとすると、中から「今ですか?」と小さなささやき声が聞こえました。そして本当の油が入った袋は二つだけだとわかりました。
マルジャーナは大鍋に二つの袋の油をできるだけ熱く熱し、残りのすべての袋の中へ流し込みました。惨状に気付いたクオジャ・フサインが逃げるのを見届けてから、マルジャーナは寝床に入りました。
クオジャ・フサインは、化粧で顔を変え、あごひげを違う形に整え、商人のふりをして、カシムの店を継いだアリババの息子、ヌレディーヌに近づきました。
ヌレディーヌの信頼を得たクオジャ・フサインは、アリババの家に招かれました。食事に友情を意味する塩を入れないというおかしな客の顔を見て、マルジャーナは顔がこわばりました。盗賊のかしらだと気付いたのです。服の下にベルトにつけた短剣が見えました。アリババを殺すつもりだと察しました。
(つづく)